16話 点と点で結んだ距離
「嘘だね!」
キーヴァの大きな声が峡谷に響いた。
「そんなわけ絶対に無い‼️」
「私は頼まれたことをそのまま答えただけなのだけど……」
「あんたが嘘ついてるかもしんないでしょ‼️」
「あなたがそう思うのは自由じゃない? でも、あなたのお兄さんはどうかしらね」
キーヴァは、ヴィンスも同じ意見だろうと思っていた。
アイゼンハウアーの証言に疑問を持っていたのは同じだからだ。
しかし、キーヴァが見たヴィンスの顔には――笑顔が浮かんでいた。
「なるほど、点と点か」
「ええ、点と点よ」
ヴィンスとアシュリンはお互いを見てニヤニヤと笑っていた。
「……なにこれ」
キーヴァだけが、状況を理解できなかった。
「つまりな――」
ヴィンスはキーヴァに耳打ちした。
そして再び、キーヴァの大きな声が峡谷に響いた。
その声を最後に、峡谷は静寂に包まれた。
◇ ◇ ◇
再びヴィンスとキーヴァの姿が目撃されたのは、翌日だった。
トバカリー城塞のアイゼンハウアーが留置されている部屋を訪ねていた。
「随分と待たせてしまいまして、すみません」
ヴィンスは笑顔でアイゼンハウアーの対面に座った。
「本当、随分と待たせたねぇ。嫌がらせでもしているのかと思ったよ」
ドア付近に立っていたキーヴァが強く舌打ちをした。
アイゼンハウアーの態度は、ヴィンスが最後に会った時と変わっていなかった。
大柄で、無礼で、相手を小馬鹿にした態度。
だが、ヴィンスは笑顔を崩さなかった。
「貴方を歓迎する準備に時間が掛かりまして。でも、やっと整いました」
「そりゃよかった。それじゃすぐに行こうか」
「の、前に確認をさせてください」
と、ヴィンスは一枚の資料をアイゼンハウアーの前に差し出した。
その資料は、アイゼンハウアーが以前証言していた魔族領内での道のり。
『バリーナ城塞から魔族領に入り、コロ平原とタウラ丘を抜け、魔王城のあるスイゴへ到達。おおよそ二週間の旅程』
「この証言と数字、間違いありませんね?」
「はは、やっぱりまだ疑ってるんだ」
「最後の確認ですよ」
「本当にこれが最後の確認なの?」
「もちろんです。この確認が終わりましたら王都まで送りますよ」
アイゼンハウアーはその言葉を信用していなかった。
最後の最後になってこんなことを言い出すなんて、完全に疑っていなければありえない。
そして、ヴィンスの言葉には覚悟が読み取れる。
――何かを掴んだ?
――いやいや、多分これは……
――ハッタリだ。
アイゼンハウアーの中で、考えが固まる。
そして、はっきりとした言葉と余裕の笑みを浮かべて答えた。
「伝えた通りだよ。その旅程に間違いはない」
確固たる自信があった。
なぜなら、あの数字には根拠が存在するからだ。
それは、王都側に保管されている資料だけではない、魔族が作った地図も参照している。
王都側の知らない資料を使い、たとえ彼らが魔族側の地図を手に入れたとしても、数字は絶対に合っている。
二段構えの完璧な証拠。
事実は絶対に崩せない。
その言葉を聞いたヴィンスの顔は――穏やかだった。
「そうですか。ありがとうございました」
「……終わり?」
「はい、これで終わりです」
アイゼンハウアーは少しばかり拍子抜けした。
ここから追求を行うものだと思ったからだ。
――思い違いか
そう思い、席を立つと――
「動くなよ嘘つき野郎」




