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「廃病院にて」 都市伝説ネタ7「ちょっと待て」より

作者: 雷禅 神衣

「うわっ!なんかそういう雰囲気出てるな」

「なんだよ、もうビビったのか?」

「バ、バカ言うなよ。まだ始まったばかりじゃねぇか」

「小便漏らすなよ、汚ねぇから」

「漏らすかっての!!」

都内某所、「出る」と評判のある廃病院にやってきた雄二、琢磨、昇の三人は、早くもテンションが上がっていた。

「ええ、こちらが現場の廃病院です。出るともっぱらの噂なんですが」

「今日はそちらの検証をしたいと思います」

ビデオカメラを持った雄二の前で、琢磨と昇がまるでレポーターのようにおどけている。

この雰囲気だ。本当は三人とも多少なりの恐怖は感じている。だがそれを悟られぬよう、口数が多くなる。

これは恐怖を必至で隠そうするとする典型的なパターンなのだ。

「じゃあ、いよいよ入るぜ」

「お、おうよ」

「早く行こうぜ」

三人は既に荒廃の進んでいる廃病院の玄関口から中へ入った。

「おじゃましまーす」

三人の声が揃って響く。正面には受付のようなカウンターがあり、その周辺にはソファが並べられている。

廃病院となってもう何年も経つため、ソファの塗装はすっかり剥がれ落ち、色が変色している。

正面から向かって右側には廊下があり、その先には「内科」と書かれた部屋のドアがある。

そこから更に奥へ進むと階段があり、二階へと続いている。

正面左側には「小児科」と書かれたプレートがドアの前に落ちている。

ドアノブに手を掛けたが回らず、嫌な音が響くだけだった。

「思ったより荒れてないね」

昇がそう言うと、姿勢を低くし、何かを探すような仕草を見せた。

院内は荒廃が進んでいるものの、荒らされた形跡などは無かった。

当時からあったものがそのまま時の流れを通過し、色褪せたような空気が漂っている。

窓こそ割られているが、人為的に割られたのか、それとも建設上の風化で割れたのか判断が付かない。

天井に設置されている蛍光灯は全て砕けており、見るも無惨だ。

「やっぱりこんなところ、何も無いよ」

せっかく来たのだ。その証拠を持って帰ろうと思っていたのだが、訪れた度胸を誇れるようなものは何も無かった。

そんな他愛も無い事を言いながら三人は奥へと進んだ。

やがて手術室に辿り着き、この肝試しも終わりを告げた。もはや回る場所は無かった。

三人は手術室で拾ったカルテを戦利品代わりに、廃病院を後にした。

「おじゃましましたー」


翌日、早速撮影した映像を見ようじゃないか、と言う話になり

三人は雄二の家に集まっていた。雄二の両親は共働きで昼間は誰も居ない。

自分の部屋にもテレビやビデオデッキはあったのだが、リビングにあるテレビの方がインチが大きいため

リビングで見ようという事になった。リビングはキッチンと融合しているタイプで

部屋の片隅には電話が置かれている。

三人は撮影したテープをビデオデッキに入れ「再生」のボタンを押した。

ビデオは再生され、あの病院が画面に映し出される。

「なんだか皆ビビッてるよな」

「なんだかんだでちょっと怖かったぞ」

「今思うと無理してるよな」

映像に映し出された三人の顔は見事に引き攣っていた。本当はとても怖かったのだが、それを認めるのが嫌で強がっていたのだ。

映像は三人がいよいよ病院内へと侵入する場面が映し出されていた。

「おじゃましまーす」

「いらっしゃい」

「はっ?」

「えっ?」

三人は同時に顔を見合わせた。

「な、なんか・・・聞こえなかったか?今」

「気のせい・・・か?・・」

「まさか、冗談だろ」

だがしかし、三人は確かに耳にした。「おじゃましまーす」と言う言葉の後に

「いらっしゃい」と言う不気味な女の声を・・・。

映像は先へと進み、異様な雰囲気を放つ院内が映し出される。

「思ったより荒れてないね」

と言ったのは琢磨だった。しかし次の瞬間

「ありがとうございます」

と言うまたしても不気味な女の声が入っていた。

「おい・・・これって・・・」

「嘘だろ・・・あの時こんな声聞こえなかったぞ」

「何かの間違いじゃないのか・・」

映像は尚も続く、カメラが階段付近にアングルを変えると

「やっぱりこんなところ、何も無いよ」

これを言ったのは雄二だ。

「そんなことないですよ」

「うわっ!!」

「間違いない・・・俺たち以外の声が入ってる!!」

「なんだよ、これ!」

映像は終盤へと差し掛かり、三人が病院から出て行く場面になった。

「おじゃましましたー」

「ちょっと待て!!」

今までに無いほどの陰湿で、声が低く、攻撃的な声が響いた。

「ひぃっ!!」

「も、もう消せ!ビデオ消せ!どうかしてる」

「あ、ああ」

昇がビデオの「停止」ボタンを押したときだった。

突然、部屋の片隅に置いてある家庭用の電話が鳴った。

「な、なんだ!!」

「電話だよ」

「脅かすなよ」

雄二は立ち上がり、受話器を取った。

「・・・・雄二?」

「雄二、どうしたんだ?」

雄二は受話器を耳に当てたまま何故か動かなかった。

おまけに受け答えの言葉を発する様子も無い。一体どうしたのだろうか・・・。

「おい、雄二。何かあったのか?」

見兼ねた琢磨が立ち上がり、雄二から受話器を奪い取った。そしてそれを耳に当てる。

「ああ・・あああああ・・・・・」

雄二の顔は引き攣ったまま動かない。唇が痙攣し、その震えは肉体までも揺るがせた。

同じように琢磨も凍り付いた。もはや動く事が出来ないほどの恐怖に駆られている。

「どうしたんだよ!」

最後に立ち上がった昇が琢磨から受話器を取り上げると、それを耳へ持って行った。

そして、何故二人が凍り付いたまま動かなくなってしまったのか、その意味を知った。


「もしもし、○○病院ですが、お持ち帰りになったカルテを返していただけないでしょうか・・・」


それは録画された映像に入り込んでいた女の声と同じ声だった・・・。


END

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