プロローグ
「早く帰ってみーちゃんと遊ぶかな」
帰宅途中、住宅地を家に向かい歩いていた。
すると目の前の空間に突然裂け目のようなものが見え、
思わず「えっ!?」とつぶやいたとたん目の前の裂け目に吸い込まれた。
・・・・・・
気づいたときには目の前に白い光があった。
まぶしくはなくどこか暖かく感じる。しばらく見ていると突然頭の中に声が響いた。
「やぁ。」
「えーっと・・・」
まったく状況が読めないが、どうやら声は目の前の光が発しているようだ。
そもそもここはどこなんだろう?
「すみません。ここはどこなんですか?」
「ここは世界の狭間だよ。」
どこだよ・・・と警戒しながら質問を続けてみる。
「えーと、まったくわからないんですが?」
「ここは数多ある世界と世界の間の何もない空間だ。」
「??」
「私は放浪の神。いろいろな世界を渡りながらいろいろな景色や料理を堪能するのが趣味なんだ。次の世界に移動中だったんだが、偶然君を発見したから来てみたんだ。」
おー・・・自称神来た!
っということは、もしかして死んじゃったのかな?とか考えていると、
「ふむ。状況が理解できていないようだね。少しスキャンさせてもらうね。」
っと言うや、こちらに向かい何かを飛ばしてきた。
ぶつかったと思ったとたん、白光に包まれる。
「ふむふむ。どうやら偶然開いた穴に落ちてしまったようだね。普通はそんなことめったに起きないのに運が悪いね。」
白い光にしか見えないが、どことなく苦笑いしているように感じる。
「よくわからないんですが、死んでしまったっということでしょうか?」
「いや。死んではいない。だがある意味では死ぬよりもひどい状況だ 死んでいれば輪廻の輪に戻って転生できるだろうが、ここでは時の経過もなく、動くことも考えることもできず死ぬこともないから、永遠に浮いているだけの状態だった。運が良ければ、どこかの世界に漂着することもあるかもしれないけど、それも滅多に起きないしね。」
「今はどうして動けるんですか?」
「一時的に私の空間に保護しているからだね。」
よくわからないけど助けてくれたってことか。
「助けていただいてありがとうございます。そのうえで申し訳ないのですが、なんとか帰ることできませんかね?」
「そうだね。送ることもできるけど、質問していいかな。」
「はい。どうぞ。」
「君は今の人生を楽しんでいるかい?」
意外な質問が来たなと思いながら、今までの人生を振り返ってみる。
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佐藤 健太30歳
普通のサラリーマンの家に生まれ育ち一人っ子。
貧乏ではないがかといって裕福というわけでもないほどほどの生活。頭脳も運動能力も人並み、強いてあげれば、高校時代に漫画家を目指したりして絵はそれなりに自信がある。ただ漫画家になれるほどの才能はなかった。
中堅の大学に受かり2年の時に、交通事故による突然の両親の訃報。親しい親戚もおらず、保険金でなんとか大学を卒業し、なんとか受かった会社がブラック企業だった。
1年前まで何とか頑張ってはいたが体を壊して退社。ブラック企業にいたときに、友人とは疎遠になり彼女もいない。寂しかったのでペット可のマンションに引っ越し、猫を飼い始めた。三毛猫なのでみーちゃんと命名。猫いいよね!
親の遺産と忙しすぎて使えなかった給料でしばらくは働かずに一人旅行に行ったり、ずっとできなかったゲームをしたり小説を読んだりしていたが、最近になり派遣会社を経由してコールセンターで働きだした。唯一の楽しみは帰宅して、みーちゃんと遊ぶこと・・・。
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今までの人生を振り返り、幸せではないが、かといって生きていける分不幸とまでは言えない人生。
猫と遊ぶことだけが楽しみってどうなんだろう・・・
「何とも言えないです・・・」
「そうか。そこで提案なんだけど、異世界とか興味ない?」
「異世界ですか?」
「そうだ。ゲームのような剣や魔法の世界。エルフやドワーフなどの亞人種がいて、魔獣や幻獣もいる世界。さっき君の記憶を見させてもらったけど、君がしていたゲームや読んでいた小説とかから興味があるんじゃないかと思ったんだ。」
「そうですね。確かに現実ではありえない剣と魔法の世界とか憧れますね。」
「もしよければその世界に送ってあげよう。」
これは異世界転移のお誘い!? 頭の中に龍と戦う自分の姿が思い浮かぶ。
これは行くしかないだろ・・・、いやっちょっと待て!
その世界に行って、ほんとに魔法が使えたりするんだろうか?
そもそも現実で戦ったこともないのに異世界なんて行ったらすぐ死んじゃいそう!
これはもうちょっと情報を集めてから考えよう。
「その世界に行ったとして、魔法を使うことができるんですか?」
「君が住んでいる世界では魔素がほとんどなく、魔法が使えない代わりに科学が発展しているが、そのために魔法を使うための才能が退化しているようだね。」
「では、その世界に言っても自分では使用できないんですか?」
「いや、その世界に送る場合は魔法を使えるようにしてあげよう。それに今の年齢では存分に楽しめないだろうから、その世界に対応した体に作りかえて若返らせてあげよう。」
「それはすごい好条件ですね。あと、例えば異世界転移の定番を付けてもらうことはできますか?」
「あー。鑑定とアイテムボックス、言語理解だっけ?」
「そうですね。あと作品によって空間転移とかマップとかステータスとかいろいろありますね。」
「ふむふむ。鑑定とアイテムボックスのスキルを与えよう。言語については共通語と種族ごとの言語があるが、会話や文字を自動変換して意識しなくても文字を書いたり話したりできるようにする。空間転移は空間魔法を使えるようになれば使用できる。マップとステータスについてはゲームのように視界に映したりできるようにして、設定をいじれるようにしてあげよう。」
これは好条件すぎないか?逆に不安になってきた。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「それはね、君が異世界に行った後に、君の今までの人生を譲ってほしいんだ。」
「どういうことですか?」
「せっかくだから、君が異世界に行った後に、君になり替わろうと思ってね。
周りの情報を書き換えるよりは、元からいる人になり替わるほうが楽なんだ。情報を書き換えると徐々に矛盾が生じて混乱することがある。その点君になり替わるだけなら先ほどスキャンした情報があるから簡単になり替われる。こうやって君の姿になることも簡単だ。」
そう言うや白い光が自分と同じ姿に変わっていく。
おー鏡見てるみたいだけどちょっと違和感があるな。鏡と違って左右が逆になってるからかな?
「なるほど。今までの人生を譲る見返りに先ほどの能力を与えてくれるんですね?」
「そうだね。あとは君にも新しい世界で楽しんでもらうためでもある。魔素がある世界では、個の力が強力になりやすい。
何の能力もないと生きるのが大変になりやすいからね。どうせなら君にも新しい世界で幸せになってほしい。そのための特別サービスだ。」
うーん。ここまで好条件なら異世界転移で第2の人生を始めるのもいいかもしれない。
もう行っちゃおうかな?いいよね?
「今までの説明からぜひ異世界を楽しんでみたいのですが、あと一つだけいいですか?」
「なにかな?」
「最近飼い始めた猫を一緒に連れてくことはできますか?」
「ふむ。そのまま連れてくことは可能だけど、普通の猫だとすぐに死んでしまうかもしれない。」
「死んじゃいますか?」
それなら悲しいけど残して世話してもらったほうがいいのかな?
「そのままだとさすがに弱すぎるから、君の使い魔として登録しよう。」
「使い魔ですか?」
「使い魔にすれば、召喚で呼び寄せたり言葉に出さなくても意思疎通ができるようになる。なにより君の魂と関連付けされることによって、君が死なない限りは体が消滅しても再度召喚すれば復活する。普通の餌も食べられるけど基本は君の魔力を餌にすることによって餓死することもない。一定以上成長すれば霊的に進化することも可能だ。」
「だったらぜひ一緒に連れて行きたいです!」
「じゃー使い魔として登録しよう。ついでに新しい世界でも使い魔が作れるようにしてあげよう。もし新しい使い魔にする場合は、対象に使い魔スキルを発動し相手が承諾すれば新たに使い魔として登録される。特に数の制限はないけど、新たに召喚する際や使い魔が魔法やスキルを使ったりするときに魔力を消費するから気を付けるように。」
神様が何かを唱えると、目の前にみーちゃんの姿が現れたと思ったら体に吸い込まれた。
そのあと魔法の使い方や新しい世界の基本的な情報など教わりいよいよ異世界に連れて行ってもらうことになった。
「出現する場所の希望はあるかな?」
「特にないですが、できれば田舎のほうがいいですね。」
「それなら最近開拓された村のそばにしよう。私が最後に旅した場所だけど、領主が優しい人だから君を養ってくれるだろう。」
「養ってくれますかね?」
「タイミングよく会えるようにするから、あとは自力で頑張ってほしい。」
「わかりました。」
「それでは新しい人生を楽しんでほしい。君の人生に幸あらんことを!」
そのとたん視界が真っ白に変わる。
新しい世界に期待を膨らませながら意識を失った。