9.その提案は私のため?
何を話すことがあるのか…。
それが、私にとって幸なのか、それとも―――また不幸なのか。
公爵の考えは私にはわからない。
その気持を抱えたまま私は、公爵に呼ばれた。
執事長のクロードに案内され、扉を開ける。
部屋の中央に置かれたソファには、
先程、広間にいたサビーナとルミナ、そして公爵が並んで座っていた。
私は集まる視線の中で、一歩だけ足を進める。
礼儀は必要ない。立ったまま口を開いた。
「……何か、ご用でしょうか」
「…この子に、私の娘を任せてよろしいのでしょうか?」
すると、口を開いたのはサビーナだった。
任せる―――?
その言葉が、胸の奥でひっかかる。
まるで私が、誰かの世話をする役目を与えられるような…。
それとも、ルミナを"預ける"相手として、ここに立たされているのか。
私がいない間、すでに話は進んでいるようだった。
「こいつは日頃から身の回りのことをしているからな」
公爵はそう言って私を一瞥する。
「……公爵令嬢のくせにな」
その一言で、すべてを理解してしまった。
なぜ、今まで私は捨てられてこなかったのか。
私は"娘"としてではなく、便利に使える存在として見ていたのだと―――。
ここに呼ばれた理由も、きっと同じだ。
「……」
何か言い返すべきなのだろう。
けれど喉がひりついて、言葉が形にならなかった。
「それにこいつだけではない。他の侍女もルミナの面倒を見させる」
淡々と告げられたその言葉が、私の胸に落ちる。
―――ルミナの面倒を見る、他の侍女と一緒に。
やはり私は、最初からその役として、ここに呼ばれていたのだろう。
公爵令嬢ではなく…"新しい娘の世話係"として。
ならば、断ればどうなるのだろうか。
今までと同じ生活に戻れる?それとも―――この屋敷から追い出される?
―――どちらでもいい。
私は重い口を開く。
「……断りま―――」
「貴女が私のお世話をしてくださるの!?」
弾んだ声が、私の言葉を切り裂いた。
思わず声を上げた本人に目を向ける。
そこには、期待に満ちた瞳でこちらを見るルミナがいた。
拒絶も、疑いもない。ただ、嬉しそうに笑っているだけの綺麗な顔。
「…私と同じくらいの歳の子と仲良くしたかったの」
そう言いながら、ルミナは一歩、また一歩と近づいてくる。
そして私の両手を包み込んだ。
小さくて、温かい手。
「……お願い」
ほんの少しだけ声を落として、ルミナは私にしか聞こえない声で囁いた。
「嫌かもしれないけど……ここは、受け入れてほしいの」
その瞳を見て、私は気づいてしまった。
先ほどまでの、何も知らない子どもの目ではない。
ほんの焦りと、必死さが入り混じった目をしていた。
「……」
握られた手をふりほどくことも、必死な瞳をそらすことも、私にはできなかった。
「……わかりました」
自分の声が、ひどく遠くに聞こえた。
「よろしく、お願いいたします。……ルミナ様」
その瞬間ルミナの表情が、ぱっと花が咲くように明るくなった。
「ありがとう!」
年相応の笑顔を見て、私はほんの少し―――ちくりと胸の奥が痛んだ。




