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新しい物語です。
ご覧いただければ幸いです。
とある国の城の離れのとある一室。
私は日の出と共に起床して何時ものようにメイド服に身を包み、長い髪を首の辺りでお団子にして結い、身支度を整えます。
扉を開けると側のいくつもの扉から同じように身支度を整えた同業者が出て来ました。
「おはようございます」
お互い朝の挨拶をしながら使用人専用の少し広めの休憩室に向かいます。そこで朝のミーティングをします。
「おはようございます。これから朝のミーティングを始めます」
メイド長と執事長が皆の前に立ち、本日の来訪予定者と食事の内容、下女達の仕事が割り振られます。
そして私の仕事はいつも通り、マイお嬢様の侍女として、同じく侍女のパメラと共にお勤めです。
部屋に行く前に一度厨房へ寄り、パメラと分担してワゴンにお茶の道具の準備をします。
準備を終え、お湯が冷える前にワゴンを押してお嬢様の部屋の前まで向かいます。
部屋をノックしますが、返事はありません。ですが、これはいつもの事。朝が弱く、起こして欲しいと仰っていたので私は扉を開けます。
「参りましょう、パメラ」
「はい!」
中に入るとカーテンの閉め切った暗い部屋のベッドの上でこの部屋の主人マイ・サワダお嬢様が頭まで布団を被って眠り続けていました。
パメラは窓際のカーテンを開けに行き、私はお嬢様を起こしに行きます。
「おはようございます。マイお嬢様」
「んー…後五分」
「それはなりません。本日はお勤めの日です」
「うぅ…」
唸り声を上げて渋りながらも起きて下さいました。寝起きのせいで、この国では珍しい黒く長い髪が乱れてしまっています。
私はパメラを呼び身支度を頼みます。
その間に私はお茶の用意を致します。
ポットを温め、ポットに茶葉を入れて一杯分のお茶になるくらいお湯を注いで蒸らします。
「おはよう」
「おはようございます。マイお嬢様」
身支度を整えたマイお嬢様が朝の挨拶をしながら椅子に腰掛け、私はお茶を淹れたカップをお嬢様の前の机に置きます。
それにしても相変わらずパメラのセンスは良いですね。私は服のセンスの良し悪しが分かりませんから。
「ねぇ、お腹空いたんだけど、ご飯は?」
いつもでしたらお茶と一緒に朝食の準備をして召し上がっていただいていますが、本日はそうも言っていられません。
「本日はお勤めという事でディラン王子がこちらの離れに参ります。その際、ご一緒に朝食を召し上がって頂きます」
「…あの胡散臭い笑顔の王子、か…私、苦手なんだけど」
お嬢様の発言には思わず頭が痛くなります。
この国ワーテゥル王国の第一王子であるディラン・ワーテゥル様に本来そのような発言をすると一瞬で極刑になりますがお嬢様には許されます。
それはお嬢様がこの国の為に異界より呼ばれた聖女様であるからです。
この国が出来る前の遥か太古の昔、この世界は五つの大陸、五つの種族に分けられていました。
焔の大地のワーフルフ。雫の大地のセイレーン。樹の大地のエルフ。嵐の大地のグリフォン。鋼の大地のドワーフ。
そして五種族はお互い一切の不干渉、それが今までのあり方でした。
そしが今から700年前、神が新しい種族を雫の大地に創り出しました。それが人です。人は同じ大地のセイレーンからいろいろな事を教えられ、知識を得ていきました。
ところが、知識を得た人は欲というものを知ってしまいました。自分達の領土が欲しい、なら奪えば良い。
人はワーテゥル王国という軍事国家を作り上げ、流石に恩のあるセイレーンは攻める事が出来なかったのか、隣の樹の大地のエルフに攻撃を仕掛けました。
エルフは応戦するにも狩の知識はあっても戦う術を知りません。瞬く間にエルフは数を減らしてしまいました。
エルフは人に降参するしかありませんでした。
これに危惧した他の種族は人に対抗すべく戦闘の知識を増やしていきました。
ところが誕生してからたった200年、綺麗な水が豊富な雫の大地の者でありながら戦で水を汚し、樹の大地のおかげで綺麗になる筈の水も人が木々を燃やし尽くしたせいで浄化も出来ない。
それに神がお怒りになり、人に呪いをかけました。
人は毒の水しか手に入れらなくなったのです。
どんなに綺麗にしする技術を身につけても意味が無く、備蓄の水も直ぐに底を尽きそうになり、その時のワーテゥル王は神に懇願しました。
自分達が生み出した我が子でもある人に慈悲としてある条件を出しました。
「異なる者を祈り持って水に浸けよ。さすれば水は浄化されん」
訳すと人以外の者に水が綺麗になるよう祈りながら水に浸かってもらうと水が浄化されると言う事です。
王国は早速他種族に頼みに行きますが、あれだけ攻めて来る人に協力する者は居なく、全て断られてしまいます。
考えに考え、王国は異界から素質のある者を召喚する方法を考えました。
それがマイお嬢様のような聖女様と呼ばれる存在です。
聖女様は数多の人の命を犠牲に召喚する為、そうそう代わりを用意する事は困難です。それに二度と元の場所に戻れない聖女様のメンタルケアも疎かになってはいけませんでした。
それを知らなかった500年前は本当に大変でした。
「アリアナ?」
「、はい」
つい物思いに更けてしまいました。
その間にマイお嬢様はお茶を終えて、部屋を出ようとしているのに動かなかった私に声をかけて下さったようです。
いけませんね。歳のせいでしょうか。
よく若いと言われますが、若く見られるのは種族の特徴であるので人からすると凄い歳を取っています。
あ、申し遅れました。私はアリアナ。齢500歳を超えた生き残りのエルフであります。