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間違い探し

俺と海藤はクラスに入る。

当然俺は後ろから。

なるべく初対面の人たちの視線を浴びたくないから。


「よいしょっと」

俺は幸運なことに窓側の一番後ろの席に座る。


「お隣さんよろしくね~」

俺は不幸なことに聞き覚えしかない声の主が隣に座る。


「何でだよ!海藤お前どこまで行ってもいるじゃねーか」

「あたしだって、あんたがいてびっくりしたわ!」

大声で言い合う俺たちを静かに座るクラスメイトが注目する。

「あ…あ…すんません…」

「すみません!」

俺たちは空気を乱したこと、クラスメイトに謝りながらおとなしく着席した。


***


それからHRが始まり、入学式、写真撮影を経て気づいたら放課後になっていた。


「それでは皆さんまた明日~」

担任の一声でクラスメイトは立ち上がり各々が帰宅の準備を始める。

ここが最後のチャンスだ。今日一日、俺は結局のところ海藤以外のクラスメイトと話していない。

初日に話すことが出来なければ、このままでいいかと話すことを諦めてしまうだろう。

しかし、俺の席の周りは前も斜めも横も女子。

拳を握り覚悟を決め、海藤の奥の二つ右の席の男子に話しかける。

「あ、あの~」

「は、はい?」

「良いシャーペンですね!」

「え?シャーペン???」

「…うん」

「あ、ありがとうまた明日!」

最後の希望だった男子は足早に席を去っていった。


(何がいけないんだ?)


「いや、あんたどう考えてもきもいでしょ」

「は?どこがだよ!相手の情報収集して会話を広げようとするのは当たり前だろ」

「あんたは細かすぎんの!ほぼ文房具なんか今日は使う機会なんてなかったのに、シャーペンについていって来たらおかしいでしょ。それに、相手の情報収集は会話に中でしてくの!!それがコミュニケーション。あんた何にも変わってないじゃない!」

落ち込んでいる笹木君に海藤さんは容赦なくオーバーキルをする。

「そういうお前はどうなんだよ」

「私?あ、この後仲良くなった子と三人でランチかな~(笑)」

笹木君にとどめの一撃がクリーンヒット。海藤から見て左前と前の女子がやってくる。

つまり俺の席の包囲網は海藤一派ということだ。


「ぐはっ!!お、おう楽しめよ」

精一杯の抵抗だった。

「あんたはその500円の出番ありそう?」「あとでカフェでも行く?」

「行くわけねーだろ!」

確かに普通の男なら、容姿端麗コミュ力最強のこいつに誘われたら秒でYESと言うだろう。

だが、俺は違う勘違いしない。こいつは誰にでもこういう行動ができる思わせぶりなやつだ。そうに違いない。俺は騙されんぞ。

「あ、そう…頑張んなさい!」

海藤の哀れみを含んだ言葉を聞いた俺は、続けてクラスを後にした。


***


正直なところ、母親から与えられたクエストを達成できなかったことは俺の心理学の猛特訓が無駄である証明のように感じられ悔しいが、これまでの学生生活でほぼぼっちだった俺には慣れた状況だ。

今更、焦燥感も孤独感も感じなかった。


高校から一番近い駅までの間には、長いアーケード商店街が存在する。午後の予定は当然のように何もなかった俺は、まばらに開いているお店を把握していくように見ながら帰り道を歩く。


そんな時。


いくつくらいだろうか、見るからにロリに分類される少女いや、幼女が自分と同じ制服を着たいかつい男の後を追っている。

幼女の背丈は150㎝ほどなのに対して、男は180㎝はあるように遠目ではあるが推測できる。


明らかにおかしい状況だった。暇であった俺は男の尾行をする幼女の尾行をしてみることにした。

ただ、幼女を追う男子高校生は傍から見れば不審者そのものであったため、おれはかなり距離を開けて尾行を続けた。


暫く歩くと、男は小さな公園に到着した。そしておもむろにベンチに座り、茂みに向って何か話している。


「君!何しているんだい!!!」

幼女が高い声で男に声をかけている。

どういうことだ、幼い子があんな怖い顔のお兄さんに話しかけるなんて。

「ちょっと!君!!」

俺は焦って、幼女に声をかけてしまった。

右のつま先を小石にひっかけて転びながら。

大きな音を立てて、俺は地面に倒れこんだ。


茂みの中で何かが去っていく音がした。


「おい、何やってんだお前!!!」

低い声でいかつい顔の高校生が話しかけてくる。その顔にはいくつもの傷があり、見るからに喧嘩を毎日するような荒くれ者だ。


「い、いや…えっと…」

細々とした声で俺は何を言うか考えるが、こんな怖い見た目の前で頭は真っ白になってしまう。

次に口を開いたのは幼女だった。

「ふむふむ。面白いことになったな。」

「君の名前は?」

その見た目にそぐわない落ち着いた口調で幼女は俺に話しかけてくる。


何かおかしい。


「動揺しているようだな。私は探偵部部長の前島だ。今は我が部の幽霊部員である郷田修に接触を図っていたのだ。」

小さな体だが彼女の態度は大物そのもの。はっきりとした口調でコミュニケーションを取ってくる。

「え?え?どういう…」

入ってくる想定された事態と現実とのギャップに俺はオーバーヒートしていた。


「ちょっと尾行なんて悪趣味ですよ。前島さん。」

身体もでかい男は、意外に柔らかい口調で語りかける。

「探偵としてこれは当然の行動さ。やはり君は可愛い趣味をしているじゃないかますます探りたくなったぞ。」

「君がここに来た理由は、そこの茂みにいる猫に餌をやりにでも来たのだろう。君のその顔の傷は、猫に引っかかれた痕だね。」

「君はその風貌から、周囲の方に距離を置かれてしまうことが難点だが実際は心優しい好青年といっても過言ではない。」

「君のような人材は我が部に必要だ!!!!!」

幼女改め、前島先輩は大きな声で言い切った。


「そんな事言われても、俺は部活には出れませんよ!」「では…(またね、みぃちゃん)。」

大男の郷田先輩はダッシュでその場を去っていった。

「あの運動神経も素晴らしい、やはり彼には協力してもらいたいが…」


「あ、あの~じゃあ俺もこれで。」

俺もこの場の流れでとっととこの面倒そうな状況を打破しようとした。


「待ちたまえ!君はそうか…新入生だな、在校性にしては裾が余り過ぎている。それに今日は通常ならば在校生は休日だ。まあそのかばんの横に財布を入れているのは、ICカードを取りやすいようにしているつまり電車通学である可能性が高いと推察できるな。まあ、君の思考をトレースするに初日で一緒に帰る友人ができるわけでもなく暇だった、するといかついお兄さんを尾行する私をみて好奇心から、いや正義感から後を追ったのだな。」

何も言わずにいる俺を前に圧倒的な会話量で制圧してくる。

それに、この人の推理?能力、着眼点は正確かつ素早い。


俺はたくさんの気になったことのうち、自分の興味がある一つを聞いてみた。

「あ、あの俺は笹木優斗と言います。前島先輩は心理学を学んでるんですか?」

「ふむ、会話が苦手な君が質問してくるということは心理学が好きなのだな。だが答えは否だ。」

「これは私がこれまでの探偵活動で培った、観察力とその集めたデータを基にした推理だ。話が長くなりそうだ。近くに行きつけのレストランがある付いてきたまえ。その500円無駄にはしたくないだろう?」


正直、ここまで見られていると気味が悪くも感じるがこの先輩の外見がそれを中和させていた。


***


俺たちはイタリア料理が食べられるという緑色ベースのリーズナブルなレストランに来ていた。まあ、学生が放課後に向うレストランならまず候補に挙がるのがここだろう。

店内には名前も分からない絵画が並び、平日だが学生や家族などでにぎわっている。


それから、今日持っていた500円とその目標。尾行理由。先輩による探偵部の紹介など疑問点をお互い解消、いや答えを確認するかのように雑談をしながら俺はメニューを選んだ。

対して先輩は、目玉焼きのハンバーグ一択だったようでテーブルにケータイおいて操作しながら会話している。


正直、ながらスマホはデートでは最悪だとか言うが俺からすると視線の心配がないからありがたい。


「笹木君は、料理がすべて到着するまでに私がこの間違い探しいくつクリアできると思うかい?」

いきなりこの先輩は逸れた話を領域展開してきた。目を見つめながら。

「そんなこと言って、これやったことあるってパターンじゃないですか?」

俺はうつむきながら答える。いくら幼い容姿でも正面の席に座る女性に対してどのように視線を向ければいいのかわからない。

「さあな、とりあえずこのサイコロを振ってみてくれ」

そういって先輩はポシェットから六面のシンプルなサイコロを取り出した。

なんで、急にクイズからのサイコロなんだと考えたがまずは相手のペースに乗ってみることにする。


「よいしょ。」

机の上に転がした六面体はきれいに放物線を描き、6の目を出した。

「では、私はいくつ間違いを見つけると思う?」

「じゃ、じゃあ7で。」

俺は深くは考えずにおぼろげに浮かんできた数字を回答した。


「ふ、見ていろ青年!!」

先輩は顔をテーブルにキスしてしまうのではないかと思うくらい近づけて、間違いを探し始めた。


それからしばらくして、決着はついた。


メインディッシュであるステーキをテーブルに届ける店員さんが来て

「こちらが、ステーキになり…」

「あの!バニラアイス一つ!」

先輩はご注文の品はお揃いでしょうかと店員さんが尋ねる前に、注文を追加したのだ。つまりは、無理やり延長時間を作った。

「ちょっと!それはダメですよ!!反則です。すみません店員さんバニラアイスはキャンセルで。」

「おい!君に私のデザートを食べる権利への拒否権はないぞ!非常連コミュ障!」

「非常任理事国みたいに言わないでください!」

「あ、あの~注文は?」

「あ、やっぱり大丈夫です。私の勝ちなので。」

店員さんは伝票をそっと置き、頭に見えるはてなマークをくっつけながら厨房へ戻っていった。


「もしかして、全部わかったんですか?」

「当然さ、探偵部の部長としてこれくらいのこと朝飯前さ。」

「いや、昼飯にデザートのずる入れた前ですよね。」


あれ、俺いつの間にかこの人と目を合わせて話している。


「まあ、間違い探しはどうでもいいんだ。君は私がここに来てから使った心理効果について答えられるのではないかい?」

「…アンカリング効果。」

「そう、君はサイコロに出た目に引っ張られて見つける間違いの数を回答したのさ。これまでの私の観察力を見ていた君なら当然10と答えるはずなのにだ!!!」

先輩はフォークを俺に向けて、自信満々に決めた。

突っ込みどころしかない。


「それと?」

「…。」

「君は視野の広さは評価できるが、思考が狭い時があるな。」

「単純接触効果。返報性の原理。類似性の法則。そして社会的浸透理論。お互いの話を最初にしただろうメニューを見ながら。」

どれも、本に載っていたものだ。

「そしてもう一つ、親近効果によってわかりやすく提示した心理効果に注目した君は、アンカリングに注目するあまり答えられなかった訳さ。」


親近効果…最後に見た情報が印象的に思い出される現象。


「そして君はそれらすべてを理解した上で、私の話に乗ってくれたのだな。」


「ま、さっか~。全然わからなかったですよ。」

「まるでこちら側の意図に気づいてもなお乗ってくる様子、まるで実験者バイアスだな。」


「君の目ならば、私が初めにケータイを操作して回答を見ていたことをメニュー表を見ながら見れたはずだ。」

「…。」


「ならば攻め方を変えよう。君が人の視線を気にしてしまう理由は、君の視野の広さに問題がある。」

「その広すぎる視野から、これまで困ってきたことも少なくなかったのだろう。」

(俺は今日の前の席の子のことを思い出す。)

「だが、君のその力は素晴らしいものだ。まあ、いきなりで悪いがぜひともうちの部に入部してくれ、詳しいことは明日の勧誘の時にでも話そう。」

そういって、先輩は席を立ちあがり500円を置いて去っていく。


「あ、あの!先輩は一体何者ですか?」

俺は今日一番大きな声で去る先輩に聞いた。


「私は前島みこ。桜ヶ丘のホームズさワトソン君!」










くたくたです。

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