開戦
移動日の朝早く、まだ太陽も昇ってない頃私たちは村の門にいた。
「じゃあ先に出発するね」
私とミカ、舞はニサちゃん達に挨拶をする。
私たちは奇襲組は天使の町の裏手に回るため早めに出発を開始する。
「わたくしたちもすぐに出発しますわ」
「むっ 葵 また後で」
2人に別れを告げ出発する。
移動は目立たないように徒歩だ。ルートの方はヒヨ族を始めとした鳥達による上空からの偵察と、事前に配置していたルプス族の皆さんによる敵のいないルートを選び進む。
葵達が出発して2時間後まだ朝日は顔を出していない薄暗い中ニサ達が門の前に立つ。
「メサイア準備は良いかしら、わたくしたちも出発しますわよ」
「むっ 完璧!」
「この作戦わたくしたちがどれだけ目立てるかかかってますわ。思いっきり行きますわよ!」
「むっ メサイアに任せる」
2人の移動は基本羽で木々を避けながらの低空飛行。こちらもルプス族を始めとした誘導がある。
朝日が昇り始める。闇の下からぼんやり光が灯り始め、やがてそのぼんやりは、大きくはっきりし始める。
街灯の明かりは日の光に役目を譲り木々は深い緑から青く光だす。
人もまばらな町の広場に魔方陣が描かれる。1つではない、広場以外のあちらこちらに同時に描かれる。
中から出てくる、魔物と言うには余りにも醜い色々な生き物をくっつけたような生物。
ただ共通するのは何かしら武器を持っていること。
まだ目も覚めぬ町に響く魔物の怒号と住民の悲鳴。
朝早い者が食事の為に使うはずの火が燃え移り、町一部に火の手が上がる。
カノンは珍しく焦っていた
「こうも行動が早いとは、しかも迷いなく自分の民を襲わせるとは計算外でした。この動きの早さ内通者でしょうね。今はそれどこではありませんが」
屋敷の廊下で羽を展開し、飛びながらぼやく。
1つの扉の前で止まり部屋に入る。
部屋の書斎の本棚を横にずらし裏から出てきた扉に入る。
階段が下に続き降りていくと重そうな扉がある。その横にある出っ張りに右手をかざすと扉が横にスライドし始める。
「タイス様!こちらの予定より1日早く行動が開始されました。こちらも早急に準備をお願いします」
中にはタイスを始め6人の天使がいた。
「事前に打ち合わせしようと集まっていたのが幸運だったかしらね。カノンこっちはどうにかするわ、貴女は予定通りに門を壊しなさい」
「分かりました、後でソフィー様も来られるでしょうから、後は宜しくお願いします」
カノンはもと来た道を飛んでいく。
タイスは息を大きく吐くと
「さて、私たちは私たちの出来る事をやりましょうか」
「リング」
タイスの頭上に天使の輪が召喚される。右手でそっと持つと6人の天使が円を描いて囲む地面に描かれた魔方陣に手で押し付けるように置く。
天使の輪が魔方陣とタイスの右手に間に挟まれている状態で、タイスが力を込めると魔方陣が金色に輝き始める。
「ふーー成功。後は町中に張り巡らした線を使えば空に投影出来るわね。」
タイスは自分の手を見て呟く
「こんな、魔力増強なんてリング、魔力の少ない私が持ってても意味ないと思ってたけど使いどころあるものねぇ」
カノンは飛びながら叫ぶ
「ハルジオ!知らせて下さい。戦いは始まったと皆に!」
1羽の鳥が近寄りカノンと目が合うと外へ飛んでいく。
「葵さんにお借りして正解でしたね。さてと」
「アルカンシェル」盾を召喚し構えると
「勘が鋭いじゃねぇか!」
大きな声と共に大きな剣が上の階を突き破って振り下ろされる。
土煙と埃の舞う中、戦いが始まる。
「あら?貴女は確かノースさんですよね」
「へぇ、かの有名なカノンさんに覚えて頂けてるとはね」
涼しく挨拶をしながらも狭い廊下の中を大剣と盾が激しくぶつかり合う。
「じゃあ、おれは知ってる?」
声と共に壁が横に粉砕されながらハンマーが顔を出す。
カノンは天井に着地してハンマーを避ける。
「えっと、マズルカさんですよね」
「正解だ!」
ハンマーと大剣が盾とぶつかり合う。
「トリス様直属の部隊でしたっけ?と言うことはもう一人いますね」
「ガルディエーヌ」大きな盾を自分の下に横向きに召喚して床に落とす。
ボン!ボン!と盾の下で小爆破が起きる。
「およ、ナグアルの罠をよけちゃうかぁ、やるねーー」
「自己紹介助かります」
そう言ってカノンは召喚した盾の上に立つ。
「デストリュクシオン」
ズドーーーーン!!
盾から発せられた衝撃で廊下の床が抜ける。
更に衝撃は広がり3階の外側の一部を倒壊させる。
ノース達は羽を展開し
「あいつ、涼しい顔して無茶苦茶だな。おい、追うぞ!」
カノンが向かうと思われる門の方へ飛んでいく。
ハルジオは小さな体を使い必死で飛んでいた。カノンから預かった伝言「戦いは始まった」つまりは開戦だ。
魔女様を始め皆移動中のはず、この事を知らない。自分の羽にこの戦いの今後の流れが決まるかも知れないと思うと羽が折れそうな気分になる。
千切れても良い、必死で飛ぶ。
目線の下にルプス族3匹を発見する。恐らく魔女様の庇護の者だ。伝えなきゃと言う気持ちに一瞬恐怖がよぎる。
元々は相手はヒヨ族を食べる捕食者であり自分は補食される方だ。庇護下の条件の1つにむやみに多種族を襲わないと言うのはあるが、食事なら問題は無いと言うのがある。
一応ルプス族や、シベリ族が運搬している時や、ヤエのように魔女様専属になるといかなる時も襲ってはいけない事になっている。
ヤエには特別に銀の足輪が着いており。これにより他の種族からの手出しを防いでいる。
だがハルジオには輪がない。怖い……でも
ルプス族の鼻先にハルジオがとまる
「魔女様達に伝えてほしい、戦いは始まった。開戦だと!」
「おう、任せろ!お前ら別れて仲間にどんどん伝えて行け!」
「お願いします。ぼくも他の仲間に伝達していきます」
「あぁ、お互い頑張ろうな!」
ぱたぱた飛んでいきハルジオは空の仲間にも伝達を頼みに行く。
心臓の音が聞かれていないかドキドキしながら。