2話 言い出しっぺは損しかない
「兵士を使いたくないのだろ? ならば君がやってくれ」
エイドは席から立ち上がり、窓に近づいて行った。
「いや、あの……そういうことではなくて……」
「確かに君が言っていることは間違ってないよ。今は北部へ迅速に兵士を送らなければならい。それに今年は南部で酷い塩害が起きた。そちらにも支援物資と、支援政策をまとめなければならない。はっきり行って、馬鹿みたいに忙しい。こんな案件、蹴っ飛ばしていい」
「じゃあ……」
分かってんなら何回言わせんだこのクソジジイは。
そう言いたげな顔をヴィンスはしていた。
「だが、この話が本当なら一つ問題が解決するだろ?」
「は?」
「北部に兵士を送らなくて良くなる」
「……いや、だから誤報の可能性が」
「金も安上がりだ」
「打算的すぎるでしょ……」
「まぁ、それらは建前だ」
そう言うと、エイドは窓を開けた。
爽やかな風が部屋の中に飛び込んでくる。
それと同時に―――割れんばかりの歓声が聞こえてきた。
「これだけ人々が喜んでいるというのに、無下にもできんだろ?」
ヴィンスは何も言い返せなかった。
人々が、この国が、どれだけ魔王に苦しめられてきたか。
それは簡単に口で説明できるようなものではない。
血と涙と屈辱の歴史、そしてヴィンス自身もその歴史の犠牲者である。
ヴィンスは再び深いため息をついた。
今回は相手を貶める意味で使ったのではない。
「分かりました……書類を下さい」
エイドから資料を渡されたヴィンスは、重い足取りで書記官長室を後にした。