第19話:ポンコツ魔王とドキドキグループ面接
コンコンコン、と軽快にドアをノックする音が聞こえる。
「はい、どうぞ」
俺と魔王は新しく加入するヒーラーの面談をするところだ。
ジョブ・ディスクリプションの作成の甲斐もあってか二名の応募があった。
ただ、あまり時間もない。
ダンジョン開発だって、そんなに時間に余裕があるわけではない。
モタモタしていたら、勇者がきてしまうかもしれない。
それに他の魔王が勇者を討ち取ってしまうかもしれない。
勇者を倒せるのなら、いいのではないか。いやそれはマズイのだ。
というのも、他の魔王の勝利は、うちの魔王の敗北。
つまり、大魔王の座から遠のくのだ。
大魔王から遠のくということは、俺が元の世界に戻るチャンスから離れることになる。
すると、どうなるか。
溜まりに溜まったユーザー様からのお問合せ対応に一生、追われることになる。
運営中のタイトル『魔王コレクション』のチームはそこまで余裕があるわけではない。
俺が対応しないと、不信感が積もったユーザー様が離れてしまうかもしれない。
それに、エンジニアの藤木さんだ。
オタク文化をこよなく愛するフルスタック・エンジニア。
彼が空いた時間で勝手に、Vtuberプロジェクトを始めてしまうかもしれない。
しかし、我が社にそこまでの資金の余裕はない。
彼に夢を見せつつ、タスクを与え続けなければ。
これぞ、夢ドリブン。しかし、別にやりがい搾取をしているわけではない。
ーー話を戻そう。
ということで、早速面談をセットすることにした。
日程が合わないこともあり、本意ではないがグループ面談で二人を一気にみることになったのだ。
ドアを開けて入ってきたのは、二人のモンスター娘だ。
一人目は、女王蜂がモチーフのモンスター娘。
いや、モンスター姉さん。恐るべきフェロモンが醸し出されている。
入ってきた瞬間に、どろりと濃厚なはちみつレモンティーのような甘い香りが立ち込めた。
長身であり、すらっと伸びた長い手足がスタイルの良さを際立たせる。
そこに現れたのは、ドスケベボディである。
全身がぴっちりラバースーツのおフェロなボディ。
ぷるぷるとみずみずしい、赤い宝石のように輝くリップ。
XLサイズのふかふかの肉まんのように、盛り上がった重厚感のある胸元。
なぜか、胸元に切れ目があるその服は、やわらかい二つの肉まんが飛び出そうとしている!!
なぜ、この格好で面接にきているのかよくわからない。誰か教えて!
つい、見惚れてしまった。
俺も所詮、男。
本能に逆らえない、悲しい生き物なのだ。
彼女と目があったかと思うと、それに気づいたのか、唇の前に人差し指を立てて、ナイショよ、と言わんばかりのポーズだ。
そして、ぱちりと片目を閉じてウィンクした。
フェロモンで思考が戸惑ったのか、俺は反射的に言葉がこぼれ出た
「……採you」
バシッ!
「がっ!」
「この、どすけべがっ!」
頭をはたかれる音がした。
どこから出てきたかわからない、ハリセンを魔王が持っている。
俺は正気に戻った。
どうやら、知らぬ間にチャームの状態異常をかけられていたようだ。
状態異常からの回復には、味方への攻撃、フレンドリィ・ファイアが有効とはこのことか。
「……ぃてて。おかけください」
女王蜂風のモンスター姉さんは微笑みながら、ペコリとお辞儀をすると、椅子に腰をかけた。
二人目は、ミイラ女がモチーフのモンスター娘。
といっても、本人は干からびているわけではない。
特徴的なのは、全身の殆どが包帯で巻かれていることだ。
銀髪に長く伸びた髪は、地面に付いてしまいそうなほどの長さ。
髪質は、ややうねりを帯びた、外ハネ気味の癖っ毛である。
伸び切った前髪が片目を覆い隠している。
もう片方から覗く、薄灰色の瞳はどこか自信がなさそうで、焦点が合わず泳いでいる。
身長は小柄で140cmほどだ。
「うぅむ? ケガでもしておるのか」
訝しがる魔王が挨拶の前に疑問を投げかける。
「あああ、あの。こここ、これは、そうじゃなくて……」
元からこういう種族のモンスター娘なのだろう。
「落ち着いてください」
俺がそう声をかけると、少し安心したのかホッとした面持ちで席についた。
「それではこれから面談を始めます」
波乱の面談が始まるとはこの時はまだ知る由もなかった。




