アイネ バギンズ
「アイネちゃん、調子はどうかしら~」
トリスの声で病室のベットで目を覚ますアイネ。
「おはようございます。トリス様。調子は良いです。右手も大分動くようになりました」
「そう、良かったわ~」
「この技術は一体なんなんですか?このようなものがあるとは初めて知りました」
「最新の技術よ~。戦いで手足を失った者に救いを与えたかったの~」
「流石トリス様です」
「じゃあ、わたしは行くわね~」
「はっ!わざわざ来て頂き有難うございました」
トリスを見送った後、自分の右手を見る。灰の魔女に切られた右手は今は黒く、脈打つ禍々しいものになっている。
左目はエメラルドグリーンの瞳ではなく黒くヤギのような目に変わっていた。
なんでも右手を制御するために必要らしい。
胸を押さえる。左胸を裂くように横に傷が入っている。
自分のリングを埋めた傷跡だ。
ベットから立ち上がり鏡を見る。アイネ隊の隊長だった自分はもういない。
そして何より人として越えてはいけない一線を越えてしまった。
魔女を食べた。言葉通り食べたのだ。
トリスがなぜこのような事を知っていたのか正直疑問はある。だがその事を知らぬ振りをしてでも戦う事を選んだ。
灰の魔女を倒す為。
アイネには姉がいた。
名前をリュウ バギンズ
天使で姉妹はかなり珍しいが、2人は仲良く助け合い生きてきた。
2人共に戦闘の才能に恵まれ、軍に入り数々の戦績を残してきた。
魔物の討伐を精鋭部隊である姉の隊が命じられた。その当時最強と言われた部隊。攻守共に優れ、優秀な回復役もいたその最強部隊が一夜で全滅。
信じられなかった。トリス様が先陣を切って捜索隊が長い時間をかけ探したが血痕しか見付からなかった。
未知の魔物がやったと言う結論になった。その魔物を討伐する為、更に剣の腕を磨きトリス様直属の部隊まで上り詰めた。
だが今は……
病室のドアがノックもなしに開かれる。
「ハロー、あんたアイネさんだね。見たことある」
目付きの鋭い天使が入ってくる左目には眼帯をしている。
やがてもう2人、左目に眼帯をした天使が入ってくる。
「んじゃ自己紹介すんね、あたしがノース ベヤゼット。隣がマズルカ ネローネ。最後にナグアル ミゼレーレ
あたしらがあんたの後にトリス様直属の部隊になったんだ。
んで、あんたをあたしの隊に入れてくれって命令されたんだけど、戦えんの?」
「ああ、戦える」
「ほんとか?魔女に負けたんだろ。あとさ真面目過ぎんだよ。あたしは砕けた感じでいきたいんだよな」
「すまない、足は引っ張らない。よろしく頼む」
アイネは深く頭を下げる
「そう言うとこが硬いんだよ。まあ良い、元隊長さんでも今はあたしの部下だからな。言うこと聞けよ」
「承知した」
「かてーーな、おい。
まあいい、後で詳しい話はするけど近日中に灰の魔女を巻き込んで戦争になる。準備しろよ」
そう言ってドアを出るが振り返って何かを投げる。
「それ付けとけ、その目は天使の中では目立つ。同じ魔女食い同士仲良くしようぜ。じゃあまた後でな」
「なあ、なあノース、あいつ使えるのかよ。おれはあのタイプ苦手だぜ」
「だねーーナグアルもキライだ。マズルカとかハンマーで殴ちゃいそーー」
「違いないな、やっちゃうね。ハハハ」
「あいつは灰の魔女にぶつけときゃ良いんだよ。執念で時間稼ぎ位にはなるだろうって。
あたしらは確実に殺って楽しもうな」
「さんせーー」
眼帯を付け、左手を隠すような長い手袋をする。
「必ず、灰の魔女を倒す」
そう強く誓うアイネの姿は天使の面影はなかった。




