第0話 巨人は語り始める
「今日は、何から話して欲しい?」
ウド様が小さく優しい声で発する。
しかし、その声は私たちには大きな音として響く。森の皆はすっかり慣れているから大丈夫。だけど生まれたばかりの動物たちなんかは驚いてしまう。
この森の守り神である、巨人・ウド様──。
私たちにとって唯一の守り神様であり、私たちにとって最高の友人だ。
皆がウド様の声に耳を傾ける。特に小さな子らは目を輝かせて身を乗り出している。その岩肌のようにごつごつとした大きな肩や、膝の上にも皆が並んで座っている。
「これからする話は、俺がこの異世界の辺境で崇められる守り神に転生したことを物語るものだ」
厳しい顔つきと、仰々しい語り出しはいつものこと。けれど、その奥にある優しさを皆が知っている。私たちは何度もこの話を聞かせてもらっている。そうしている内、私は少しずつウド様の物語を書き留めていくと決めたのだった。
これは暴力の連鎖するこの世界の中で、その動かし難い構造に抗い、大逆を犯した、ちっぽけで、大きな、ひとりの巨人の物語である。
では、どこから書き記したらいいだろうか? 色々考えてみたけれど、やはりウド様が日本という別の世界の国から、この世界に転生してこられたあの日のことを書かないわけにいかない。
まずは、「地獄から地獄へと渡った気分だった」とウド様自身が以前に表現されていた日のことについて書いておこうと思う。あのお姿に生まれ変わった日は、私たちにとっては幸運の一日だったけれど、ウド様にとってはどんな日だったか、そのお言葉からして複雑な心境が窺えるけれど……。
「さて、辛い子は迷わず耳を塞いでおくれ」
ウド様は笑い、このように語り始めた──。