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「さて、とりあえずニャニャのことは置いておいて、まずはこの家の情報から始めよう。」
「まず、この家には現在妻と娘以外に4人いる。メイドのエドとジェニファ、執事兼雑用兼庭師のアーノルド、料理兼雑用担当のダルマ。夕飯時に改めて紹介しよう。」
「わかりました。」
「続いてこの領について説明しよう。」
「もともと未開発の地域だったんだが、5年前領地を賜り現在開拓中。住民は現在187名。」
「187人だと少なくないですか?」
「もともと未開発地域だからね。人数が多いと食べさせることができない。開墾をしながら猟をしたり、他の領から必要物資を支援してもらってなんとか維持していたんだけど、最近になってなんとか自給する分くらいは畑からとれるようになったんだ。だから、もう少し安定したら改めて住民を募集する予定だね。」
「そうなんですね。それにしてもエランさんの若さで領を賜るってすごいことなんじゃないですか?」
「それについては少し難しい話になるんだけど聞きたいかい?」
「聞いてみたいです。」
「それじゃあ簡単に説明しよう。難しかったら質問してね?」
「はい。」
「僕は辺境伯の四男として生まれたんだ。四男じゃ家を継げないから15歳で家を出て騎士団の試験を受けて無事に入団。
もともと剣が得意だったこともあり、順調に出世をして18歳で小隊の隊長になったんだ。」
「18歳で小隊の隊長って早くないですか?」
「運がよかったんだよ。本来ならそんなに早くはなれないんだけど、演習中に近くの村が魔獣に襲われていて討伐に行ったんだ。
その時に活躍したことで早めに出世することになったんだ。」
「すごいですね。」
「ありがとう。でも貴族の生まれだと、平民よりも早く階級があがるから上げやすかったんだろうね。」
「騎士団は全員貴族なのかと思ってました。」
「さすがに全員を貴族にすると人数が足りないから、平民でも試験を受けて合格すれば入団できるんだよ。」
「そうなんですね。」
「うん。それで19歳になったときに、東の帝国と戦争になったんだ。」
「戦争ですか?」
「うん。この国の東側にシュバルツ帝国という国があるんだけど、定期的に戦争を仕掛けてくるんだ。」
帝国って聞くと周りの国を侵略してるイメージだな。
「一帝国がなぜ戦争を仕掛けてくるかと言うと・・・
簡単に説明すると、大魔法帝国が幻獣に滅ぼされた際、世界中にかなりの影響があり、高濃度の魔素だまりが大量に発生。その影響で魔素だまりにはかなり強力な魔獣が発生。人間種はその地域を避けるようにしてなんとか生活していた。
その後住める土地にだんだんと人が増え、生活圏を広げるため大量の被害を出しながらも、魔素だまりの魔獣討伐しながら生活圏を広めていった。
更に人が増え領土を拡大して都市をつくっていき、大魔法帝国崩壊後、大陸初となるシュバルツ王国を建国。
建国後も領土を広げていくのだが、辺境では常に危険と隣り合わせ。中央は住みやすい土地で安全に富を蓄えて、中央と辺境ではどんどん格差が広がっていった。
やがて富を奪われ、危険だけ押し付けられる辺境は反乱を起こす。慌てた中央は鎮圧に乗り出すが、絶えず魔獣と戦闘していた辺境と中央の軍では装備に違いはあっても、練度で劣るため鎮圧することができず、やがて辺境の地ではそれぞれの都市が独立し国を興してしまった。
ただどの国も独立したのはいいけど、周辺は魔獣の生息地。食料も中央が独占していたため、シュバルツ王国を倒すところまではできなかった。シュバルツ王国は独立自体は認めるも、あくまで自分たちの国の属国という考えでシュバルツ帝国と国名を変更。
そうして現在の形になったが、帝国としては魔獣と戦うのは周辺国に任せたい。かといって放置しておくと周辺国が領土を広げ国力をどんどん上げていくことになってしまう。その為、周辺国が強大にならないように絶えずどこかの国にちょっかいをかけているそうだ。
「迷惑な国ですね。」
思ったことを口にすると、エランさんは苦笑しながら、
「そうだね。まーシュバルツ帝国内はほとんどの魔獣を退治してしまったため、他の国と戦争をしないと軍が手柄を立てることができないからっていう理由もあるんだ。」
「なるほど。軍に不満を貯めさせないって面もあるんですね。」
「うん。そういうわけで僕が19歳の時に帝国が攻めてきたんだ。そこで本来なら僕は若造だから前線に送られるはずだったんだけど、軍の上層部としては、なまじ武勇がある僕に手柄を立てられると困るため、僕の小隊は将軍に護衛任務に当てられた。」
「手柄を立てられると困るんですか?」
「うん、うちの実家が文閥系でね。財務大臣をしているんだけど、僕があまり手柄を立てすぎて、出世しすぎると派閥的に問題があるんだ。」
「門閥系なのに軍閥でも力を持ちすぎるとバランスが崩れるからですか?」
「そうだね。」
「それで手柄を立てないように、後方で護衛任務をしていたんだけど、当時攻めてきた帝国の将軍がどうも将軍になったばかりのようで、どうしても手柄がほしかったんだろうね。いつものように小競り合いをしているように見せかけて、裏から将軍直々に奇襲をかけて本陣に突っ込んできたんだ。」
「それは無茶をしますね・・・」
「本当だよね。そこで間が悪いことに護衛をしていた僕の小隊に突っ込んできて、つい倒しちゃったんだ・・・」
「大手柄ですね。」
「うん。さすがにうちの将軍を倒されるわけにもいかなかったからね。
それで将軍を倒された帝国は撤退。無事に勝利して凱旋し、謁見の間で褒章式が行われたんだ。
本来なら男爵位を授与して終わりなんだけど、今回は相手の将軍を倒してしまったため、褒賞としては足りなかったんだ。
かといっていきなり子爵にするのは難しく、19歳の若さでこれ以上軍内での地位を上げてしまうと、派閥的に問題が出てしまう。そこで新しい開拓地を開きそこの領主にしてしまえとこの地を与えられたんだ。
未開拓の地域には強い魔獣も多いけど、何かあった時に国から兵を派遣するにも距離が遠くて到着するまで半月以上かかる。
そういった点でも領主が強いことが求められるんだ。」
「それで領主になったんですね。」
「まさか自分が領主になるとは思ってなかったんだけどね。それでもともと婚約していたマリアと結婚し、開拓民を連れてこの地に住み始めたのが5年前だね。」
「いちから開拓するって大変ですよね。」
「本当にね。でも国からの支度金と実家からの支援があるからまだ助かってるけどね。税も戦争への参加も20年間免除されることになっているから、なんとかその間に領を発展させないとね。」
「何かお手伝いできるといいんですが・・・」
「大きくなったら手伝ってもらうから、今はルーシーの遊び相手をしてくれるだけで助かるよ。」
「頑張ります。」
「妹ができたと思って、気楽に生活してくれればいいよ。」
話がひと段落ついたタイミングでメイドのエドさんが夕飯に呼びに来た。
「では、わからないことは追々説明するので、今日は夕飯を食べたらゆっくり休むといいよ。」
そうして夕飯時に皆を紹介してもらい、そのあとはゆっくりと会話したりし早めに寝ることになった。
こうして異世界での1日目が終了した。