1話 キーヴァはブチギレた
昼時前、北西部にあるトバカリー城塞に着いた。
のだが―――
「あったまきた‼」
キーヴァは飲んでいたグラスを勢いよくテーブルに叩きつけた。
あれだけ楽しみにしていた朝食だというのに、まるで酒場で荒れる船乗りのようだ。
「静かに食べなさい」
ヴィンスがハムエッグを口に入れたと同時にキーヴァが身を乗り出した。
「お兄ちゃんは悔しくないの⁉」
キーヴァは、今にも掴みかかりそうな形相だった。
だが、ヴィンスはハムエッグが気管に入り、激しく咳き込んでいた。
ことの発端は1時間前、ヴィンスとキーヴァがトバカリー城塞に着いた直後に遡る。
◇ ◇ ◇
「それじゃ、朝食の準備だけ頼みます」
兵士達に朝食の依頼をしている間に、ヴィンスは聴取を終えておこうと考えていたのだ。
相手の名前は、アイゼンハウアー。
実を言うと、今回名乗りをあげた5人の中で一番信憑性が高い資料が揃っている。
だが、それはあくまで提出してきた資料のみの話だ。
実際に喋って見ればボロが出て、実は全ての資料が捏造だったという話は全く珍しくはない。
だからこそ、資料が完璧な相手こそ慎重に裏取りをしなければならない。
キーヴァの件があり、なんとも肩透かしなスタートだったが、やっと仕事らしくなってきた。
ヴィンスはアイゼンハウアーが寝泊まりしている部屋へ向かうと、既にキーヴァが待っていた。
「まだ朝食じゃないぞ」
「分かってるよ‼」
「んじゃどうした」
「え、普通に仕事の手伝い」
「手伝い?」
「おにいちゃんが言ったんじゃん、仕事手伝えって‼」
「いや、お前に聞き取りの仕事は無理だから、護衛だけしててくれ」
ヴィンスはそう言った後に、しまった。と思った。
「だったら護衛として一緒に入るね」
キーヴァは得意気な顔をして、ヴィンスを見ていた。
子供の時ならあーだこーだ言って話を無しに出来たが、ヴィンスは既に大人となり、副書記官長という役職まで得ている。
話を無しにすることはできない。
「……分かったよ。とにかく、うるさくしないでくれ」
「はーい」
キーヴァはご機嫌な様子で、ヴィンスの後ろへ回った。
ヴィンスは、ため息を付きながらドアを開けた。