腕輪
La Braceleto
男は王に命じられ星の屠殺を生業としている。
これまで幾億を殺しただろう。
ふと思いつきを得て、男はいのちを奪ったばかりの星からその身をすこし削ぎとり、ひとつの腕環をつくった。光沢が美しいが、やや貉のごとき臭がする。
男はその腕環を、恋の相手である少年に贈った。幸い少年は臭を気にせず、贈り物をよろこんだ。腕環をつけた方の手で屹立した男自身を愛し、また男に組みしかれつややかな躯を揺らしながら、花が騒ぐような声をあげた。
まぐわいが進むにつれ、獣めいた臭が強まる。男はそれを自分の汗の臭気だと思った。少年は男を強く咬んだ。男はそれを感覚の高まりの表現だと思った。
突然男が動きをやめたのは、咬まれた痛みのゆえではない。少年の体躯が真白に変化し、その喉笛が男にむかって低く唸り声を示したからである。
思わず男が飛び退くと、腕環から発するもったりした印象の光が少年の裸体を包み、目鼻立ちをわからなくしてしまった。
男は剣をとろうと素早く腕をのばす。その瞬間、たッ、と少年だった光が駆けた。表へ飛びだし、捕まえようのない速さで四肢に獣そのものの動作をさせ、天にむかって逃れていく。
――愛者よ!――
大声で呼びかけたが、少年だった光は遥かな高みから戻らない。
男は落胆した。恋を喪失したことと、また星が増えてしまったことのせいである。
なに、男は明日になればこの地上で別の恋をはじめる。これまで数えきれぬほどくり返してきたことなのだ。そしてこれからも続いていくだろう。
ほんとうの朝が世界に訪れ、懐かしい恋の残り香のなかから男が目を醒まし、自分こそがこれから星として殺される運命をもつものだと、屠殺場の臭とともに思い出すときまで――
Fino