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第7話:ダンジョンだって、デザイナーが必要

ヨシヒロは寝床で考えていた。

というのも、ロリ魔王がざっくり過ぎるのである。

せっかく考えた、「ダンジョン開発計画シート」も最終的には「勇者をおもてなしじゃ!」とか言い始めてしまうし、

もちろん、詳細な計画など何もできてはいない。行き当たりばったりの、ぶっつけ本番である。


それに俺も当たり前だが、ダンジョンを掘った経験は一度もない。

あるのは、サンドボックスのビルドゲームだけだ。

明確な目的がないのが苦手な俺は、せっかく買ったのに、1時間30ほどで離脱してしまった。


だから、俺が持っているのは過酷なゲーム開発の現場で生き抜いた、わずかなプロジェクトマネジメントの知識とカレーの作り方くらいだ。


部屋から出たヨシヒロは暗い洞窟の中を歩きながら、思考を整理していた。

大丈夫。たしかにダンジョンをつくったことはないが、ものづくりという基本において大体は一緒だ。

最初に、やるべきことを描いて、ちゃんとスケジュールに落とし込む。

それがカレーづくりであろうと、ゲームづくりであろうと、ダンジョンづくりであろうと変わらない。


計画はある。あとは適切な人員の配置が気がかりだ。

ちゃんとつくれる人員が揃っているかがカギだ。


たとえ小規模なソシャゲをつくるのにも、本来必要な役割がいることは目標達成の成否をわける。


プロデューサー、ディレクター、プロジェクトマネージャー、それにデザイナー、エンジニアは必要だ。


今回の布陣でいえば、チームはこんな感じだ。

プロデューサーはロリ魔王のローゼリア。

できるかどうかはわからないが、現場の信頼はあるのでトップとしては適任だろう。


ディレクターは未知数だけど、ローゼリアが信頼を寄せているサラマンダー娘。

内向的な感じはするけど、悪い子ではなさそうだから、これから学んでいけばいいだろう。


プロジェクトマネージャーは一応、俺。

なるべく、みんなが動けるように立ち回ればいいだろう。


エンジニアはあの場にいた、ゴーレム娘ちゃんたち。

あまり意志があるわけではなさそうだ。石なのに。

だが、どちらかというとちゃんと指示すればきっと真面目に働いてくれるだろう。


そして、最後にデザイナーだ。

デザイナーは……ええっと。いなくない。

大変だ。デザイナーがいないチームはさすがにマズイ。

ラクガキのようなデザインで勇者をダンジョンに招き入れるのはさすがに難しい。


あのロリ魔王でもさすがに考えはあるだろう、ということでさっそく俺は魔王のもとへ向かうことにした。

暗い洞窟の中を、わずかなロウソクの灯火を頼りにしながら、奥にある魔王の空間に向かうことにする。


「えーと、この部屋かな。もしもーし。ローゼリアいるか?」

部屋の入り口と思わしき、蚊帳のような薄い麻布をめくり、中に入ると、甘い声が聞こえてくる。


「はふぅ。だめ……です。こんなすがた、まおう様に見られては」

「いーじゃん。いーじゃん。減るもんでもないし。いやー、いいシッポだね。アタイ、ソスソスしちゃうよ」

「きゃふう、くくくすぐったいです」

「へー、くすぐったくても敬語なんだね? どうしたら敬語じゃない声も聞けるんだい? いひひ」


サラマンダー娘にシッポをしきりに触り倒しているのは、片目が隠れるほどの前髪を垂らしたツリ目の少女だ。

細身の腕からは手首から、二の腕にかけて、見事な翼が生えている。

脚のつま先は、まるで鳥を思わせるかのように、三叉に分かれたツメと、踵からはもう一本ツメが生えている。

その姿は、伝説の生き物のハーピィを思わせる。


翼の羽根を使って、サラマンダー娘のシッポを優しく、そして柔らかく撫で上げている。


俺はこのお楽しみタイムを何も見なかったことにし、この場を立ち去ろうとした。

さすがにこの状態で声をかけるのは無粋である。

なんていっても俺は真摯な紳士だからだ。さぁ、ローゼリアを早く探そう。

回れ右をし、何もいわずに部屋から出ようとする。 しかし、まわりこまれてしまった!


「ふーん、アタイのお楽しみをジャマして、無言で立ち去ろうなんていい根性だよ。うんうん。」

先ほどまで、サラマンダー娘と戯れをしていた、このハーピィ娘は一瞬のうちに羽ばたき、俺の目の前にいる。

眼前に舞う、羽根とともに甘美な香りがする。深くまで吸い込んだら、思考が微睡むかのような甘さだ。


「いや、ジャマする気はなかったんだ。悪い、魔王を探しててな」

「ふふ、せっかくこれからだというのに、興が削がれてしまったよ。キミ、どうしてくれるかい?」

「ゴメンな。俺も悪気はなかったんだよ」

「へぇ、謝れば済むと思ってるんだ? まぁいいや、今回は。次はキミの美しいものをもらっていくよ」

背筋が凍るような、冷たく血の通っていないような声調で囁かれた。これは寒気がする。


「ん、オマエら。何をやっているんじゃ?」

聞き覚えのある声が聞こえる。そこにいるのは、すっかり寝間着姿に着替えたロリ魔王だった。

ハーピィ娘は俺から離れ、姿勢を正し、魔王に敬礼をする。


「ああ、ローゼリアそこにいたのか。ちょっと用があってな。探したよ」

「うん? 何じゃ。申してみよ」

「ダンジョンの開発の話しなんだけど、デザイナーを探しててな。その、デザインに長けたやつはいないかなって」

「ん? そこにいるじゃろう」

魔王が指を指した視線の先は、俺の隣にいる片目が隠れた翼の少女だ。

「え?」俺はまさか聞き間違いでは、と隣の少女を見やる。

「へ?」ハーピィ娘は、とぼけた声を出す。


「「ええええええ!」」


こうして、俺はデザイナー「ハーピィ娘」をパーティに加えるのだった。

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