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ムネモスアトリエ  作者: あむ。
1:青年と氷の結晶

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8/23

6話「事故だったはずの場所」

葵の葬儀は、滞りなく終わった。


泣き崩れる人はいない。

怒る人も、問い詰める人もいない。


ただ、皆が同じ言葉を使った。


「事故だったから」


その言葉は、何度も繰り返された。

慰めのように。

納得の印のように。


祐介は、棺の前に立ちながら、

その言葉をどこか遠くで聞いていた。


――事故。


確かに、葵は死んでいる。

遺体もある。

葬儀も終わった。


事実は、揃っている。


なのに。


(……おかしい)


胸の奥で、静かに何かが引っかかる。


思い出そうとすると、

そこだけ霧がかかったように曖昧になる。


事故の“瞬間”。


自分は、そこにいたはずなのに。


誰かが言った。


「祐介くんも、つらかったね。目の前で……」


――目の前で?


「……え?」


思わず声が漏れた。


その人は、少し困った顔をして、言葉を濁した。


「あ、いや……その……ほら……」


そして、結局こう締めくくる。


「……事故だったからね」


また、その言葉。


祐介は、それ以上聞けなかった。


葬儀が終わったあと、

気づけば、足はあの場所へ向かっていた。


横断歩道。

白線。

いつも通り流れる車。


花が手向けられ、

誰も足を止めない。


(……ここだ)


確かに、ここで。


葵は――


思考が、そこで途切れる。


頭の中に残るのは、

“事故だった”という完成された結論だけ。


過程が、存在しない。


「……思い出せない、ってレベルじゃないだろ」


祐介は、ポケットの中の氷に触れた。


冷たい。

だが、不思議と痛くない。


氷が、かすかに光った。


ほんの一瞬。

鼓動に合わせるように。


――覚えていない、だけだよ。


声ではない。

意味だけが、胸に落ちてくる。


「……誰の、だよ」


答えはない。


だが、氷の奥で、

何かが確かに揺れていた。


祐介は、交差点を見渡す。


誰も、疑問を持たない。

誰も、思い出そうとしない。


まるで――

最初から“考えなくていいように”

整えられた世界みたいに。


「……俺だけ、なのか」


違和感を抱いているのは。


その瞬間。


世界の音が、一拍だけ遅れた。


風が止まり、

空気が薄く引き延ばされる。


視界の端に、

“扉の輪郭”のようなものが、

ほんの一瞬だけ浮かぶ。


次の瞬間には、消えていた。


「……今の……」


氷は、静かだった。


何事もなかったかのように、

ただ淡く光を宿している。


祐介は知らない。


それが、

ムネモスアトリエへ至る縁導の前兆だということを。


ただ、ひとつだけ確信していた。


この事故は、

「事故だった」で終わるものじゃない。


欠けている。


――確実に、何かが。

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