1話 カガヤキの魔法
アシュリンは、今までの中で一番力強くそう言った。
だが、キーヴァもヴィンスもピンときていなかった。
なぜなら――
「マリスって……誰?」
キーヴァの質問は、ヴィンスの内心と一致していた。
アシュリンは、答えた。
「魔王軍の大参謀よ」
「え、魔王軍って参謀いたの⁉️」
驚くキーヴァだったが、それはヴィンスも同じだった。
魔王が存在していることは、いくつもの証言で裏付けられている。
しかし、参謀がいるという話は今まで一度も出てきたことが無かった。
文献などで出てくるのは精々将軍まで――
アシュリンのこの発言は、とても衝撃的なものだった。
「アリ・マリス・フィア。別名、当千のマリス、百魔法のマリス、輝きのマリス――魔族の中では結構有名な存在なのよ」
「ぜんっぜん、聞いたことない」
「あなた達からしたらそうでしょうね。マリスは殆ど表に出てこないわ。いつも魔王を盾にして、陰険な策と魔法、呪いを作ることにお熱なのだから」
「で、そいつが今回のノア爆殺に関わってるってこと?」
「ええ、そうよ」
「言ってること矛盾してない? そのマリスって奴は、表に出てこないんでしょ? なんであんたがそれに気づいたのよ。他の魔族の可能性だってあるんじゃない?」
キーヴァの指摘は冴えていた。
魔王の参謀が事件に絡んでいる――
という読みは、魔王が倒されたという事象に引きずられ過ぎているからだ。
そして、キーヴァが指摘した通り、引きこもりな魔族が、今回表立って動いてる理由が分からない。
今のところ、アシュリンの推理は穴だらけだとヴィンスは思った。
だが、アシュリンは力強くそれを否定した。
「その可能性は全く無いわね」
「へぇ、そんなに言い切るなら証拠を言いなさいよ」
「証拠は魔法――カガヤキの魔法よ」
「カガヤキのまほう……?」
キーヴァが復唱したように、ヴィンスもその名前を初めて聞いた。
「カガヤキの魔法は強力な時限爆発魔法よ。この魔法は他の時限爆発魔法と違って、相手の心象変化、行動を爆発条件に設定できるの――何となく察せないかしら?」
アシュリンの問いかけに、ヴィンスは思わず口が開いた。
「ノアが言っていた『勇者ではない』って……」
「そう――その言葉が、カガヤキの魔法の発動条件だったのよ」
「ぐ、偶然じゃない……?」
キーヴァはまだ信じられない様子だった。
「でも、あなた達は二回見ているのよ、カガヤキの魔法が発動する瞬間を――」
キーヴァはハッとした。
「……アイゼンハウアー」
アシュリンは、静かに頷いた。
「そう、あの時の爆発もカガヤキの魔法なのよ――あの時から、全てが始まっていたの」
確かに、アイゼンハウアーが爆発して死んだ時、『勇者ではない』と言った可能性はあるだろう。
それに、同じ事件の中で、同じ死に方をしている人物が二人――
これは少し、アシュリンの推理が当たっている可能性が出てきている。
だが、それでもまだ弱いとヴィンスは思った。
なぜなら、アイゼンハウアーが爆発した時の状況は、解明されていないからだ。
「で、でも……アイゼンハウアーが『勇者ではない』って言ったかどうかは分からないでしょ? それじゃやっぱり、まだ偶然って可能性も……」
「でも、マリスが介入しているって話は、少し信じれたでしょ?」
「ま、まぁね」
「うん、それだけでいいわ。重要な話はここからなのだから」
「……え?」
「マリスが介入しているってことは、あることが確定しているのよ。あの鳥頭はね、保険をつけるのが大好きなの。例え何があっても自分が不利にならない、強力な保険を用意することがね――」
そう語るアシュリンはとても感情的に見えた。
ここまで饒舌になっているアシュリンを見るのは、会ってから初めてのことである。
「保険って……どんなものを用意しているの?」
キーヴァの問いに、アシュリンは静かに――それでいて、ハッキリと言った。
「天穹遍くヤディオルシガ――あなた達が『魔王』と呼んでいる存在が、マリスと行動しているわ」




