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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

H駅の潰れ鬼

作者: ちょび

H駅の新人駅員ナカタニは潰れ鬼の正体を暴こうと躍起になっていた。


「ミシマさん!今日は金曜日ですよ!!」

ナカタニは駅長のミシマに声をかける。


「ったく、毎週毎週言われなくてもわかってるよ!」

ハァと溜息をつくミシマ。


「今日こそ潰れ鬼でますかね?」


「こらナカタニ。不謹慎だぞ。」


「勘違いしないで下さいよ?犯人を突き止めてお客さんに安心して貰うんです!」


「理由はどうあれ人が死んでるんだ。お客さんの前では言うなよ。」

釘を刺すミシマ。


「わ、わかってますよ…。」



「よし、そろそろ12時32分、お前の好きな終電が来るぞ。切符切ってこい。」

ミシマはそう言うとナカタニの背中を押した。



「…あんな事言ったけど今日酔い潰れてる人いないといいなぁ。」

そうポツリ呟くナカタニ。



プシュー。

終電が到着し人がポツリポツリと降りてくる。


すぐに人足は止み、ナカタニはミシマの元へ戻る。


「ただいま戻りました。」


「おう、お疲れさん。今日もお前、泊まってくのか。」


「はい!ミシマさんもですよね?」

ニヤリとするナカタニ。


「馬鹿、お前と一緒にするんじゃねぇよ。」

フッ、と笑うミシマ。


「ミシマさんが駅に寝泊まりしてるって聞いた時は驚きましたよ!その手があったか!って!」


「まぁ俺は土日に家にいると妻と娘がうるさいからな…。寝泊まりはこんな田舎だからこそできるんだ。チクるなよ?」


「誰にもチクりませんよ!最近僕も泊まってますしね!…それにしてもミシマさん優しいのに…今日もこれ、ありがとうございました。」

空になったペットボトルを手渡すナカタニ。


「おう。夏は熱中症と脱水には気をつけないとな!換えはあるから飲みたきゃ勝手に取ってくれ。」


「いつも助かります。」

がちゃりと小さな冷凍庫を開けるナカタニ。

中には半分ほど水を入れ凍らせてある複数の500mlペットボトル。


そのまま談笑する2人。

1時間ほど経つ。



「さて、見回り行ってきますね。」

席を立つナカタニ。


「もうお客さんいないんだろ?」


「もしかしたらホームに残ってる人が居るかもしれないので念の為ですよ。」


「そうか。気をつけてな。」


「はい、ありがとうございます。」

ナカタニは駅長室をあとにした。




「本日も異常なー…ん?」

ホームに備え付けられたベンチに目を凝らすナカタニ。

よく見ると人が座り込んでいる。



「おっと!これはまずい!」

駆け寄るナカタニ。



「お客さん、大丈夫ですかー?起きて下さい!終電過ぎましたよー!」


「んん…。うるせぇなぁ…。」

眉間に皺を寄せる中年の男。


うっ……物凄い酒臭さだ…。

「…お客さん、今日は金曜日ですよ!起きて下さい!」


「金曜日がなんらっ…てんだ…。明日ぁ休みらからいいんらよ!」

呂律があまり回っていない中年の男。


「お客さん、ここ最近の事件知らないんですか?潰れ鬼がでますよ!」


「兄ちゃん、駅員さんらろぉ?いい歳こいれ潰れ鬼なんれ…んなこと信じれんのかぁ?」

ゲラゲラと笑う中年の男。



こっちは心配してるのに…。

酒臭くてたまらないしこれだから酔っ払いは嫌いだ。

「…とりあえず、ここに居られちゃ困ります。もう1時も過ぎてますし帰ってください!」

催促するナカタニ。

その時だった。


「ぅえっぷ…おぼろろろ…!」

びちゃびちゃと音を立て男が嘔吐した。


「うわぁ!?」

咄嗟に飛び退くも吐瀉物が服にかかるナカタニ。



…最悪だ。掃除もしないといけない。

アルコールと胃液の混ざった臭いがキツすぎてこの服ももう着られない。

スっと立ち上がり駅長室に向かうナカタニ。


「ただいま戻りました。」


「おかえり…って派手にやられたな。」


「…“お土産”貰いましたんで掃除に行ってきます。」


「そうか…。おが屑とほうきとちりとりはそこだぞ。」

部屋の隅を指さすミシマ。


「ありがとうございます。では行ってきます…」


「まぁ待て、服着替えてから行けよ。臭いも酷いぞ。」


「またお土産貰って2着も服捨てる事になるのは嫌なんで…これで行きます。」


「クリーニングでいいじゃないか。」


「ダメですよ!臭いやシミは残るんです!」


「そ、そうかぁ?ならこれでも飲んでけ。」

スっと小さなコップを差し出すミシマ。


「ミシマさん、これは…?」


「さっきいれたアイスコーヒーだ。これ飲んで元気だしな。」


「ミシマさん…!ありがとうございます!」

ぐびりと飲み干すナカタニ。



「僕好みのガムシロだけいれたアイスコーヒー…最高です!このゲロの臭いさえなければもっと良かったですね!」


「一気飲みしといてよく言うよ。その上着だけでも脱いどいたらどうだ?」


「うーん…。」



「まぁいい、俺はちょっと夜食でも買ってくる。コンビニ行ってくるけど何かいるか?」


「カップラーメンと炭酸飲料が欲しいです!」


「ハハッ、少しは元気になったみたいだな!よし、任せとけ。」

そう言うと駅長室からでていくミシマ。


面倒見がいいし優しいんだよなぁ。ミシマさん。

「さて、僕もお土産片付けてお客さんに帰ってもらわないと!」








ハッ!とするナカタニ。

「あれ…?」

何だか不思議な感覚だ…。

時計をチラリと見る。


2時05分…。


ん!?2時05分!?

身体を起こし席を立つナカタニ。


コンと肘にペットボトルが当たり中の水が零れる。


「わわっ!」

ペットボトルを急いで持ち上げるナカタニ。


くぅー…冷たい。何やってんだ僕は…。


「そんな事より急いでお客さんの所に向かわなきゃ!僕は寝落ちしてたのか…!?」

びしょびしょに濡れた手をタオルで拭き駅長室をでるナカタニ。


小走りで先程のベンチに向かう。

「あっ、やっぱりまだ居た…。」

走るのをやめて歩いて近づくナカタニ。


「お客さん、いい加減に起きて下さ…ヒッ!」

べちゃりとしりもちをつくナカタニ。






先程まで会話をしていた中年の男は



顔がわからなくなるくらいうちのめされ頭が潰されており



赤と黄色の混ざったナニカが撒き散らされていた。







「なっ…!で…でた…!潰れ鬼…!いつの間に…!」

鳥肌が立ち全身をぞわりと這うような悪寒が駆け巡る。


手に違和感を覚え確認すると潰れた眼球がこちらを見つめていた。

そして透明なゼリーのようなものがべったりと付着していた。


「うわぁぁぁ!!ミシマさん、ミシマさんはどこ…!?」

手を振るい、地面をすり付着物を落とす。

必死に足に力を入れ立ち上がり駅長室に向かうナカタニ。



がちゃり。


ドアを開け中に入る。


「おぅ、どこ行ってたんだよ。ラーメンにお湯入れてあるぞ。」


「ミシマさん!そんな場合じゃないんです!」


「何だ?お土産くれた客まだ帰らないのか?」


「違うんです!でたんです!潰れ鬼!!」


「なに…!?」

バンと音を立て箸を机に叩きつけるミシマ。

びくりと反応するナカタニ。


「どこだっ!!お客さんは無事なのか…!!」

問に対し俯くナカタニ。


「…クソっ!!案内しろ!」

ミシマを連れ男の元へ向かうナカタニ。



「うっ……。この手口…本当に潰れ鬼が…。」


「ミシマさん、警察を呼びますか…?」


「…こんな時間だがしょうがない。かけるんだ。」


「夜遅くだと迷惑だったり失礼ですかね…?」


「馬鹿野郎!!人が死んでるんだぞ!!」


「は、はいっ!!」

携帯を取りだし警察を呼ぶナカタニ。


20分程で警察は到着した。



「夜分遅くまでお疲れ様です。通報頂きありがとうございました。」


「いえ、こちらこそ…。」


「被害者に関しましては担当の者が確認中です。…失礼ですが、この時間までお仕事を?」


「えっ!…いや…まぁ…!」

明らかに動揺するミシマ。



「ちょっとミシマさん!何でそんなに慌ててるんですか!」


「いや…。」

ミシマをじっと見つめる警察。



あぁ、そうか。ここに泊まってたこと隠したいのかな。

「…ミシマさん、警察の方に嘘はつけません。捜査を乱すことにもなりますよ。」


「あ、あぁ。そう…だな。」



「すみません、僕から話します。実は僕達、毎週金曜日はここに寝泊まりしてるんです。」


「毎週金曜日に寝泊まり?何故ですか?」


「潰れ鬼…ご存知ですか?」


「あぁ…最近この駅で起きている事件がそう呼ばれてるのは存じ上げてます。」


「同一犯かわかりませんが今日で3人目…それに金曜日の夜…毎回金曜日に起きるこの事件を未然に防ぐことが出来ればと思いまして…。」


「…そういう事でしたか。ちなみ今日何をされてたんですか?」


「12時32分の終電に乗ったお客様の対応を終わらせたあとは1時30分くらいまでそこの駅長室で2人で話してました。その後見回りに僕がでたのですが…今回の…その……亡くなった方がそこのベンチで酔って寝てまして…。」


「彼に会っていたということですね。」


「えぇ。お帰り頂きたくお話をしていましたらその、嘔吐されまして。それでへこんでいたらそこのミシマさんがご飯を買ってきてくれて…。」


「その話、本当のようですね。」

警察がナカタニの服を指差す。

少し乾いた吐瀉物が服にはこびり付いていた。


「はい…。それで、ミシマさんが帰ってくるまで部屋で待ってようとしてたんですが…ふと時計を見たら2時を回っていたので再度説得しに行ったら…。」


「……わかりました。情報提供ありがとうございました。」

敬礼する警察。


「しかしながら本件は同一の場所で起こっている事件と関連している可能性が高いです。危険ですので来週以降あなた方は早めにお帰り下さい。」


「はい…。」



その後も簡単な質問に答え、解放された2人。



「ミシマさん…お話があるんですが…。」


「…辞めたいのか?」


「いえ、違います。その、監視カメラ…設置できないですかね?」


「監視カメラ?」


「今回みたいに事前に止められなかった場合映像があれば役に立つと思うんです。」



「…ダメだ。」


「何でですか!!」


「首を突っ込むなと言われただろう。…それに、ずっと録画しておく環境を整えることは難しい。」


「金曜日の夜だけでいいじゃないですか!」


「それでも動画データどれだけ溜まると思ってるんだ!…予算的にも余裕はない。」


「じゃあ僕が自腹で準備しますよ!!」


「そんな自腹で買ったカメラ設置していいと思ってるのか!?盗撮だと言われればそれで終わりだぞ!!」


「でも…」

「でもは無しだ。…気持ちはわかるが頭を冷やせ。俺達は駅員なんだ。探偵や警察じゃない。」




「…はい。」



モヤモヤしたままその日は解散した。


次の日にはニュースになったが電車のダイヤに変更などなく


また金曜日を迎えていた。




「……今日の終電来ますね。」


「元気ねぇなぁ?金曜日ですよ!じゃないのか。」


「…僕には何も出来ないのでしょうか。」

手を見れば今でもあの光景を思い出す。

潰れながらもギョロリとしていたあの男の目。



「切符が切れるだろうが!ほれ!行ってこい!」

バシンと背中を叩くミシマ。

とぼとぼと歩み駅長室を後にするナカタニ。



そして、仕事を終わらせ駅長室へ戻ってきた。


「おう、お疲れさん。」

ラムネを手渡すミシマ。


「ありがとうございます…。これは…?」


「先週飲まずに帰っただろ?ラーメンは流石に捨てたがそいつは冷えてるぞ。」


「あっ…。ラーメン…ごめんなさい。」


「いいんだよ。お前はそれ飲んで元気だしてくれ。」


「ミシマさん…。ありがとうございます!」

シュポンとラムネを開けごくりごくりと喉を鳴らすナカタニ。


「冷えてて美味いだろ?」

ニヤリとするミシマ。


「んぐっ…んぐっ……!ぷはっ…!!美味しいです!ありがとうございます!!」


「おう!お前はそうやって笑ってた方がいいぞ!」


「ははっ、何ですかそれ!…ミシマさん、もうあがりますか?」


「………そうだな。今日は…」

その時だった。



駅員さーん


駅員さーん


外から声が響く。


「…誰かが呼んでますね。」


「落し物でも拾ったのか?ナカタニ、頼めるか?」


「はい!」

駅長室をでて声の主を探すナカタニ。



「駅員さーん!!」

ホームの外から大きく手を振る女性。


「お客様、どうしたんですか?」



「あっちのベンチに女の人が寝てますよ!」


「え?」

女性が指差す方を見ると、先週悲劇があったあのベンチに人影が見えた。


驚いた。先週あんな事があったのにベンチで寝る人がいるのか。



「多分あの子…」

手の平をこちらに向け口の前で握ったり閉じたりする女性。


……あぁ。“お土産”があるのか。

「ご報告、ありがとうございます。夜も遅いのでお気をつけてお帰り下さい。」

礼をするナカタニ。


「先週も事件がありましたから…駅員さんも気をつけて下さいね!」

そう言い去る女性。


「…早いところ帰ってもらおう。」

ベンチに向かうナカタニ。


そこには足を広げ寝ている女。

足元には吐瀉物が広がっていた。



「……お客さん、起きて下さい。」

相変わらずこの臭いは最悪だ。


「あー……気持ち悪い…。」


「先週事件があったばかりなんです。早く帰ってください。」


「あー……。」


見かねたナカタニが腕を掴んだ。

「ん!?痴漢!!何触ってんのよ!!」


「痛っ!!」

女が爪で引っ掻きナカタニの右頬に薄く傷がつき血がでてきた。


「警察呼びますからね!!」

女がギロりと睨み携帯を探している。


「こっちが呼んでもらいたいよ…!!」

ナカタニはそう言うと駅長室に戻った。




「ど、どうしたナカタニ!」


「お客さんに引っ掻かれました。」


「大丈夫か?絆創膏は今無いんだよなぁ…。」


「…お土産もあるしたまりませんよ。」


「そうか…。よし、今回の対応は任せとけ!」

席を立ちキョロキョロするミシマ。



「…どうしたんですか?」


「ナカタニ、ほうきを知らないか?」


「え?いつもの場所にないですか?」




「………おかしいなぁ…。また無くしたかぁ?」


「僕の雨合羽も無くなってるんですよ。これで何度目ですか。」


「…この部屋鍵が壊れてからセキュリティ皆無に近いからなぁ。財布とかは常に持っとけよ。」

駅長室を出るミシマ。













「うぉおおおお!?」

ミシマの叫び声が響く。


「なんだ?」

駅長室を出てベンチの方に向かうナカタニ。



「………え?」



そこにはまたも頭を潰された被害者が居た。いや、あった。



飛び散った肉…骨…脂肪。それに脳。そこにあるのは人であった何か。



「先週に引き続きどうなってるんだ……!」

頭を抱えるミシマ。


「…警察呼びますね。」

ナカタニが警察を呼んでまた20分程経つと警察官が到着した。



「何故また居るのですか……!」

前回事情聴取をしてきた警察官だ。

怒って…いや、驚いているのか?


「今日は帰ろうとしてたんです。本当です。」


「では何故…!!」


「帰る間際にそこの人が見つかったんです。」


「あの状態でですか?」


「いえ、嘔吐して寝ていたので起こそうとしたら引っ掻かれましたよ。」

左頬を指差すナカタニ。


「血が出てたんですか?跡になってますよ。」


「えぇ。手当をしたいので事情聴取が終わりましたら帰ります。」


「そうしてください。」


あっと声を上げる警察。

「何か変わったことはありましたか?」


「そういえば…被害にあった方を見つけてくれたのは女性のお客様でした。正確には駅の外から教えてくれたので通りすがりかもしれませんが。」


「なるほど…他には?」


「駅の備品のほうきが見当たらない事ですね。ついでに僕の雨合羽も。」


「ほうきが…わかりました。もし見付かりましたらご報告致します。ありがとうございました。」

そのあとも少し問答があり解放された2人。



「…どうしちゃったんですかね。本当にこの駅。」


「そう…だな。」

右からナカタニの顔を見つめるミシマ。


「そういえば警察に無くしたって言っちゃいましたけどあのほうき見つかりましたか?」


「ん、あぁ。無かったよ。無くしちゃったか盗られたみたいだな。」


「ミシマさんが注文ミスして届いたあの短いほうきなんて誰が盗むんですか……。」


「あの時は悪かったよ。値段しか見てなかったんだ。」



「まぁいいですけど…ミシマさんはあの人が潰れ鬼に襲われるとこみましたか?」




「…いや、見てない。」


「……………そうですか。2週連続で事件があるなんて怖いですね。」


「あぁ…。金曜日の終電は誰も使わなくなるかもな。」





2週連続で起きた事件は大々的にニュースで報道された。


電車のダイヤは変更がなかったが、ただでさえ少ない客足はめっきりと減った。









――警察署――


「絶対あの駅員が怪しいですよ。」

怒った表情の若い警察官。


「まぁ、確かに怪しいわな。連続で同じ駅で起きた殺人、そして手口も一緒。金曜の深夜に酔っぱらいを狙って撲殺。駅員以外が駅員にバレずに…とは簡単にいかないからな。」

同意する中年の警察官。


「さらにあいつら金曜日寝泊まりしてると言ってたんですよ!!完全にクロです!!令状押さえて終わらせましょう!!」


「ニッタ君、先入観に囚われると答えが見えなくなりますよ。」

糸目の警察官が若い警察官を諌める。


「ガクマさん!でも絶対にあいつらですよ!」


「証拠が揃う前から絶対と断定はできません。私はそれを身をもって体験してきましたよ。」


「そうは言っても…!」


「気持ちはわかります。…何か情報は無いのですか?」


「犯行は先週の件含めH駅で起きた事件と一致していることも多く、同一犯の可能性が高いと思われます。」

中年の警察官が口を開いた。


「ありがとうございます。オノデラ君。」


「…今あの駅の周りじゃ金曜日の夜に潰れ鬼が出る、なんて言われてるんです。」


「潰れ鬼…ですか。あの犯行は惨いですね。何かで何度も力強く殴打されて頭が潰されていますからね。…犯人はよっぽど被害者に恨みでもあったのでしょうか。」



「わかりません…。被害者の交友関係等は特に共通点がありませんでした…。」


「ほうきを無くしたと言っていました!凶器はほうきでは?」


「んー…。ほうきであそこまで人間の頭を潰せないと思いますがねぇ。それに、確認出来た打撃痕はほうきよりも幾分か大きかったように思います。」


「そう…ですよね。クソっ!殺人犯すクズなんて全員死刑にすればいいんだ!!」


「おい、ニッタ…。落ち着け。」


「いきなり他人の人生を奪うんだ!!法で裁けないなら取り押さえる時に…」


「ニッタ君!!!!」

大きな声を上げるガクマ。

その目は鋭くニッタを睨む。



「前に言ったでしょう。その考え方は犯罪者と変わりません。正義を掲げようと自己中心的で身勝手です。」


「…すいません。」


「そう何度も庇えませんよ。」


「はい……。申し訳ございません。」




「まぁ犯人と決めつけてはいけませんが駅員のお2人からはお話をお伺いする必要はあるでしょう。」


「ガクマさん…!!」


「今週の土曜日に皆さんでお話に向かいますよ。」






――H駅――



「ミシマさん、今日の仕事、終わりました。」


「そうか。早かったな。」


「流石にお客さんも2週連続で事件があれば金曜日の終電には乗りませんよ。」



「……なぁ、ナカタニ。」

少し間を置いてナカタニの目を見るミシマ。


「俺になにか言いたいことがあるんだろ?」



「……何故ですか?」


「そんな目でずっと見られてたらわかる。…腹割って話そう。」


「腹割って……ですか。」


「…酒買ってきてるんだ。見回りだけ行ってお客さんいないなら飲みながら話そう。」


「ここでですか?」


「あぁ。居酒屋なんかじゃ話せない内容だろ。そういう目をしてる。」


「……わかりました。見回り行ってきます。」


自分の胸をポンと叩くミシマ。

「手伝うぞ。」


「いえ、ミシマさんはここで待っててください。直ぐに戻ります。」

駅長室を出るナカタニ。



見回りしたけどお客さんはいない。

…ミシマさんに怪しんでる事がバレたみたいだな。


どう考えてもミシマさんが怪しい。

考えてみればそうだ。単純に金曜日は必ずあの人は駅にいる。

それに僕が気付くずっと前から金曜日は駅に泊まってたようだ。

監視カメラだって何度言っても拒否される。


そして決定的なのが潰れ鬼が出る時は毎回僕がミシマさんの姿を見ていない。

この何処にいるかわからない時間。

これが過ぎると潰れ鬼がでる。そう、犯人はミシマさんだ。


僕はミシマさんを止める。




「ただいま戻りました。」


「おう、お疲れさん。まぁ座れよ。」

促されるまま座るナカタニ。

目の前にことりとグラスが置かれる。


「入れ物こんなのしか無くて悪いな。」


「いえ…。」

トクトクとウィスキーを注ぐミシマ。


「お前もウィスキー飲めるか?」

こくりと頷くとナカタニのグラスにもウィスキーが注がれた。



「まぁまずは飲もう。アルコール入れないと本音は言えないだろう。」

そう言うとグッと一気に飲み干すミシマ。


「何を…!」


「ほら、お前も付き合え!今日しかこんな事はしない!アルハラとは言わせねぇぞ。」

催促され一気に飲み干すナカタニ。

グラスに入ったストレートのウィスキーが喉を熱くさせる。


「よし、あと2杯は一気に飲め。そしたら言いたいこと言え。」

否応なしに注ぐミシマ。

お互いゴクリ、ゴクリと胃にウィスキーを流し込む。




「…おぅ、どぉだぁ?」

ミシマは顔を赤くさせナカタニに話しかける。


「…ウィスキーストレートをこの量一気は…。」


「酔わねぇと話せねぇだろうが。ほら、言ってみろ。」


「潰れ鬼…。」


「あん?」












「潰れ鬼はミシマさん、貴方ですよね。」















沈黙を破ったのはミシマだった。

「何で…俺が潰れ鬼なんだよ。」


「金曜日寝泊まりをしていて、その日に駅で被害者が出てます。」


「お前まで何もしてない俺を悪くいうのか。」


「っ!…話しを逸らさないでください。」


「悪かった。だけどそんなの、お前もじゃねぇか。」


「ミシマさんは監視カメラの設置も…拒否し続けていた。」


「あれは費用もかかるし、問題になるから無理だと説明したろ。」


「警察が来た時も焦ってましたよね。」



「…正直駅に泊まってた時に殺人が起きりゃ疑われると思ったからな。だが俺はそんなことやってねぇ。」


「決定的なのは僕が被害者を見つけたあと必ずミシマさんはどこかへ行くんです。そして、帰ってくると被害者が死んでる。」


「さっきも言ったが…それは俺からしてもナカタニが当てはまるんだぞ。俺から姿が見えなくなってから被害者が出てる。」


「そうやって、僕に擦り付けようとしてるんでしょ?」


「おいおい…。」






「では何故今ボイスレコーダーを隠して起動しているんですか。」





ぴくりと反応するミシマ。


「お前……。」


「後で音声データでもいじろうとしてたんでしょう。」


「…勝手に撮ってたのは悪かった。いつ気付いた?」

胸ポケットからボイスレコーダーを取り出すミシマ。



「夕方辺りから胸ポケットの辺りをずっと気にしてたのでボイスレコーダーだと目星を付けていたら当たったようです。僕をここに呼ぶ前にも胸ポケット辺り触ってましたしね。」


「…カマかけたのか。まぁいい、これはお互い嘘をついてない証拠にしようと思ってただけだ。後日噛み合わなくならないようにな。」

何も答えないナカタニ。




「信用できないなら持っていってもいい。」


「…一旦預からせて頂きます。」

自分の胸ポケットにボイスレコーダーをしまうナカタニ。


「俺からも…聞いていいか。」


「なんですか?」




手を組み机を見続けるミシマ。




そして目線をあげる。

「2週間前の事件の時…何で手を洗ってた?」





「は?」


「お前…俺がコンビニ行ってた時にトイレで長い事手を洗ってただろ。それとも洗っていたのは手だけじゃないのか?」


「何のことですか?カマをかけ返そうとしてますか?」


「いや、俺にそんな技術も頭も無い。見た事を聞いてるだけだ。」


「だとすれば心当たりが無いです。酔って勘違いしてないですか?」


「あの日ちょいと財布を忘れてな。会計中に気付いて戻ったんだよ1回。その時トイレの前を通ったんだ。」


「いや、本当に心当たり無いです。」


「…じゃあ聞くが、ほうきはどこにやった。」



「ほうき?」


「あの日お土産掃除するって言って持っていったのはナカタニ、お前だ。」

そう言われて思い出そうとした。

でも思い出せない。




「ついでに聞く。先週の被害者からお前、引っ掻かれてたよな?」


「えぇ…。」


「最初に駅長室に帰ってきた時お前はここにしか傷がなかった。」

自分の右頬を指すミシマ。


「俺が被害者を見付けてお前が駆けつけた時、すぐには気づかなかったがお前こっちにも傷が増えてたよな。」

そういいながら左頬を指す。


「それこそ傷が無かったと勘違いしてたんじゃないですか?…というか何が言いたいんですか。」




「俺はお前が潰れ鬼じゃねえのかと思ってる。」




バカバカしい。言うに事欠いて僕が潰れ鬼?

これだから酔っぱらいはダメだ。

犯人を認めないだろうとは思ってたけど僕に罪を擦り付けようとするとは思わなかった。


「……本当は俺も疑いたくなんてねぇ。多分、怖いんだ。潰れ鬼がな。」


「…僕だって怖いですよ。」


「……そうだよな。お互い、こんな事件が職場で連続で起きてちゃ疑心暗鬼にもなるか。悪かった。許してくれ。」

頭を下げるミシマ。


「ミシマさん…。」


「飲み直そう。実は美味しい日本酒も持ってきてんだ!」

そう言うと席を立つミシマ。



ミシマさんは潰れ鬼じゃ無いのか?

いや、僕を油断させようとしてるのか?

でも、状況的に怪しいのはミシマさんなんだ…!







「これだこれ…!」

大きなビンを持ってきたミシマ。


「っ!?」

振り上げたかと思うとよろりとふらつきビンが振り下ろされる。


バリィン!


机に叩きつけられ大きな音を出しビンは砕けた。

破片がナカタニの身体を傷付ける。



「ミシマさん!!!貴方やっぱり!!」


「違う…違うんだ…。これは一緒に飲もうと思って…本当に…。」

虚ろな表情で歩み寄るミシマ。



「なぁ、信じてくれ…。俺は…。」

ナカタニの肩をグッと掴むミシマ。


「触るなっ!!!」

手を払い除けミシマを突き放し、駆け出すナカタニ。

冷凍庫の裏に手を伸ばす。


ほうきと紐を取り出し慣れた手つきで冷凍庫にあったペットボトルをほうきに固定する。


「お前……。それ…。」

ゴッ


鈍い音が響く。


バタリと倒れるミシマ。

「違う…やったのは……俺じゃ……潰れ…鬼が…俺に…」


「黙れ!!クズ!!消えろ!!!!」


ゴッ


ゴッ


ゴッ


ゴッ



ゴチャ


ゴチャ


ゴチャ








バキリ








グチャ


グ チャ



グ チ ャ



グ チ ャ










グ チャ リ















潰れ鬼を僕は殺した。



潰れ鬼を僕は殺した。



クズを僕は殺した。



僕は正しい事をした。



僕は正しい事をした。



僕は正しい事をした。



クズの思考を司る部分を僕は潰した。



クズの思考回路を潰すこの感覚を



僕は知っている。



この感覚を



僕は知っている。





ぞわりと背筋を這うこの快感を





僕 は 知 っ て い る 。









――――――本日H駅に駅員が居ないと近隣住民からの通報があり、警察が駆けつけたところ、H駅の駅長ミシマ シンさんが頭から血を流しており、その場で死亡が確認されました。


また、同じく駅で駅員を務めていたナカタニ リョウさんの行方がわかっておらず、警察は被害者、容疑者両方の観点から捜査を進めているとの事です。


H駅では3週連続で金曜日に被害者が出ており、警察は同一犯の可能性があると発表致しました。現場近くでは血の着いた合羽が見つかっているとの事です。


続いてのニュースです――――











「ったくよ。駅で連続殺人なんてふざけんなよ!!」

酔った男が悪態をつく。


「金曜日の飲み会自粛しようなんてみんなしていいやがって!!つまんねぇんだよ!」

ガン!!とベンチを蹴り、座り込む男。


そのままウトウトとしだした。

















「お客さん、こんな所で酔い潰れて迷惑かけてたら()()()が出ますよ。」

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