Final Chapter ― 次の箱へ
夜が明ける前の埠頭。
劇場は跡形もなく解体され、そこにあったはずの黄金の箱も消えていた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
だが、観客たちは知っていた。
自分が「確かに何かを切り離された」ことを。
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ブリリアン・シャットは、港の小舟にひとり乗っていた。
手元のトランクには、無数のトランプと、数枚の未使用の“招待状”。
そして、その下に**新しい“組み立て図”**が挟まれている。
次の箱。
それは、まだ存在していない。
だが彼女はもう見えていた。
それは、恐怖やトラウマではなく――
「人が、これから見たくないものに向き合うための構造」
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どこか遠くの町で、誰かが“心を隠す”とき、
彼女の箱は静かにその場所に組み立てられていく。
呼ばれていないのに、
必要な人のところにだけ現れる。
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船が岸を離れる。
潮風に揺れる彼女の黒いマント。
誰にも見えないその背中には、
確かにこう書かれていた。
“You are not being cut. You are being opened.”
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数日後。
東欧の山間の村で、謎のテント劇場が目撃される。
観客席は100。
中央には、まだ白布を被せられた新しい装置。
その名前はまだ誰も知らない。
だが、噂は広まっていた。
“それは、切断じゃない。再生のための一線だ。”
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ブリリアン・シャットは、まだ旅を続けている。
切らないために切る。
壊さないために、触れる。
命に届かないために、命のすぐそばへ――
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“The next box awaits.
And someone’s heart is ready.”
– Fin –