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第15話:魔界労働協定

ある朝、ダンジョンの開発現場に赴くと、ゴーレム娘たちが半分ほどしかいないことに気づく。

俺は、現場統括のサラマンダー娘に現状の報告をあげさせることにする。


「なあ、どう見てもゴーレムちゃんたちが半分もいないようなんだけど、どうしたんだ」

「みじかいきかんでの、かいはつをしいているので、ふかが高くなってきています」

「なるほどな……深夜残業が続いている感じだよな」

出社しているゴーレム娘たちを見回しても、顔には疲れの色が残っている。

少しやつれているように見える子もいれば、ぼうっと上の空の子もいる。


「まずいな。発注ミスで既に理想のスケジュールを超過してしまっているから、後工程のゴーレムちゃんたちの工数が圧迫されている」

ダンジョンにも基礎開発は欠かせない。基礎開発の後に、デザインの調整や、トラップが正常に作動するかのデバッグも必要だ。

それに、実際に出来上がったダンジョンを見てみたら、思うような仕上がりになっていない可能性だってある。

そうなると、ブラッシュアップ期間も必要になってくる。


「俺が、もう少しちゃんとしていればな」

ヨシヒロは自らのミスを悔やむ。

この世界に来てまだ日は浅いが、これだけ朝晩を問わず一緒にいて、同じ目的に向かって汗水を垂らせば情だって湧いてくる。

一種の文化祭的なノリもそこまで嫌いじゃない。


嘆く俺の元に一人の使いがやってくる。

「焔魔王はいるか?」

凛と張り詰めた声が聞こえる。声の主は、初めて見る、外ハネショートヘアをした魔物の少女だった。

ぐるぐると巻かれた黒色のリボンでバストとアンダーを隠している。

腰から漆黒の翼をはためかせ、キュッとしまったお尻からは先の尖った尾っぽが生えている。

手には三叉の槍を持っており、インプ娘と名付けるのが似つかわしい。

どうやら、ローゼリア宛の使いのものらしい。


「なんだ? 敵か?」

拳を握り、身構えた俺の声を制するように、サラマンダー娘がインプ娘に言葉を発する。

「これは、インプさま。ごぶさたしております」

「ふむ。サラマンダーか、久しぶりだな」

「あれ。知り合い?」

「はい。大魔王オース様に仕える使者のインプ娘さまです」

「小癪なる人間め。頭が高い。首部を垂れよ」

「はぁ……初対面なのに態度のデカいやつだ」

「なんだと、人間。八つ裂きにされたいか?」

「お待ちください。インプさま。いんぎんぶれいな、たいどを取り、もうしわけありません。かれはこのダンジョンかいはつを助けてくれているものです」

「ほお、この人間が、な。お主らに渡したいものがある、これじゃ」


そういって取り出し、不躾に手渡してきたのはやたらと薄い本だった。

タイトルには「小悪魔たちの放課後ろくでなし☆でぃず」と書かれた二人の小悪魔の女の子がもつれあって接吻をしている本だった。

「いいいい、インプさま……こ、この本は???」と慌てふためく、サラマンダー娘。

「へ?」

先ほどまでの不遜な声からは考えられないような間抜けな声が出る。

一瞬、硬直をしたのち、自らのもたらした状況を理解したインプは焦って、顔を真っ赤にしながら一通の封書をガサガサと取り出す。

「たしかに! 渡したんだからね! さようなら!」

そう言い残して慌ただしくその場を立ち去っていった。

「いったい何だったんだ……この手紙は?」

「ローゼリアさま宛のてがみのようです。お渡ししにいきましょう」


***

「なんじゃ? わらわに手紙じゃと?」

「ああ。インプとかっていう大魔王からの使いってやつからだったよ」

「なんと、大魔王様から? その封筒を貸すのじゃ」

ローゼリアは手紙の縁を恐る恐る切りながら一枚の紙切れを取り出す。

目を背けたくなる気持ちを乗り越え、目を開けるとそこには、魔界労働協定に関する通達と書かれていた。

「魔界労働協定? いったい何なんだよ?」とヨシヒロはローゼリアから手紙を取り上げる。


「ローゼリアよ。ダンジョン開発の進捗はどうだ? 最近バーン火山地帯の魔力の消費量が激しいという話を聞いている。もう少し稼働を抑えて計画的に開発するように 大魔王」

「おいおい……なんなんだよ、これは。魔力の消費量が激しいってどういうことなんだ?」

「うむ。わらわたちはもちろん、モンスターたちはみな、魔界からの魔力供給で活動しておる。だからこそ、ダンジョンから遠く離れることもできんのじゃ」

「なるほどな。で、魔力の消費量が激しくなるとどうなるんだ?」

「魔界から供給できる魔力も無限というわけではない。もちろん使い果たしてしまうと、活動ができなくなる」

「……わかった。むやみやたらと、モンスターたちを働かせすぎるのもよくないしな」

「みんなの健康を守るためにも、勤怠管理をしようと思うんだけど、どうかな」

「キンタイ……? 金の鯛などいないものを管理できるはずがなかろう?」

「いや、いまは鯛の話をしてないだろ? 俺が言いたいのはゴーレムちゃんたちが一体毎日どれくらい働いているのかを管理したほうがいいっていう話だ」

「そうじゃな。たしかに、ゴーレムたちは睡眠と食事以外は、働きずくめじゃしな」

「ああ、息抜きってやつも必要だ。時間はないのはもちろんだけど、力がでないとかえって効率も下がるしな」

「……むぅ。お主の言う通りじゃな。じゃあ早速みなの元へ行くとしよう」


こうして、魔王たちは一時の休暇を取ることにするのであった。

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