葵とミカの出会い(前編)
「ミカ様、こちらの書類に印鑑を押してもらえますか?」
1人の天使がミカの座る机にやって来て書類を机に置く。
「ん?あぁこの間の工事の終了印だね。任して!」
ミカは椅子から立ち上がると印鑑を手に持ち目を瞑り集中する。
(邪念を振り払い、真っ直ぐ!最短で一直線だ!)
スッと書類に印鑑が押され、静寂が訪れる。そっと印鑑が書類から離れると、くっきりとしながらも滲みのない綺麗な印が現れる。
「見てよ!このすばらしい印、ミゼルここ最近最高の出来じゃないかな?」
1番近くに座っていたミゼルと呼ばれた天使が困った顔をしながらも100%の愛想笑いで答える。
「ええ、とても綺麗です。ミカ様の印は綺麗だと評判ですから」
その言葉に満足したように書類を持ってきた天使に書類を返す。
その天使が帰るのと入れ替りで、1人の天使がやって来る。
「ミカ様これを、タイス様からお預かりした命令書になります」
長く綺麗な髪に小さなリボンが可愛らしく飾られている天使はミカに書類を手渡す。
「あ、カノン久しぶり。元気してた?」
「はい、お陰さまで。
ミカ様もお仕事にこだわりを持ってやられているようでなによりです」
「そう!こだわりは大事だからね。ところでこの命令書は……」
機密事項の項目があったため黙って読む。
(人間界へ行けと。魔女の魂が人間界にある可能性があるか。
なんで私なんだろ?)
「ねえ、カノン。この命令書について何か聞いてる?」
渋い顔をしたミカがカノンに聞く。
「タイス様やソフィー様の推薦だと聞いてます。いざというとき、戦争経験者のミカ様が最適だろうとおしゃってました」
カノンの言葉に更に渋い顔になる。
「確かに経験者ではあるけど、私ぶっちゃけ弱いよ。カノンとかアイネの方が良いと思うけどな」
「それは上からの推薦もありますからミカ様が最適と判断されたのでしょう」
「んーーまあ、行くかぁ人間界」
(お義母様の事だ、何か考えがあるのだろう。人間界初めてだし楽しむのも良いかもしれない)
そんなことを考えながら書類のページをめくり読み進める。
「期限 無期限」「場所 立夏高校 ※女子高生として潜入」
1ページ目のそんな文字が目に入ってくる。
(無期限?また曖昧だな。女子高生ってなんだろ?まっ資料を貰ってから読んでいけば良いか)
***
「この電車に乗れば良いの?乗り換え?大分?えっそこに案内の人いる?」
駅の前でミカが不安そうに時刻表やら何やらを見ている。
「こちらをどうぞ」
そういってサラリーマン風の男の人に一冊の本を渡される。
「乗り換え指南書?これ見たら大丈夫?」
男の人が笑顔で頷いてくれる事で、ミカの不安が少し和らぐ。
「カノンはお弁当が美味しいとか言ってたけど、そんな余裕ないって。もう、乗り換え無しが良いって言ったのに。更に新幹線に乗るとか難易度高すぎ」
乗り場の自動販売機で買ったお茶を飲む。
「はあ、暖かいなあ。この機械?どうやって飲み物を温めているんだろ?凄いなあ」
自動販売機をペタペタ触る不審者ミカだが、その容姿から観光の外国人と思われているのだろう。周りからそこまで不振な目は向けられない。
電車に乗り資料に目を通す。
(ふーーん、日向 葵。この子に魔女の魂が混ざった可能性ありと。既に本人に成り済ましてるかもしれないと。
魔女って人を乗っ取ったりするのかな?風の魔女様は結構気さくだったし、火の魔女様は多分凄く優しいと思うんだけど)
周りを見渡す。色々な人が乗っている。その中でも気になるのが女子高生なる存在。
何て説明すれば良いだろうか、物凄いエネルギーを感じる。よくも悪くも力がみなぎってる感じだ。
(私はあの中に入らないといけないのかぁ。不安だなぁ、やっていけるかな……)
無事に大分駅で降り、乗り換えの電車を探す。
ボスっ!
乗り換えの指南書を読んでいた為人にぶつかる。
「あっ!ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「いやこっちも前見てなかった……です。ごめんなさい」
2人の目が合う。
「え!?」
「なんでマイがいるの?」
「なんでミカがここに!?」
ミカとマイが同時に叫ぶ
「私は仕事、マイはなにしてるの?」
「あ、ああちょっとな。自分を探す旅の最中だ」
「本当に?何年か前に天使の門で騒ぎがあったって聞いたけどまさか……」
「そ、それより仕事だろ。なにするんだ?」
「本当は機密事項だけどマイなら良いかな」
「いや、おい、良いのかよ……」
あっさり教えようとするミカにマイの方が天使の情報漏洩を心配する。
2人は電車に乗り揺られながら話す。
「なるほど、なるほど魔女の魂が、人間に混ざったと……」
マイが汗を垂らしながら聞いている。
「なんか知ってる?知ってるなら教えて……いや知ってるだろ!吐くんだマイ!」
ミカがビッシっとマイに指を指す。
「いや、知らないね。それより学校に潜入するんだろ。あたしも手伝おう」
「面白そうだから?」
「まあそれもある。後は個人的に魔女には貸し借りがあるんでな、気になるってのが大きい」
ミカの問いに真面目な顔で答える。
「マイが何か悪いことする事はないだろうし、信じてこれ以上は聞かないよ」
「恩に着る、約束なんでな」
電車に揺られ、新幹線の乗り換えに成功し駅でミカは迎えの天使と話をする。
「アパートへは地図通りに行けば良いんだね。分かったよ。
でさ、お願いがあるんだけど、私が入学するにあたって魔法で記憶の操作するよね?あの水晶2個貰えないかな?」
「えっなぜ2個もいるんですか?1個で効力は問題ありませんよ」
相手の女性は困惑した感じで答える。
「いやあ、実は私魔法使うの下手なんだ。そそっかしいし割る可能性も高いんだ。失敗するかもしれないしお願い出来ないかな?」
「えぇまあ、そんなに大したものではありませんから問題はありません」
「ありがとう。ついでにもう1つ。学校の制服をもう1セット貰えない?私絶対に汚すか破る自信あるんだ」
「それは支給されたお金に余裕があるはずですから、そちらから出せば大丈夫だと思います。
では学校への手続きなどは父親、母親役の者が近日中に伺うはずですからそちらで説明聞いてください」
「そうなんだ、分かったよ。ありがとう」
ミカは手を振って女性を見送る。
駅の柱に寄りかかり不適な笑みをこぼす。
「ふっふっふ、これでマイも学校に潜入出来るよ」
柱の裏側に寄りかかるマイも不適な笑みをこぼす。
「ああ、助かる。だがこれで、ミカ テレーゼは魔法が下手でそそっかしいし、服もぼろぼろにする天使って噂が広まるかもな」
「う、それは……し、仕方ない」
ちょっぴり後悔するミカだった。