第16話:モンスターだって、ぎっくり腰になる
新しい一週間の始まり。
ダンジョンだって週休二日制なのだ。
モンスターだって、我々人間と同じく生き物である。
疲れもするし、腹が減っては働けない。
月曜日。始業のベルが鳴る。
異世界に来ても俺は定時前出社を心がけている。
昔は、早起きが苦手でぎりぎりだった。
もちろん、エレベーターが各駅停車になるとヒヤヒヤする。
しかし、間に合いさえすればいいと思っていた。
始業と同時にリュックを降ろし、自販機で缶コーヒーを買う。
これがこの世界に来る前のルーティンだった。
さて、出社ならぬ、出ダンジョンするが、
いつもこの時間にいるはずのゴーレム娘の姿が見当たらない。
ゴーレム娘には、ダンジョンの壁を掘るタスクが割り当てられている。
休みの場合、開発スケジュールに影響が出る。
後工程は問題ないか、一日遅れた場合、ダンジョンのリリースが間に合うのか。
俺の脳内に様々なリスクが思い浮かぶ。
「なあ、今日は休みが多いようだが、なんかあったのか?」
俺は、このダンジョンの主でもある、ロリ焔魔王に尋ねる。
「どうやら、ぎっくり腰のようじゃ」
「ああ、ぎっくり腰」
「そうじゃ。腰痛で休んでおる」
「ちょっと待って、ぎっくり腰って、あのぎっくり腰か?」
「ふん、たわけ者が。他のぎっくり腰があるわけなかろう?」
ぎっくり腰。
俺もぎっくり腰には何度も苦しめられた。
立っていても痛い。
横になっていても、痛い、痛い。
ペットボトルを飲むために首を上に傾けるだけでも痛い、痛い、痛い。
そのぎっくり腰。この世界でも存在するのか。
「ううむ、ちょっと無理をさせ過ぎたかもしれんのう」
「そうだな、あまり顔色に出ないからか、こちらも甘え過ぎたかもな」
「そうじゃのう。しかし、こうなったからには仕方ない。今日は休んでもらうぞ」
この土日が休みだったとはいえ、ここ最近は勇者の侵攻に備えて急ピッチで建設を進めていた。それに、マグマ床の誤発注もあり、既にスケジュールが遅延していた。
ゴーレム娘は口数は少ないが、基本的にはいいモンスター娘だ。
こちらが言ったことをこなす責任感もある。
それに、あまり文句も言わずに、仕事に取り組んでいる。
「それで、今はゴーレム娘はどんな感じなんだ」
「ああ、岩のベッドで横になっておる」
「なんか、こう湿布、痛みに効くようなものはないのか」
「そんなものは、ここにはない! わらわも200年健康ピンピンじゃったからのう」
「じゃあ、病院とか」
「病院? なんだそれは」
なるほど。ファンタジーRPGの世界にも病院はない。
宿屋はある。つまりはよく食べて、よく寝ればいい、という世界観だ。
「じゃあここは魔法の世界なんだから、回復魔法とか、ローゼリア使えないのか」
「わらわに回復など不要!なぜなら、この魔界最強の王になるのだから!」
ふふんと、得意げな顔をするローゼリア。
おしりからちんまりと生えた尻尾が左右にぶんぶんと触れる。
それに、背中から生えた小さな翼がぱたぱた、と上下に動く。
ローゼリアというのはとてもわかりやすい。
「……まあ、わかった。じゃあ聞くけど、ローゼリア以外に回復を使えるやつはいるのか?」
「そんなもの、おらん!攻撃は最大の回復なのじゃ! 我が軍は焔魔王の軍勢じゃぞ」
攻撃は最大の防御、と言いたいらしい。
しかし、もはや突っ込んでも意味がないと判断した俺は話を前に進めることにする。
「採用だ」
「うん?」
「ヒーラーを採用するぞ。もちろん、ダンジョンの開発計画は見直す。とはいえ、今後何かがあった時に備えておくのもマネージャーの役割だ」
「う、うむ一理ある」
「いまいるメンツに何かあると困るだろう。この世界で他にモンスター娘を呼びたい時はどうすればいい?」
「儀式を行い、魔法陣から召喚する場合と、モンスター職業安定所で探す場合がある」
「どう違うんだ」
「儀式は、魔界にいるモンスターと契約を結び、忠誠を誓ってもらう。安定所ははぐれ野良モンスター娘たちが一時的な仕事探しをする場所になっておる」
「なるほど」
つまり要するに、魔法陣からの召喚は直雇用の正社員のようなもので、
モンスター職業安定所にいって契約するのは、業務委託のようなものだろう。
必要以上にモンスター社員を抱えるということは経営の圧迫にも繋がる。
それは避けたい。
「いい面、わるい面それぞれあるが、今回は安定所で探そう。発注ミスもあって、俺らにはとにかく資源が足りない」
「ううむ、そうじゃな……わらわも正直、安定所というは使ったことがないのだが、早速行くかの」
「待て待て待て、待てって。どんなやつに来て欲しいとか整理した方がいいぞ」
「そんなのヒーラーに決まったおろう」
「そいつの性格がめちゃくちゃ悪くて、嫌なやつだったらどうするんだ」
むむ、と言わんばかりにロリ魔王が困り眉顔になる。
「それに、そいつに来てもらうにあたって、来てもらいたい、と思えないと」
「ローゼリアが働く時に、よくわからなん職場だったら嫌だろ?」
「うぬぬ、正論すぎて言い返す言葉もないの」
「というわけで、ジョブ・ディスクリプションだ」
「じょぶ・でんでぷくりぷとん?」
「ジョブ・ディスクリプションだ。つまり、どんなモンスター娘に来てほしくて、どんな契約にするかまとめたものだ。魔法陣で契約するときにはどうしてるんだ?」
「そんなものはない! わらわのもとで、はたらくがよい!」とやってきた。
だめだこりゃ。
いまはいいやつが多いから問題ないけれど、チームのサイズが大きくなってきた時に目線合わせが必要になる。ミスマッチングで早期退職というのもありうる。
せっかく、入社してもらったのに、求めていることと、やって欲しいことが整理されていないと、採用ギャップが生じる。だからこそ、一見遠回りに見えるが、この書類を作っておくのは悪い選択じゃない。
こうして、俺らは「ジョブ・ディスクリプション」を作るのだった。




