第20話:ポンコツ魔王は、内定通知を出す
「では、志望動機を聞かせてもらおうか」
面接なのになぜか少しばかり、上から目線になってしまう魔王。
しかし、事前情報が何もなければどこからどうみても、悪魔風のロールプレイをしているようにしか見えないロリ少女だ。
今回の面接では担当をわけて臨むことにした。
メインで話すのはローゼリアだ。
あくまでこのダンジョンの主はこいつだ。だから俺がどうのこうの口を出しても仕方ない。
俺はどちらかといえば、サポート役としてメモを取ったり、最後に他に確認したいことがないかを聞く担当だ。
「それでは、ワタクシから。クィーン・ビーのビィです」
口火を切ったのは、蜂型モンスター姉さんのビィさんだ。
ハキハキとした喋りからは自信が感じられる。
大人の女性の余裕というのもあるのか、聞く人は惹きつけられる。
「ワタクシの一族は元々、毒針を使う一族でした。でも……」
そして、少し汐らしく、声のトーンを落とした。
「毒を使い、人間どもを殺めるだけではなく、この針の力を他のことに活かせないかを考え、鍼を使った治療法にたどり着きました。今では、月に100名ほどのモンスターたちの治療をおこなっております。なので、怪我をしたモンスターたちの治療にこれからも携わっていきたいと考えております」
「ふむ。悪くないな。ではどれくらいのウデマエなのかも教えてもらおうかの」
「はい。レベル5までの中級魔法を嗜んでおります。状態異常回復魔法もいくつか。後は……」
少し言葉を溜めた後に笑顔とともに、次を紡いだ。
「アロマセラピーができます」
「アロマセラピー」(ぅわぁーお♡)
しまった。
今回はローゼリアに任せるはずだったのに、条件反射で、つい声が出てしまった。
なんなら、桃色の効果音がセットで脳内を鳴らす。
どういうことなんだ。バラエティ番組でもあるまいし。
さっきからの状態異常が続いているのか。
「回復に関する仕事はお手の物、という感じじゃの」
「えぇ。きっとお役に立てると思います」
なぜか、俺に目掛けて好意のウィンクビームが飛んでくる。
それに気づいたのか、ローゼリアはビィさんからのヒアリングを切り上げる。
「では次。マミー少女のマミィさん」
顔以外の全身がほとんど包帯姿のモンスター娘。
「あああ、あの。わ、わた。私は……あ、あの!」
名前を呼ばれただけなのに、おずおずとしている。
彼女はどうやらこういった場に慣れていないのだろうか。
そういった後に言葉を詰まらせてしまう。
面接部屋に沈黙が流れ、視線が無言のマミィさんに注がれる。
静寂が立つほどに、次の発言へのハードルというのが高くなるのだ。
魔王はすくっと立ち上がると、マミィさんの元に向かい、顔に手を伸ばす。
すると、マミィの頬をぷにっと引っ張った
「あ、あにょ。にゃにふるんですか……」
特に抵抗もしないマミィ。ただ、目尻には少しの涙が溜まっている。
ローゼリアが引っ張った頬から手を離すと、
「うむ。少し堅すぎるんじゃないかの? もっとリラックスせい」
と笑顔で語りかけた。
驚いた。
つい、先ほどまで、なぜか圧迫面接をしていたローゼリア。
本人がどこまで理解し、実行できているかはわからないが、天然型のプロデューサー気質なのかもしれない。最初は失敗こそし、トンチンカンなことも多いが、人を活かす目があるのだろう。
気を取り直したマミィは、背筋を少し伸ばし、目を瞑ると一息で話し始める。
「わ、私は!だ、誰かの痛みを、す、すこしでも和らげることが。で、できたらなと」
「ふむ。それで、どれくらいの回復魔法が使えるのか?」
「しょ、初級魔法なら、れ、レベル3までのが使えます」
「ううむ。まだ発展途上という感じじゃの」
さっきからレベル3とかレベル5という用語が出てくるが程度がわからない。
「おい、レベル3とかレベル5とかってどれくらいの差があるんだ?」
俺はローゼリアに軽く耳打ちする。
「レベル3は、ちょっぴり回復。レベル5になると、結構回復できるのじゃ!レベル10になると、もうめちゃくちゃ元気になれるぞ?」
自信満々の笑みと、グーサインで返答するローゼリア。
ローゼリアに聞いた俺がバカだったか。
ポンコツ魔王は言語化が得意ではないのだった。
「それで、マミィ。おぬしは他にどんなことができるのじゃ」
「は、はい! み、見ての通り、ほ、包帯を巻くことが、で、できます」
包帯を普通に巻くだけなら誰でもできるんじゃ……と俺は思ったがローゼリアは違う反応だった。
「ふむ!よいな。怪我しても安全だからの」
基本、ポジティブである。それがいいのかもしれない。
「では次の質問にいくかのう」
「ビィ。おぬしはどれくらいの、経験を積んできたのかの」
「ワタクシは、5年ほど。現場で回復活動をおこなってきました」
「なるほど。さきの勇者が攻め込んだ頃から、かのう」
「……はい。その頃はワタクシはまだ手習いの身でしたが、今は現場経験も積んでリーダーとして、負傷したモンスター娘たちを、治療の緊急度に応じて優先順位づけ・担当への割り当てをおこなっています」
経験としては悪くなさそうだ。
応対もしっかりしていて、基本的なやりとりも問題がなさそうだ。
「では、続いてマミィ。どうじゃの?」
「わ、私は。ま、まだ6ヶ月くらいです。げ、現場も、1箇所、くらいしかなくて。それで……」
「それで?」
ローゼリアが聞き返すもまた言葉に詰まってしまう。
経験の差は雲泥の差である。
中級魔法まで使えて、ハキハキ系お姉さんのビィさん。
初級魔法までしか使えず、少しコミュニケーションが難しそうな、マミィ。
今回は育成している余裕がないので、今回はビィさんが採用になるだろう。
そう思った時、深いため息の後に、鼻で笑う者がいた。
「これ以上のやり取りは全くもって時間の無駄ですわ。魔王様、とその側近の方に失礼ですわ」
マミィのあまりにも、おずおずとした態度にいらだってしまったビィさん。
「ワタクシの方が経験も技術も上。それに特筆できる特技もあります。どうか早急なご判断を」
マミィはそのまま下を向いている。
ローゼリアは顔の前で手を組んで少し考えると、
「採用だ」
「嬉しいです!では早速……」
「マミィ。おぬしを採用する」
「はぁ?」
明らかに有利なのに、選ばれなかったことの判断を受け止められないビィさん。
その顔は怒りに満ちて、酷く歪み別人のようだ。
「理由じゃが、これから一緒にはたらく仲間を下げるようなことは許せんの。それに、じょぶ・でぃすくりぷしょん、にも書いてあるだろう」
今回の採用の要件にはたしかにこう書いてある。
◆求めるモンスター娘像
思いやり
めげないハート
みんなと協力
「マミィの先ほどの発言に、誰かの痛みを和らげない、というのがあったじゃろ?それが理由じゃ」
「くっ……後悔しますわよ……。ワタクシはここで、失礼します」
ビィさんはそう言い残して部屋を出ていくのだった。
「……というわけで、今後ともよろしく頼むぞ、マミィ!」
こうして、初めての採用面接が終わり、俺らに新しいヒーラーの仲間マミィが加入するのだった。




