第18話:ポンコツ魔王は、圧迫面接をする
物々しく、じめじめと陰鬱な空気が漂う一室。
その空間だけまるで重力が大きくなっているかのような空気。
そこには二人の少女が向かい合って座っており、物言わず、沈黙が流れていた。
無機質な机と椅子がより空間の冷たさを強調する。
主たる魔王がその重たい口火を切って静寂を破る。
「ふむ……それは、御主の感想ではないか?他に弁解はあるか?」
「あ、っあの……」
「ふん?声が小さくて聞こえないの?もっとハラから声を出せんのか?」
「あ、あ……」
「あ、ばっかりじゃ何もわからんのう?ん?ちゃんと考えまとめとらんのか?」
少女が魔王から発せられる闘気に気圧され、小刻みに震えている。
机を挟んで、魔王の向かいにいる少女、名をサラマンダー娘という。
深紅色の長髪は首の後ろから三つ編みで編まれており、先に小さなリボンがついている。
瞳は爬虫類のそれを思わせ、蛇目にも似た縦長の瞳孔は人間とは異なる種族であると示唆している。
革製の胸当てをつけており、装備自体はいたって軽装だ。
腰回りには革の垂れがあり、健康的な太ももが垂れの隙間から覗かせている。
特徴的なのはお尻、ではなくお尻から生えたやや太めの鱗に包まれた尻尾だ。
竜蜥蜴族の少女、からサラマンダー娘と呼ばれている。
魔王軍の側近であり、古参でもある。
このダンジョン開発で魔王ローゼリアの右腕となっている少女だ。
「なにやってんだ?」
一室に入ってきたのは、ヨシヒロだ。
「いや、面接をするからその練習を、と思ってな?」
「それ圧迫面接じゃん! 余計なプレッシャー与えちゃってどうするの?」
「面接での、すとれす耐性なるものをみてみようと思ってな。緊張下のなかでも実力を発揮できるかを見てみようと思っての」
「面接でのストレスと、業務でのストレスは別ものだろ?」
「あっ……」
「それに、面談の段階で余計なプレッシャーをかけたところで、ちゃんと面接できないだろ?」
「余計なプレッシャーではない。これは魔王の威厳」
「威厳ってあのなぁ。この間のジョブ・ディスクリプションに書いた内容とも違うだろ?前に書いたのって」
「……思いやり……」
魔王はぽつりと言葉を口にする。
「……があるようには、見えないよな。他になんて書いたんだ」
「……めげないハート…………」
だんだんと魔王の語気が小さくなっていくのを感じる。
「お前が積極的にハート折ってどうするんだよ?」
「めげないハートを確認しようと」
「あれはどう考えても、めげると思うけどな」
「いや、つもりはなくて」
「サラマンダーちゃん見てみろよ?」
そこにはぐったりと、椅子に項垂れたサラマンダー娘。
よっぽど圧迫面接が利いたのか疲弊し切っている。
「これがお前のやりたかったことか?」
ちーん、とお葬式のような空気が流れる。
しゅんとする魔王。
これだから、この魔王はいつまで経ってもポンコツなのだ。
ありとあらゆる、これをやってはいけない地雷を次々と踏み抜いていく。
まるで、地雷原を駆け抜けるような感覚だ。
「いいか。面談はこっちが上から目線で採用する場所じゃないんだ。ちゃんとお互いの価値観をすり合わせてからの採用にしないと」
「わらわにも考えがあってだな……」
魔王は不満そうだ。頬を膨らませている。
言い返せないような正論ストレートパンチで殴られているからだ。
だが、この魔王のいいところは素直さだ。
最初は誰もができないところからのスタートだ。
最初からできるやつなんてどこにもいない。
みんな見えないところで努力の積み上げをしてきて、表舞台に立っている。
そして、多くの人は表舞台に立った後のことしか知らない。
それなりに、天才だ、といって自分とは別の世界の住人であるかのように分断する。
自分は凡人。彼/彼女は天才。
そうして分断し、”特別な”人に仕立てると自分は傷つかなくて済む。
なぜなら、特別だから、だ。
「まおう様。いつものまおう様の様子と違って少し、怖かったです」
そして、少し間を置いてから言葉を発する。
「わたしは、いつものまおう様がすきです」
そのセリフを聞いて、魔王は我に返る。
「あんまり普段と違うことをやらなくていいんじゃないか?ローゼリアには、ローゼリアのいいところがある。あんま深く考えず、それを出せばいいんだよ」
俺もそう言ってもらいたかった言葉を紡ぐ。
俺の時は急な引き継ぎで、そもそもマネージャーなんて向いてないと思っていたから、
ポジションで求められる役割と、自分の本来のスキルやモチベーションの方向性と違う方向に行った時はずいぶん悩んだ。
さあ、面談まであと少しだ。
俺らは新しい仲間との面談に備え、部屋に向かうのだった。




