9話 お役所仕事の抜け穴
バリーナ城塞から魔族領に入り、
コロ平原とタウラ丘を抜け、
魔王城のあるスイゴへ到達―――
その間、『二週間』の旅程と書かれている。
「……これって、聞き取りしてた時の?」
「ああ、アイゼンハウアーが通ったルートと期日だ」
「問題ないって言ってなかった?」
「王都領の部分はな」
「だったらこれをひっくり返すのはむ……うん?」
キーヴァは、もう一度、聞こえてきた言葉を頭の中で思い出しているようだった。
そして、何かに気づいたらしく、慎重に問うた。
「……えっと、王都領の部分は、ってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。王都領のルートと期日は合ってる」
いやいや―――と首を振りながら、キーヴァはヴィンスの持っていた紙を奪った。
「お兄ちゃん……このルート、九割魔族領だよ?」
「うん」
「うん、じゃなくて‼ じゃぁ、なんで問題ないって言ったの? 何をもって問題ないって言ったの⁉」
キーヴァは、すごい形相でヴィンスに詰めよった。
なんか、テスト結果を隠していた子供みたいな気分だ……。
お母さんに詰められてる時の気持ち。
「いや……それで問題ないと決めてるんだよ」
「……………………はい?」
ヴィンスは紙を奪い返し、改めて説明を始めた。
「魔族領はいわば他国だ。他国の領土を勝手に測量することはできないだろ? だから枢密院では、魔族領を行き来した勇者や冒険者、行商人の証言をもとに、おおまかな距離を割り出し、それを正式な距離として採用してるんだよ」
説明を終えると、キーヴァはワナワナと震えていた。
「も、もしかしてさ……」
「うん?」
「もしかして……」
「うん」
「魔族領内の正確な距離って知らないの……?」
「その通り」
「誰も?」
「誰も」
瞬間、キーヴァはヴィンスの首を掴んだ。
「ぜんっっっっっっっっっっっっぜん問題あるじゃん‼」