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馬車に揺られる事数十分、目的地の湖に到着致しました。
馬車から降りると丁度お嬢様も渋々ですが王子の手を借りて降りているところでした。
私とパメラはお嬢様の元へ向かい、私はベールを受け取るとパメラはお嬢様の手を取って誘導します。どうも王子とは手を繋ぎたく無いそうです。
二人を先頭に500年前から建っている神殿の中に入って行きます。神殿内は両脇にはそれぞれの種族が信仰する神さまの像が設置されています。
そこを抜けると綺麗な湖が広がっています。綺麗に見える湖ですが、既に前回の浄化から日にちが経っていますので人には良くない水になってしまっている事でしょう。
お嬢様はパメラから手を離すと湖に入って行かれます。肩まで浸かるところまで行き、手を組み、目を閉じて祈ります。
するとお嬢様を中心に薄い青色の光が優しく湖に等間隔で広がっていきます。
これが、聖女様の浄化の力です。
終わるまで見守りたい所ですが、お嬢様が上がって来た時の為に私とパメラは火の準備を始めます。
私達が触ると冷たく感じる水を何故か冷たく感じないというお嬢様ですが、水から上がれば冷たく感じるそうです。
それから半日、お嬢様は祈りを捧げました。長時間ですがお嬢様にとっては数分の出来事らしいので、余り苦痛には感じないそうです。
「さ、寒ぃ〜!」
「お嬢様こちらにお座り下さい」
「お嬢様、ホットココアです」
「ありがと」
お嬢様の肩にタオルをかけ、パメラがミルクたっぷりのココアを渡します。カタカタ震えるお嬢様はココアを飲むとホッと息を吐けたようです。
「お嬢様、濡れた服をいつまでも着ているのはよくありません。先ずは着替えましょう」
ココアを勢いよく飲み切ったタイミングでお嬢様に着替えを促します。
パメラと共にお嬢様が着替えの為にこの場から離れたと同時に王子がいつの間にか私の側に来ておりました。
「アリアナ」
「はい?」
「帰りは一緒に馬車に乗れ。帰りも猿と二人なんて吐き気がする」
…すごい言われようですね。帰りは民衆の前には行かず、直接城の方に戻るので誰が乗っても特に問題はありません。
ですが、国王陛下が二人の仲を良くしたい思惑のせいで一緒の馬車に乗ったかどうか常に部下に報告させています。
一度別々に乗った時、城に戻った王子に国王陛下が長々説教されたそうです。流石にそんな事何度も聞いていられないと渋々一緒に載っています。
ですが、二人が一緒に乗っていれば他に誰か乗っていても国王陛下は何も言わないのを良い事に私とパメラやレオ様が乗る事にしています。
そう言えば、私は帰りは常に一緒に乗ってますね。パメラとレオ様の組み合わせ、少ない気がします。いえ、一度もない気が…。
「アリアナ?」
眉を下げ、こちらを見る王子と目が合いました。
いけませんね、少し考え事をしてたせいで王子を無視する形になってしまいました。
それにしてもそんな表情する王子は久しぶりですね。
500年生きても針仕事が未だに苦手でよく手に針を刺してしまいます。その度幼い頃の王子は眉を下げて心配そうに血が滲む指先を手当てしようとしていました。
思わず昔を思い出し、今の王子を見るとご立派に成長されてと感動で涙が滲み出ます。
ハンカチを取り出し目を拭う私を見て、少し慌てたように再び呼ばれます。
「アリアナ?どうした」
「申し訳、ありません」
「アリアナ⁉︎ちょっとなんたら王子!アリアナに何したのよ⁉︎」
着替え終わったお嬢様が泣いてる私を目撃して、その原因が側に居た王子だと詰め寄ってしまっています。
早くお嬢様の誤解を…いえ?王子の成長に感動したという事は王子が原因でしょうか?
「お辞め下さいお嬢様!」
パメラの叫びに顔を向けるとお嬢様が王子の襟元を掴んでいました。
「お嬢様!」
一瞬思考停止してしまいましたが、この事態はいけません。
私は慌てて二人の間に入ってパメラと共に止めにかかります。
「お嬢様!お辞め下さい!」
「止めないで!コイツ、アリアナを泣かしたのよ⁉︎」
「違います!ちょっと涙は出ましたが…それは感動して、出たと、言いますか…」
言っていて少し恥ずかしくなって来ました。どんどん声が小さくなってしまいましたが、どうやらお嬢様に声が届いたようで手を離して頂けたようです。
「本当にアイツのせいじゃ、無い?」
「はい」
「…なんたら王子!次、紛らわしい真似したら許さないんだから!」
プンプン怒るお嬢様は荒い足取りで本来私とパメラが乗る馬車に向かってしまいます。
パメラが足早に追いかけて馬車が違うと止めに入りますが、腕を掴んで一緒に乗り込んでしまいます。
どうしようかと思いましたが、流石に今の状況で王子とお嬢様を一緒にするのは宜しくありませんね。
慌てて追いかけようとした私の手を王子が掴みました。
「どうされ、」
「お前はこっちだ」
「えっ」
ぐいぐい引っ張られ、王子と同じ馬車に乗ってしまいます。
途中レオ様に何か伝えていましたが、混乱している私には何を言っているか分かりませんでした。
そんな間に馬車は城に戻る為に動き出してしまいました。