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第9話:ダンジョンのトラップを納品しよう

「こんにちっはー!ケルベロス宅配サービスでっーす! ごっ注文の品をお届けにきましたー!!」


元気の良いハキハキとした声が、夜明けの静寂を打ち破る。

まだ、陽の光が地平線の輪郭だけを赤く照らす日の出の間もない頃、その少女は現れた。

「んん……こんな朝早くからいったい何事じゃ……」

魔王の少女はまだ重たい瞼を擦りながら、ぺたぺたと重たい足を運び、声のする方へと向かっていく。


「すっみませーん! いらっしゃいまっせんかー! 宅配サービスっでーす!」

「なんじゃ……まだ、朝だというのにやけに賑やかなじゃのう……」

「あ、ローゼリア様ですねっ! ではでは、こちらにサインをおねがいしまーっす!」


サインを求めてきたのは、キャップに「ケルベロス宅配サービス」と書いてある少女だった。

頭に被ったキャップからはケモミミがぴょこりと飛び出しており、手首から先は肉球グローブをはめているかのように見える。

そこにいるのは顔がウリみっつの少女たちである。

長女と見える背の高い細身の少女は、首筋から肩へと垂らした三編みに赤色のリボンをつけている。

中肉中背のふつう体型をした少女は青色のリボンを、次女よりも少しぽっちゃりとした三女は緑色のリボンをつけている。


眠気まなこのローゼリアは、まだ夢うつつにまどろむ視界の中、渡された羽ペンでサラサラッとサインをする。

「ではっ、たしかに、いっただきましたー!」

「ではではっ! こちらに注文の品を置いておっきまーす!」

「ではではではっ! 重たいので、気をつけてくださーい!」


誰かが、何かを頼んだのかもしれない。まったく仕方ない部下たちだ。

朝のちょっとした運動は目覚めにもちょうどよいだろう。

このまま荷物を中に運んでおこおうかと思ったローゼリアは暗い洞窟の入り口から、朝日が射し込む外界へと一歩を踏み出す。

逆光で黒塗りの世界の中、細めた目の視界の先にあるものを疑った。


そこにあるのは、巨大なピラミッドである。

正確には、その三角錐は古代エジプトのように巨石で出来ているのではなく、おびただしい数のダンボール積まれてできている。


「な、なんなんじゃ、これは!」

想像を超える絶景に思わず腰が抜けてしまい、地面にお尻からペタリと座り込んでしまうロリ魔王。


その叫び声を聞いて、副官のサラマンダー娘が駆けつけてくる。

「まおう様、どうされましたか?」

魔王が指差す方向の先に視線を向ける副官の少女も驚きで声を失う。

「こ、これは……」


「み、みなを呼ぶのじゃ!」

ひらりと舞う、受け取り用紙の控えには「マグマ床 10,000個」と記載されているのだった。


***


「一体これだけの床、どうするつもりなのじゃ……」

ロリ魔王は腕組をしながら、靴底を地面にトントンとぶつけながら、不満そうにつぶやく。

「もうし訳ありません。まおう様。発注するときに、数をふたケタほどまちがえてしまったようです」

「一桁ならまだしも、二桁間違えるとはさすがに、看過できぬぞ」

「かえすことばもありません、まおう様。ほんとうにもうし訳ありません」

「これだけのマグマ床をどうするつもりなのじゃ。それに……」

「それに?」

「……前衛的過ぎるのじゃ。これは。わらわのダンジョンは、アーティストを招いたミュージアムか何かなのか」


何かの人物像なのかはわからないその油絵調のアートは、赤い髪をした少女で、頭からは黒い角が二本生えている。

前衛的な芸術なのか、顔の各パーツはそれぞれもとの大きさとは異なる比率で、中でも特徴的なのは口の部分だ。

顔の比率に対して口元が大きく描かれその口の中が、ふつふつと煮えたぎるマグマのデザインになっている。

それが1,000枚。もはや、ちょっと意味がわからない。

こんなのものが床に置かれていたら、いかに先にご褒美となる宝箱が置いてあったとしても、心理的な障壁が高すぎる。

いくら勇者が、勇気のあるものと書いてもこれは勇気とは言わない。無謀だ。無謀は勇気とは別物である。

もはや、罠が罠として機能しないのだ。はまらなければ、どうということはない。

「数だけでなく、中身もこんなことになるなんて……心あたりがあるとしたら」

「心当たりがあるのだな」

「……はい。こんな絵が描けるのはおそらく……」

二人が話しているところに、翼の少女が両腕を大きく伸ばし、あくびをしながらやってくる。

「ふぁあ〜、夜更かししていたら、もうこんな時間になっちゃったよ。ああ、よく寝た」

二人からの視線が矢のように、グサリと刺さってくる。恨みを纏った視線は時として凶器にもなる。

「ハーピィ……おぬし。このデザインに見覚えはあるかのう?」

「げっ。魔王様。ってかなんでこんなにたくさん……」

「事情を聞かせてもらおうかのう……」

ロリ魔王はその身長から想像もつかないような禍々しい業火のオーラを纏い、両の指をポキリと鳴らすのだった。

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