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推しを布教するにはご注意を

 新しく出来た(人生初めての)三次元の推しに対しての苦悩を友人に叫びに叫んだあの後、早速絵ログの作成に取り掛るために私は動揺し慌てる有咲を追い返し絵を描きに描きまくった。

 描きまくっている合間にSNSに私の身の起きた出来事を内容をぼかしながらも盛大に荒ぶりながら自分の気持ちを一緒に叫んだ結果、二次元しか勝たんと豪語していた私が三次元に興味を持ったとTLが軽く荒れた。が、思いの外応援してくれるリプライが多く、安心しきった私は一先ず絵を完成させそのまま健やかな眠りについたのだった。


 次の日、目が覚めた後に行う仕事に行く前のルーティンの一つであるオシッター巡回をしようとスマホを見ると有咲から大量の通知がきていた。その内容は例の女性に関する質問ばかり。


(そう言えばあの後何の説明もせずに追い返したんだったっけ…?)


 『ひとまず詳しいことは後で投稿する予定の絵ログを確認してくれ』と返信し、さぁ神達の作品のストーカーだ!とオシッターを開いた瞬間に怒涛の勢いで有咲からの通知が来る。今対応すると時間が取られるのは確実だから無視しようとするが『ちょっと!』『見てるのはわかってるんだよ既読ついてるよ!』『返事しろ!!』といったものがわ〜凄い送られてくる送られてくる。

 仕方なく『そんなに慌ててどうしたの?』と返信すると『今日の退勤後に〇〇に集合』ときた。それに不思議に思っていると


『それまで絶対に絵ログ投稿するなよ』


 と、文字なのにとても圧を感じる文章が送られてきた。それに思わず背筋を伸ばしながら『了解』と返信する。その後は何も送られてこなかったがオシッターを開く気にはなれず、いつもより早い時間から出勤の準備を始めたのであった。




―時は流れ、午後7時過ぎ


「優子、例の絵ログはまだ投稿していないでしょうね..?」

「し、していないであります!!」

「よろしい!...あ、すみませーん!生一つとレモンハイ一つお願いしまーす!!」


 約束の集合場所である居酒屋に行けば会話も無しに腕を掴まれ問答無用で奥に連れて行かれた。個室に通され席に着いたかと思えば、先ほどのセリフを言われたのである。冗談を言える雰囲気では到底無く、口調がおかしな感じになってしまったのは仕方ないと思いたい。

 有咲が私の返事聞いた後に偶然近くを通った店員に注文をし、店員が離れた途端また真剣な顔で向き合ってくる。手を顔の前に組みながらこちらを見てくるので思わずゲン○ウポーズと呟いてしまったのは不可抗力だと思いたい。


「オシッターであんたが叫んでたやつは見たわ」

「私の叫喚(きょうかん)を垣間見たか。」

「叫喚って。文字でしょうが。確かに見た時あんたが大声で叫んで喚いてるのが想像ついたけど」

「いつも叫んでるのは通常運転だから」

「それは知ってる」

「照れる……」

「何が??どこに照れる要素があった?」

「いやぁ〜、……すいません」


 ついいつもの様にふざけ倒した会話をするが、有咲の変わらない真剣な顔に謝罪の言葉が出る。私から出た唐突な謝罪の言葉に有咲は不思議そうに首を傾げていたがいつもの事かとでも思ったのか追求されることはなかった。

 ひとまず気を取り直し、飲み物以外のものを注文しそれらが届くまでは他愛もない話をする。本題に入らないのかと一度問うたがどうせ長くなるのだから注文したもの全部届いてから腰を落ち着かせて話そうと言われたので、では遠慮なくと最近ハマっているアニメの話を切り出す。有咲もそのアニメを見ているらしく話は初っ端から大盛り上がりとなった。店員が注文した品を持ってきても気づかない程度には盛り上がった。声をかけられていつの間にか注文していたのが全部揃ったことに気がつき、店員に向かって何度か頭を下げながら注文の品に間違いがないかを確認する。

 あの会話を聞かれていたのかと羞恥心で顔を赤くしながら去っていく店員の背中を眺めるいる間に有咲はとっとと大皿のものを取り皿に取り分けていた。『こいつ、出来る!』と内心考えながら渡された小皿を受け取った。


「さて、頼んでいたものも揃ったし。本題に入りますか」

「はい先生」

「ちゃんと姿勢を正して話を聞くように、優子くん」

「今日は一体何の授業を行うのでしょうか」

「まあまあそう慌てなさんな。落ち着きなさい。今日の本題はズバリ!優子くん、君が昨夜描いた絵ログに関することです」

「絵ログに関しては今まで何度も描いたことがありますが一度も先生からは注意を受けたことがありません。今回の絵ログはそれらとは何か違いがあるのでしょうか?」

「良い質問です」


 雑に投げた学校先生と生徒の設定にノリノリで乗ってきた有咲に内心で笑いながらも真剣に話に耳を傾ける。


「確かに。今まで優子が描いていた絵ログには何の問題はなかったから注意はしてこなかったけど、今回優子が描いた絵ログは今までのとは決定的な違いがあるの」

「先生と生徒設定終わった?」

「終わった」

「はい。で?え〜っと。今までの絵ログとの決定的な違い?え、何だろう」

「結構簡単なことよ。考えてみ?」

「えー?アプリのペンの設定変えたとか??」

「そういえばここ最近絵のタッチ変わってたね。いや違うそうじゃない」

「やっぱり気づいてた?でもそれじゃないのか」


 真っ先に思いついたことを言ってみたがどうやら違うらしい。そもそも今回の絵ログまだ見ていないんだからわかる訳ないでしょと言われ確かにと納得した。だったら一体何が違うんだと考え、そしてふと、一つのことが思い浮かぶ。


「あ...もしかして絵ログの対象?」

「ピンポーン!大正解!!」

「わーい!!」


 答えを言った瞬間、拍手付きで褒められたので思わず小学生のノリで喜んでしまった。だが疑問は消えない。


「え?でもそれが何の問題になるの?」

「それを今から説明しよう。と言うわけで、今回描いた絵ログ見して」


 言われるがままにカバンからタブレットを取り出し、昨夜描いたイラストを見せる。昨日の別れた後のあの短時間でこんなに枚数描いたの?と驚きながら有咲はイラストを拡大させたり他のページと比較したりしている。ちなみに描いたイラストの枚数は5枚。絵ログだと漫画と違ってストーリーの構想を練る時間がいらないため想像よりも一枚を描き終えるのに時間はかからない。絵の他に感想とかも盛り盛りで書いていったため枚数が多くなったのだ。

 絵ログの主役はもちろん新たに出来た推し。いかに推しが素晴らしかったのかをどう表現するかは迷ったがとにかく印象に残っていることを描き上げていった。はぁ...昨日も思い返してたけどやっぱり最高だったな、名前も知らない推し。直接話しかけるとか恐れ多いけどやっぱり名前知りたい。なんなら名前以外も知りたい。誕生日とか好きな食べ物とか。推させてもらっている身としてはやはり貢ぎたい。あぁ、推しめっちゃ足長かったな。

 

「思考の海に沈んでいるところ申し訳ないけどちょっと現実に戻ってくれるかな?」

「んぁ?!」

「どんなこと考えてたのかは知らないけど、よだれ出すのはやめときなよ」

「え!?うそやだやめてよちょっと!もーーーー!!」

「私何もしてないし」 


 推しのことを思い出していたらイラストを見終わった有咲によって強制終了させられた。驚いて呆然と有咲の顔を見ると笑いながら涎が出ていることを指摘される。恥ずかしさのあまり半ば八つ当たり紛いのことを言えばそれはバッサリと切り捨てられた。

 口元をおしぼりで拭いながら有咲に(ゆび)さしで示された絵ログへと視線を向ける。


「イラスト全部見さしてもらったけど、あんたやっぱり絵が上手いね」

「お世辞でも嬉しい」

「お??今度いかにあんたの絵が素晴らしいかを語り尽くしてやるから予定空けときなよ」

「やだ誉め殺しされちゃう」

「その誉め殺しをするためにも話進めるよ」


 注意を引くためにトントンとタブレットを叩いた有咲は落ち着いた声で話し始めた。


「イラストのこの人があんたの推しでしょ?」

「そうその人」

「この人の特徴とかをしっかり捉えられてる。会ったことない私でもリアルの姿が想像つく。この人足が長いね」

「そうなの。股下5kmはあるよ。スタイルも良い。顔も良い。存在が良い」

「分かったから一旦落ち着こうか」


 ヒートアップしていく私を宥めるように手を振りながら有咲が話のレーンを戻していく。


「1枚目は推しの見た目とかに関するやつ。髪型はショートだね。ピアスは開けてないかな?身長は高めで服装からしてボーイッシュな人だ。リュックを使っててスマホの機種はカメラレンズの数から最新のやつかな?んで、2枚目の絵はあんたとその推しの人が同じ駅で降りて感極まったことが描かれてるね。だとすると郊外に住んでるのかそれかそこの近くにキャンパスがあるのかのどっちか。そういえば駅からそんなに離れてない所に私立の大学があるからそこかな」

「おぉ凄い…情報を読み取る能力高すぎでは??というか近くに大学あるの知らなかった」

「私以外が見ても分かる人には分かるよ。特徴も細かくあるし、あんたがどこに住んでるか知ってる人からすれば結構簡単に場所を割り出せる。と、まぁこんな感じ。どう?」

「え?どうって??」

「今の私の考察って訳じゃないけど言葉を聞いてどう思った??」

「たった2枚目のイラストからそれだけの情報を出せて凄いなと思った」

「あんたの絵が上手いからっていうのも理由だけどね。そして?他には??」

「え??」

「他には何か思わなかった?」


 有咲の口からすらすら出てくる推しに関する情報に推しのことがちゃんと表現出来て良かったと喜び半分、たった2枚のイラストからこれだけの情報を読み取る有咲の能力の高さに驚き半分であった。

 投げかけられた質問に純粋に思ったことを言い、そして他のことも聞かれたもしかして質問の意図を勘違いしていたのかと勘ぐったが分からず首を傾げた。


「え、本当になんだろ……有咲が凄いってことしか思いつかないんだけど」

「あーこれはすこし私の質問が悪かったかも。えっと、私の言葉に対して私に思った事じゃなくて、何だろう。このイラストだけでこれだけの情報を引き出せたことに関してどう思った?」

「へぁ???」

「オーケー分かった。質疑応答形式はやめて簡潔に纏めていこうか」


 有咲が内容を改めて質問をしてきたが、どう頑張っても有咲凄〜いという答えしか出てこなくてマトモに言葉に出来ずにいると、有咲は半分諦めたような表情でグッと右手の親指を立てた。


「このイラストからこれだけの情報を読み取れるってことはこの人の情報をそれだけ明確に不特定多数の人たちにばら撒くことになるってことよ」

「え、推しのイラストを載せるのってそれが目的なんじゃないの?まだ知らない人たちに良さを知ってもらうためなんじゃ……」

「アニメや漫画のキャラならそれをしても問題ないってことよ」

「でもたまにドラマや俳優さんのイラストをあげている人もいるよ?」

「それはその人たちが有名人だからでしょ。勿論その人たちにもプライバシーはあるけど職業として人の前に立つことを選んでいるの。でも優子の新しい推しの人は?有名人?」

「ただの一般人」

「なんならまだ学生なんでしょ。下手したらまだ20歳になっていないかも。どうだった?」

「そこまではそうだろう……でも多分ギリギリ超えてるかちょうど20歳ぐらいかも」

「優子は20歳ぐらいの学生の子の情報を勝手にばら撒かれているのを見たらどう思う?」

「やばいって思う」

「じゃあ優子のその推しの子に置き換えてみて?」

「え…………あ」


 有咲が何を伝えたかったのかの真意が漸く理解でき、目から鱗が落ちた。


「理解できましたか〜?優子さん」

「やっと理解できました…有咲さん。そうだよね、二次元とは訳が違うよね」


 今までの感覚のままはダメだと言うことに全くもって気づけていなかった。そうだ、そうだった。相手は同じ世界に生きている人間だ。しかも年下の一般人。好きだと言う気持ちだけでこちらが好き勝手に消費していい商品でも何者でもない。


「好きなアニメキャラに置き換えてみるのは有りだと思う?」

「そっちの方が100倍いいと思うよ私は」

「分かった。帰ったら描き直す」

「とりあえず一件落着ということで!改めてカンパーイ!!」

「乾杯!!!!」

「勢い強すぎ!溢れた溢れた!!」


 本当に有咲と友達で良かったと有り難みを噛み締めながら私はお酒を盛大にあおる様に飲んだのだった。

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