1-6
食堂に行くとすでにマリアさんとルーシーが座っていた。
みーちゃんも当然のようにルーシーの膝の上で丸まっている。
俺の使い魔のはずなのに・・・
嫉妬にかられながら挨拶をする。
「おはようございます。」
マリアさんは微笑みながら返事してくれる。
「おはよう。昨夜はよく眠れた?」
「はい。」
「一人で寂しくなかった? 寂しいなら一緒の部屋でもいいのよ?」
「大丈夫です! 昔から一人で眠っていたので!」
体は子供でも中身おっさんな身としては、落ち着いて寝られなくなるので勘弁してほしい。
「そうなのね。寂しくなったらいつでも来ていいのよ?」
「ありがとうございます。その時にはお願いします。」
とりあえず話を逸らそう。
「ルーシーもおはよう。」
まだ少し警戒しているようだが、それでも返事してくれる。
「おはよー。」
「みーちゃんもおはよう。」
・・・返事してくれない。
ルーシーが、
「みーちゃんじゃなくてニャニャだよね。」っというと、
「にゃっにゃっ」と返事している。
すごい負けた気分だ。
エランさんとマリアさんの気の毒そうな顔がより一層敗北感を強める。
ここは男として負けたままでいいんだろうか?
いやよくないな。よくない・・・
「みーちゃんて名前も可愛くない?」
ルーシーが不思議そうに、
「ニャニャのがかわいいよ?ねーニャニャ。」
「にゃっにゃっ」
あいつ後で誰がご主人様か思い知らせてやる・・・
とりあえず、負けたままではいられないので、秘策を持ち出すことにした。
「ニャニャも可愛いけど、例えば間をとってミーニャとかはどうかな?」
ルーシーは少し考えこんで、
「ミーニャ・・・。ニャニャはどうおもう?」
みーちゃんはしょうがないなとこちらを見ながら、
「にゃっにゃっ」
と返事をした。
「じゃーこれからはミーニャってよぶね。」
よし!これで負けてないとか思っていたら、なぜかエランさんたちから憐れみの目で見られていた・・・
ちょうどそのタイミングで朝食が運ばれてきたため、勝負は終わりを告げた。
朝食のメニューはサラダとスープとパンという簡素なものだった。
サラダのソースはなんか柑橘類と塩を合わせたような味でまずくはなかった。
スープは野菜を刻んだものと薄い肉が入った塩味だ。
優しい味でおいしかった。
パンはライ麦パンのような感じでそのまま齧ると少し硬かった。
周りを見るとスープに浸して食べているので真似してみたらスープも染みておいしかった。
マヨネーズとか調味料を作って食事チートとかも有りかなとか考えていると、
エランさんからお声がかかった。
「ケンタ君はこれからここで生活してもらうわけだが、もう少し大きくなるまでは敷地外には出ないようにしてほしい。
毎日警備はしているけど、野生動物や魔獣等が村に入り込んでくることもないとは言えないからね。」
「わかりました。」
「特に仕事をする必要もないから、まずはここの生活に慣れてほしい。一応君の故郷についても調べてはいるので何かわかったら教えるね。他に何か困ったことがあれば、メイドや僕たちに話してくれればいいから。遠慮はしないように。」
「ありがとうございます。」
「あと、僕は君を家族だと思って接するから、君もそう思ってくれると嬉しいかな。」
その言葉を聞いたとたん、なぜだか涙があふれてきた。
両親も兄弟、親戚すらいない生活を続けてきた自分にとって、家族という響きは他人事だった。
一人でいることは普通だったのだが、本当は寂しかったのだろうか?
普段なら涙なんて見せないのに、子供の体に引っ張られているのか涙が止まらない。
涙を拭きながらもう一度お礼を伝えようとするも、うまく言葉にならない。
いつの間にかみーにゃが目の前にいて「にゃーにゃー」と鳴いている。
自分は家族じゃないのかと抗議しているように見えた。
そんなみーにゃに謝りながら、頭を撫でると、わかればいいんだよと言う感じで肩に乗ってきた。
そんな様子を見ながら、エランさんたちは優しい笑顔を向けてくれた。
なんだかとても恥ずかしく、同時に心が温まる朝食の時間だった。