第17話:魔界の雇用だってジョブ・ディスクリプションが必要
ローゼリアのペン先の動きは鈍っていた。
というのも、ジョブ・ディスクリプションなんて書いたことがない。
直感に従って200年間の歳月をロリで過ごしてきた焔魔王はろくに文章など書いてきていない。
「求める人材像、必須スキル……」
慣れない書類作成業務に、ローゼリアはうなだれていた。
机に頬を突っ伏しており、背中から生えた小さな翼も、おしりから顔を覗かせているトンガリ尻尾も本人の感情と同調して下げ調子だ。
「ぬぅ……このままじゃあ埒があかんのじゃ。わかりやすいものから書くか」
「おーい、結構時間経ったけど、書けたか」
聞き慣れた人間の声が聞こえる。
名はヨシヒロ。死舞谷でそしゃげ魔王これくしょんなる、魔王に非道を尽くしてきた男だ(違う)
見た目はたしかに頼りない男だが、思ったよりもズケズケと物怖じせずにわらわに物言いしてくる。
「どれどれ……」
「あっ、まだなのじゃ!」
ヨシヒロが書き途中の書類をひょいと取り上げる。
そして、目を細めては、眉間に皺を寄せた。
明るく楽しい職場です(^^)
未経験でも歓迎(๑>◡<๑)
アットホームな職場で、一緒に働きませんか?✌︎('ω'✌︎ )
「ちょ! どうみても地雷フラグじゃねぇか!」
ヨシヒロが声を大にして叫ぶ。
未経験歓迎、というのはどう見てもブラック職場のサインだ。
明るい楽しいという楽しそうな写真をフックにして、社会経験の浅い若者をターゲットにする。
こういうのは、大体が労働集約型モデルだ。
そして、未経験でもある程度できるスキルセットの業務だったりする。
なので、数で勝負。
企業に粉骨砕身する兵隊を募集している。
朝から晩まで、あるいは休日もフルコミット上等。
タチが悪いのは、ロジカルでなく根性論で解決するところだ。
「俺たちは家族だろ」
「なら、辛い時も楽しい時も、ずっと一緒だ」
目標達成できない時は、みんなの前で厳しく叱りつける。
すべては君のため。
君のためを思って、厳しさを教えてやっているんだ。
がんばりが認められると、MVPと称して、みんなの前で賞賛される。
そうやって、95%の厳しさと5%の優しさをブレンドして懐柔していく。
気がつけば、その彼、彼女自身が次世代のブラック戦士になる。
負の再生産。デススパイラル。ループ・ザ・ループ。
話を戻そう。
「大体ヒーラー未経験じゃまずいだろ」
「うぅ。とはいえ、イマイチぴんと来ぬというか」
「うーん、わかった。いきなりこれは難しいかもしれないな。じゃあ求める人物像からいこうか」
「人物像……人物像」
うわ言のように同じ単語を繰り返すローゼリア。
そして、しばらくすると魔王の頭からショートしたコンセントのように、煙が出てきた。
「ςΟ∵※☆=」
「人間辞めちゃったよ!」
「なあ、ヨシヒロ。おぬしはこういうのが得意なんじゃろ?ヨシヒロがやった方が早いんじゃ」
言いたいことはわかる。
不得意なことをやっても効率が上がらない。
それどころか、不得意なことばかりやらせていると、本人のモチベーションは下がるし、自己肯定感が下がっていく、というのも俺は知っている。
俺だって、「プロジェクトマネージャーなんだから、管理はできて当然」と俺自身の得意なことや性格特性よりも、ポジションがそうなんだからいいからやれ、のようなコミュニケーションは直近のプロジェクトで経験した。だからこそ、それもわかる。
ただ、このダンジョンの主はあくまで、ローゼリアだ。
第三者の俺があまりにも口を出しすぎるのはよくない。
「ローゼリアが、どんな人に来てもらいたいか、それを素直に書けばいいんだよ」
ポイントは、ただむやみにやっているわけじゃない、というのを伝えることだ。
「ここはローゼリアのダンジョンだ。最終的にみんなを引っ張るのはお前だ。だからこそ、きれいに書かなくてもいいから、思ったことをやってみればいい」
「わらわが来てもらいたいと思っているモンスター娘」
少し間が開くと、ローゼリアは再びペンを取った。
/// 魔王直下! ヒーラーモンスター娘 募集 ///
◆業務内容
モンスター娘の治療
◆必須スキル
回復魔法
状態異常回復魔法
◆求めるモンスター娘像
思いやり
めげないハート
みんなと協力!
◆待遇
経験により相談
/// 連絡先はこちら ///
「こんなところかのう」
「うん、まあ悪くないんじゃないか」
こういうのは、自分の言葉で書くことが大事だ。
偽りのない生の言葉。
これが刺さる人とマッチングした方がよい。
「よし、書類もできたし、いくか。モンスター職業安定所」
こうして、俺とローゼリアは出来立てほやほやの書類を持って出かけるのだった。




