第13話:ダンジョンの発注先を考えよう
ダンジョンのトラップの作成は基本的にはイラスト制作と同義だ。
今回のダンジョンのマグマ床を納品するのだって、イラストを納品するのと同じに違いない。
まずは、ワークフローを整えさえすれば、きっとうまくいく。
仕事はダンドリが8割という言葉もあるくらいだ。
今回だって、きちんと業務設計さえしてしまえばいい。
「よし、じゃあ今から発注までのフローを確認しようと思うんだけど、これまでを踏まえると、どんな感じが良さそうかな。わかる人!」
しんと静まる空間。
ロリ魔王も、副官のサラマンダー娘も、目を合わせようとしない。
サラマンダー娘は下を向いて、もじもじしているし、ロリ魔王はわかりやすく視線を横に流して、まるでこちらを見ない。
ハーピィ娘だけは、瞳をきらきらと輝かせながら、こちらを見ているが、今回の問いかけとは別の感情を込めた視線を送りつけてくる。
「はぁ……。まあいいか。さっきもいった通りで、まずは最初に正確なイメージ共有が大事だ」
俺は正確な、を強調してハーピィ娘のほうをちらりと見る。
自分の過ちに罪の意識を感じているのか、ハーピィはうぅ、と申し訳無さそうな声がこぼれる。
「イメージの共有……だから、ヨシヒロはさいしょにせっけい図をつくるように、命じたのですね」
「そうだ。自分の頭の中のイメージを正確に伝えるのはとても難しいことなんだ」
ヨシヒロはそう言いながら、黒板にフローのイメージを書き出していく。
・発注書:料理本のレシピ、必要となる材料リスト
・ラフ :ざっくりとした完成イメージ
・線画 :味付けの大まかな方向性ができている状態
・仕上げ:最終的な盛り付けをして、料理として完成している状態
「サラマンダーたちにもわかるように書くと、やっぱりイメージして欲しいのはカレーだ。レシピを見ながら作るときを思い浮かべて欲しい」
「まぁ、難しく考えずにチェックポイントを依頼する側と受ける側で、握っておこうという感じだ」
そう言い終えると、チョークをレールの上にぽいっと置いた。
「じゃあ、早速だけどもう一度、ハーピィには発注書をつくってもらって、できたら俺に見せてほしい」
「ん。いや、待つのじゃ」
先ほどまで、まるで都合悪そうにしていたローゼリアであったが、今回は声のトーンが重く静かだ。
「今回の確認はサラマンダーにまかせるのじゃ」
「え……? わ、わたしですか?」
思わぬところからの発言に、おどおどとするサラマンダー娘。
「そうじゃ。このダンジョンの開発の責任は副官のサラマンダーにまかせてある」
「は、はい……そうは言っても、わたしでよいのでしょうか。わたしも、発注のけいけんがあるわけでは……」
「うむ。たしかに、おぬしは前回ミスをした。しかし、だからといって、今回またできないという理由にはならんじゃろ? 次はちゃんと見るのじゃぞ」
見た目はただのツノが生えた少女だが、そこはやはり魔王である。
抑えるべきポイントで、人心掌握をしているというか、天然でこれができるというのは、統治者としての星に生まれた才覚なのだろう。
「わ、わかりました。まおう様。つ、つぎはがんばってみせます!」
「あ、そうだ。ローゼリア。このあたりで発注ができそうなリストはなかったか? 発注するところも、もう一度きちんと選びたくって」
「うむ。えー、あー。どこにあったかのう」
「まおう様。ここにファイリングをしてあります」
「おお。さすがじゃのう。どれどれ」
魔王ローゼリアは、トラップの発注候補の資料を取り出すのだった。
【迷宮レジデンス】
勇者を捕える力、勇者を超える力
ダンジョン建設の総合窓口「迷宮レジデンス」の他、ダンジョン開発に必要なソリューションといったあらゆる商品・サービスを提供します。
迷宮レジデンスの持つ、総合力でありとあらゆるニーズにお応えします。
【罠工房】
我々は、手作りの罠を作り続け、100年の伝統技師集団です。
努力を怠らず、誠実さを貫き、信頼を勝ち得ることを第一義とします。
【TRAP UP】
私たちトラップアップは、ミッション、ビジョン、バリューを掲げ、顧客の皆様に最高のダンジョン体験を提供します。
ミッション:トラップを通じて、ダンジョンをより強固なものにする
ビジョン :罠のないあの頃にはもう戻れない
バリュー :想像と創造、勇者危険最大化、魔王危険度最小化、プロフェッショナリズム精神の遵守
んん、なるほど。という感じだ。
1枚目はどちらかといえば、大企業っぽい感じ。大手ならではの安心があるが、いまのうちの予算感だと合わないだろう。
2枚目は職人系のギルドというイメージ。しかし、今回は数を捌かないといけないので、スケジュールが間に合わないかもしれない。
3枚目はベンチャー企業のようなビジョンを掲げる系の企業だ。俺がはたらいていた、渋谷の会社のイメージと近いだろう。
「伝統技師! くー!かっこいい響きだねぇ。アタイもこういうのに憧れちゃうよ」
言葉の響きがハーピィ娘にはドンピシャだったらしい。
瞳を輝かせて、チラシをじっとみている。相変わらず、見た目の響きに弱いのが彼女の特徴だ。
「サラマンダーはどこがいいと思う?」
「わたしは……これ」
指差す先には、『TRAP UP』が指さされていた。
「いまの、わたしたちにはあまり時間もない。おおきいところは、じかんがかかりそう……」
「それに?」
「ミッションに書いてあるものが、いまのわたしたちに、ひつようなものだとおもう」
「よし、じゃあそこにまずは、トライアル発注をしてみよう」




