1話 勇者・キーヴァについて
「やーっと来たね審問官。もう待ちくたびれちゃったよ」
ベッドで横になり、本を読んでいる
彼女が、一人目の『勇者』、キーヴァ・オドハティである。
ヴィンスは何も喋らずドアを締め、近くにあった椅子に座ると、キーヴァは本を読みながら再び喋りだした。
「全くさー、いつまでこんな生活させる気なの君達? 私、『勇者』様だよ? これじゃまるで犯罪者みたいじゃん。別にお祝いとかさ、王様からの有り難いお言葉とかいらないんだって、報酬貰えたらそれでいいんだから私は。ああ、別に報酬目当てってわけじゃないよ? なんていうか……ほら、私は英雄になるために魔王を倒したわけじゃなくて、『勇者』の仕事として倒しただけだからさ、言うなら義務? そういう感じだから、お祝いとか本当にどうでもいいから」
本をめくる音だけが部屋に響く。
信じられないほどの沈黙が続いた。
「ねぇ、聞いてんの?」
キーヴァは本を閉じ、ベッドから起き上がった。
そばかす混じりの顔を歪め、不機嫌な様子のキーヴァだったが―――
ヴィンスの顔を見て、徐々に血の気が引いていったようだ。
「久しぶりだなキーヴァ」
先に口を開いたのは、ヴィンスだった。
「……お兄ちゃん」
キーヴァの顔に、さっきまでの威勢は消えていた。