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第12話:モンスターだって維持コストがかかる

このダンジョンに勇者がやってくるまで、後1ヶ月もない。

忘れてはいけないが、勇者をいち早く仕留めた魔王こそが、大魔王になれる資格を手にすることができる。


ダンジョンは、勇者を迎え撃つために罠やモンスターといった経営資源を効率的に動かしてこそ、ダンジョンとなりうる。

なぜ、世間一般にあるダンジョンのモンスターも罠もいずれにも限りがあるのか。

それは、ダンジョンの運営コストにも限りがあるからだ。

だから、効率よく勇者パーティーのリソースーHP、MPを始めとするヒューマンリソースならびに、やくそうといった消費アイテムのたぐいーを削る必要がある。

魔王軍側が勇者の一行を削る手法として、大きく二つの方法がある。

ひとつめは、モンスターによる能動的な襲撃。もうひとつは、トラップによる受動的な攻撃だ。

もちろん、それぞれにメリットとデメリットがある。


モンスターのメリットは、やはり自律的に勇者パーティーを攻められることだろう。

では、モンスターばかりを集めればいいかというとそうもいかない。

モンスターは雇用形態によって、かかるコストも変わってくる。

正社員型モンスター、契約社員型モンスター、派遣スタッフ型モンスター、業務委託型モンスター、副業型モンスターと分かれている。

どのモンスターもそう簡単にクビを切ることができない。魔物にだって家族はいる。魔物だって生活があるのだ。


一方、トラップのメリットは初期費用こそかかれど、その維持費用の安さだ。

一度つくってしまえば、定期的なメンテナンスさえずれば、機能する。

それに、通り抜けなければいけない理由をつくれば、少ないトラップでも効果的に活用できる。

ここを通らないと先に進めないだとか、宝箱が見えるだとかだ。


しかし、これもやはりやりすぎは禁物なのである。

やりすぎは勇者に警戒をもたらす。このダンジョンは危ないから一度、態勢を整えてから潜ろう、なんて思われてはいけないのだ。

そんなことをされては、大量のHP回復アイテムや、ワナ回避呪文を覚えてから挑まれてしまう。


危なくなさそうで、実は危ない。このキワを攻める。

これがダンジョンのバランスチューニングの設計コンセプトである。

ダンジョンの設計は、パラメータ設計と同じなのだ。


このダンジョンは、火山地帯という立地を活かし、勇者を迎え入れることにしたのだ。

火山地帯特有の立地の攻め込みづらさ、これは大軍が押し寄せるのを防ぐことができる。

それに、地下から湧き上がる蒸気は人間にとっては、じわりと体力を奪っていくだろう。

そして、汲み上げたマグマは熱によるダメージを期待できる。一歩あるけば、軽く10ダメージは行くだろう。

天然の要塞として、トラップを中心に組み立て、最小コストで最大リターンを得る。

これが、このダンジョンの狙いのはずだった。


そう、マグマ床の発注さえ間違えなければ。


「はぁ。それじゃあ今回の振り返りから始めよう」

ダンジョンの一室の特別会議室に俺と、三人の少女たちがいる。

「今回の発注、どうしてこんな結果になったんだと思う」

「アタイが自分色を出しすぎちゃったっていうか、そのごめんなさい」と言うのは半人半鳥の少女。

「もうしわけありません。わたしがかくにんもせず、そのままポストに入れてしまいました」こちらは半人半蜥の少女。

「むぅ。さすがになんの調査もなく変なところに発注したのはまずかったのう」こちらは推定200歳のロリばば……ぶごぼっ……!!


心の声を読まれたのか、シッポのビンタではたかれ、俺は壁に叩きつけられた。

口の中に岩の欠片が入り、舌の上がジャリジャリとする。


「いてて……話しを戻そう。今回、問題なのはゴールイメージの共有とチェックポイントがなかったからなんだ」

ロリ魔王とモンスター娘たちは、ぽかんとした顔をしており、こちらの言葉が思惑通りに響いているようには思えない。


「カレーづくりを思い出して欲しい。最初にどんなカレーにするかは考えるだろうし、途中で味見をして、調味料を足したりするだろ?」

なるほど、と言わんばかりに首を小刻みに上下に動かし、うなづく。


「むぅ。今回はカレーのイメージも、その味見もないまま食卓に料理が並んでしまったということじゃな」

「うぅ……。恥ずかしながらアタイは自分の絵を描くことでいっぱいいっぱいだったよ」

頭を掻きむしり、反省の色を浮かべるハーピィ娘。


「そうだな。今回はどっちも出来ていなかったのはたしかだろう。どんなダンジョンで、どんなトラップが配置されると相応しいのかってのをな」

「まったく、返す言葉もないよ……。クビと言われても仕方がない」

次第に落ち込みの色が顔に濃く出始めてきた。


俺は息を深く吸い込み、落ち込んだ少女に対して言葉を投げかける。

「これは、俺の解釈だけど、アートが自己表現だとしたら、デザインは他者の目的を表現する絵的なアプローチだと思うんだ」


少女の頭の上にハテナマークがいくつも出てくるのが見える。

この娘にはちょっと難しい話しのようだ。


「えっと……。つまり、すごくかんたんにいえば、今回は勇者を招いて倒す。それができればOK。それをより叶えやすくするために、改めて手伝って欲しい」

二度目の方の言葉の意味が伝わったのか、瞳を輝かせる。


「さすがダーリン! アタイのことやっぱり必要なんだね」

胸元に飛び込んでくるハーピィ娘をひらりと交わし、頭上にチョップを食らわせる。


「次こそは、成功させるぞ。まずはワークフローの整備だ」

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