絶対に姿を見せない幼馴染が姿を見せない理由
初投稿です。よろしくお願いします。
(エイプリルフールとは無関係です。季節は何故か9月くらいです)
「あのさ」
「なに」
「お前今どこから話してんの?」
「あんたの部屋のベランダだけど」
平然とそう答えたのは春斗の幼馴染の純。家は隣で、昔からお互いの親の仲がいい。ラブコメ時空なら当然の如く「美少女」という設定がついてくるはずだが、生憎それは春斗にはわからない。
「どうやって俺ん家のベランダ入ったの?ここ一軒家の2階だよね?」
「…いいでしょ。そんな事気にしなくて」
「まあ、たしかに。いつもの事ではあるが」
そう、純はいつも春斗に姿を見せないのだ。絶対に。まだ一桁の歳のころはよく姿を見ていたが、いつからかこのように姿を隠すようになった。
「ってか外暑くないか?お茶とかいるか?」
夕方とはいえ、夏の暑さの残る季節。外は暑いだろうと思い、春斗がベランダの方に歩いて行く。
「来るなっ!!!」
「うわビックリしたぁ!いきなりでけぇ声出すなよ。近所迷惑だろうが」
「あんたが余計な事するから悪い。次同じことしたらあんたの水筒に下剤混ぜるから」
「怖いこと言うなよ。本当にできそうだからより怖いわ。てかお前マジで謎だよな。なんで隠れてんのか、聞いても教えてくれないからもう聞かないけど」
「わかってるならよろしい」
何故隠れるのか、と通算1000回以上聞いているであろう春斗には、もう聞いても絶対に情報が出てこないことがわかっていた。
「で、なんか用があるのか?スマホという文明の利器がありながらわざわざ直接来るとか、割とアホなんかなって思ってるけど」
「いちいちムカつく言い方する…。ママが作りすぎたからこれ持ってけって」
窓の隙間から肉じゃがの入ったパックが投げ入れられる。
「はぁ、どうも。ってか、それなら下でうちの母に渡せばよかったのでは…?」
「お、おばさんに手間取らせたら申し訳ないし、あんたはどうせ暇してるんだからいいでしょ」
「どうせって…まあそうだけどさ。お前こそ暇なんじゃないの?いつも忍者ごっこして」
「はぁ??誰の――…いや、全然暇じゃないし!暇じゃないからもう帰るし!」
純は一瞬何かを言いかけたが、すぐに怒った口調で取り繕った。
「はぁ、そうかい。じゃあ帰れ帰れ」
それ以降声は聞こえなくなり、春斗がベランダを覗いてみても、そこに純の姿はなかった。
◯――――――――◯
翌日。教室から生徒が続々と帰宅していく時間。
「ねぇ」
「…ロッカーとかいつから入ってたんだよ。普通に怖えよ」
「前も言ったけどさ、いちいち気にしなくていいよ。めんどいから」
「はいはい…で、何の御用ですか」
「さっきの話、あんた本当に行くつもり?陰キャのくせにカラオケなんか行っても楽しくないでしょ」
さっきの話というのは、春斗がカラオケに誘われたことだ。普段はあまり関わりがないが、行事でたまたま関わった陽キャグループに誘われていた。
「誰が陰キャだよ、誰が。陽ではないけど、このレベルなら辛うじて陰ではない。現に誘われてるわけだし」
「へー、女子に誘われて鼻の下伸ばしてるくせによく言うわ。キモすぎ」
「伸ばしてねえよ…しかもお前見えてないだろ」
「見えてなくてもわかるし。ほら、行くならさっさと行けば?」
「はいはい…。じゃあな、お前も気をつけて帰れよ」
少し上機嫌な春斗は、鞄を手にカラオケへと向かっていった。
◯――――――――◯
「はぁ…疲れた…」
陽キャグループと別れた後、春斗は信号を待ちながら大きくため息を吐いた。
「ほら、全然ダメだったでしょ?」
と、隣のポストから聞き慣れた声がした。
「うわっ!?は、ポストとかどうやって入ってんの!?」
「陰キャが背伸びするから悪いんだよ。これに懲りたらもうやめな」
「無視かよ…。わかったわかった。お前の言う通り俺は陰キャですよーっと…」
「わかればよろしい」
純はふふん、と嬉しそうに鼻を鳴らすが、実際に表情を窺うことはできない。
「…それで、なんか用あんのか。それともただ煽るためだけにポスト入ったのか」
「用がなきゃ喋っちゃいけないの?普通に、精神的ダメージを負ったあんたをさらに追い詰めようと思って話しただけ」
「…さいですか。じゃあその作戦は失敗ってことで」
「は?なんで」
「わかんないならよろしい」
そう言い残して、春斗は横断歩道を渡っていく。
「…意味わかんない」
純の不満げな声だけが、ポストの中に小さく響いた。
◯――――――――◯
「…そこにいるのか?」
「げ、なんでわかったの。怖すぎ」
少し離れたところにある木がカサっと揺れ、純の声が聞こえてきた。
「いや、普通に考えたら木の上にいる人の方が怖いから」
「そんなのどうでもいい。なんでわかったのか聞いてんの」
「えぇ、なんとなく?気配的な?」
「…ふーん、それだけ?」
「あとは…そうだな…」
「なに?」
春斗は少し考えるようにして間を開けてから、やがて決心したように言う。
「好きだから、とか」
「…は?」
「お前のことが、その、好きだから…」
「…へ?…なに言ってんの、あんた、う、嘘でしょ?」
「…マジだよ。何回も言わせんな」
「えっ、ええええ!?ってうわっ!木が、あっ!」
バキッ、と木の枝が折れる音が響く。その後、ドサッと何かが木の上から降ってくる。
「おい、大丈夫か!?」
春斗は言いながら駆け寄っていく。
幼い頃の姿しか見たことがなかったが、春斗にははっきりとわかった。昔と変わらない黒髪ショート。変わったのかわからない背丈やいろいろな部分。紛れもなく、それが純だろう。
数年ぶりに見た幼馴染の姿に感動すら覚えた春斗だったが、先ほどの落下のせいだろうか、純が足を怪我していることに気づく。
「お前、足怪我して…」
「っ春斗!今すぐ目閉じて!」
純がそう叫んだ次の瞬間。
どくん、どくん、どくん、どくん…
春斗の心臓の鼓動はどんどん大きく、早くなっていく。告白のせいか、感動のせいか。そう思ったが明らかにおかしい。
ぎゅるぎゅる〜…
腸が唸る。鈍い痛みが、春斗の腹を駆け巡る。
ぐわんぐわん…
目が回る。純の姿が歪んで見えて、ふらふらと、まともに立っていられなくなってきた。
「…それが、理由。私がずっと、隠れてる理由」
「っ……どういう、ことだ…?」
「私があんたの視界に入ると、なんでかわかんないけど、あんたの体調が悪くなるの」
鋭い頭痛に、春斗の記憶が引っ張り出される。
昔、よくこんな感じでひどい風邪を引く時期があった。いつのまにか風邪を引かなくなったが、よく考えてみれば、その時から純の姿を見なくなっていた気がする。
「な、るほど…」
「…早くあっち向いて。そしたら多少マシになるから、そのまま帰って休んで」
「…」
春斗は純に背を向ける。しかし、歩き始めるのではなく、その場にしゃがんだ。そして。
「…乗れ」
「…へ?」
「足、怪我してんだろ」
「いや、その状態じゃ…」
「いいから。早くしないと、俺死ぬぞ」
「わ、わかった」
いてて、と足を庇いながら、純は春斗の肩に腕を掛ける。純が背中に乗ると、春斗はゆっくりと立ち上がる。
「…軽いな」
「…そういうのいいから…無理しないでよ」
「大丈夫」
そう言いつつ、春斗の足取りは重たかった。
◯――――――――◯
「ん、んん〜……?」
春斗が目を覚ますと、そこは自室のベッドだった。寝る前の記憶がないが、まだ症状は治っていないらしく、頭痛が酷い。
「春斗、目開けちゃだめだよ」
すぐそばから、聞き慣れた声がする。
「…純?」
「…ごめん。私がヘマしたせいで、こんなことになっちゃって」
「…お前のせいじゃない」
「…本当にごめん」
いつもの刺々しい態度とは打って変わって、純は泣きそうな声で話している。
「そういえば、まだちゃんと、言ってなかったな」
「…なにを」
春斗は目を閉じたまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「純。俺と、付き合ってほしい」
「…え?」
「だから…何回も言わせようとするなよ…」
「いやいやいや、あんたこの状況わかってる?私が視界に入ったら、毎回こうなるんだよ?」
「…わかってる。で、返事は?」
少しの沈黙の後、純は口を開く。
「ちょっとだけ、待って…。いきなりすぎて、飲み込めてないし…あんたも元気になってから、もう一回ちゃんと話したいから…」
「んー…わかった……」
まだ体調が悪いうえに、目を閉じたままなので、春斗はまた眠気に襲われていた。
まどろんでいく中で、頭の上に心地よい温度を感じたが、目を閉じている春斗にはそれがなんだかわからなかった。
◯――――――――◯
快復した春斗は、公園の丸いベンチに腰掛けている。しばらくぼーっとしていると、誰かが反対側に腰掛けて春斗の背中にもたれかかってきた。
「…純か」
「…うん、よくわかったね」
「まあ、好きだしな、お前のこと」
春斗の真っ直ぐな言葉に対して、ビクッという振動が背中に返ってくる。
「…あんたそんなこと恥ずかしげもなく言える人間だった?」
「なんか、一回言ったらもうタガが外れた感じ」
「ふーん。じゃあ、どこが好きとかも言えちゃうの?」
いつものおちょくるような口調で、純が言う。
「昔からずっと。見えてなくても話してるだけで楽しいし、元気出る。ツンツンしてるのに健気なところもいい」
「ばっ…本当に言えなんて言ってない!!」
ぼすっ、と背中に拳を入れられた感覚。割と痛い。
「…で、答えは出たか?」
「…私さ、私がいると春斗がどうなるかわかってるのに、わざわざ隠密までして関わりに行ってんだよ?なんでだと思う?」
「あー、そういうこと?」
「…そういうこと」
春斗はふぅ、と安堵のため息を吐いてから言う。
「どういうことか、言ってくれないのか?」
「なにニヤついてんの?キモいよ」
「見えてねーだろ。正解だけど」
「あー、もー言わない。絶対言わない」
「さいですか。お好きにしてどうぞ」
こうして結局、いつも通りの煽りあう会話に戻っていったが、しばらく談笑していると、純が徐に切り出す。
「…ねぇ、私たち、やっていけると思う?」
「うーん、どうだろうな。やってみなきゃわかんねぇよ」
「…そ。じゃあ、私先帰るから、目閉じてて」
「了解」
そして、遠ざかっていくはずの足音は、春斗の目の前で止まる。
「絶対、目開けちゃダメだよ」
春斗が何かを言い返す暇もなく、唇に柔らかいものが触れる。頬にふわりと触れた髪がほのかに香りを残して、それは離れていった。
…結論から言うと、春斗はまた倒れることになるのだが。
幼馴染の、いや、彼女の。真っ赤になった可愛い顔を見られたので、目を開いたことを後悔はしていない。
うーん、最後の最後はなかなかいい感じではないでしょうか。自画自賛。
会話文主体になってしまったけど、まあしょうがないです。文才がない。
私は承認欲求の塊ですので、ご評価いただければ死ぬほど喜びます。舞います。
ちなみに、この設定のフックは「有頂天家族」の海星というキャラクターです。背中合わせのシーンが好きすぎて書きました。