メイドの苦労は絶えないようですね
メイドさん目線です♪
「はじめまして。私の名前はレイア・クロセ。今からこの屋敷の主人となったものよ。どうかよろしくね。」
その姿に、私は一瞬にして目を奪われた。
私たちの前に現れた新たなご主人様はこの世の美を全て集めたような、それはそれは美しいお姿をした、だけどもまだ18歳くらいの見た目の美少女だった。
そして、その美しい姿だけでなく、なんの濁りもない純粋で吸い込まれそうになる神秘的な瞳…。
新たな主人は私たちを見渡しながらそう言った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私が仕える屋敷の主は先日、[世界を救う者]として召喚されたレイア・クロセ様です。
初めてお姿を拝見した時は、そのあまりにも麗しいお姿に魅了され、気を失うかと…いいえ、本当は、私も含め男女関係なく、何人もの使用人たちがバッタバタと。それはそれはドミノのように倒れましたわ。
どんなご令嬢も勝てない魅力を持ちながら、これまで仕えてきたどの貴族の男性よりも凛々しいそのお方は、さながら夢の中でしかいないような……
“理想の王子様”だったのです。
☆ ☆ ☆ ☆
「「「おはようございます、レイア様。お目覚めのお時間です。」」」
今日も私たちは、レイア様に朝を告げる。
どこぞのわがまま令嬢とは違うレイア様は、スッと身を起こすとこちらを向き、挨拶を返された。
「おはよう。今日もいい天気ね。」
そう言って優しく微笑まれた。
……その笑顔はもはや殺人的な威力を持っており、すっかりレイア様を崇拝している私たちは、思わずフッと意識を手放しそうになった。
「「あぁっっっっ!!!」」
ダメだった。私以外のメイドが2人魅力にやられ、ポーっとしている。こうなったらもう使用不可です。
(せめて私一人でも気を強くもたなければ!)
ですが、私のこの決意はすぐに打ち砕かれることになります。
レイア様は反応なしとなったメイド達を心配してか、近づいて一方のメイドの頬に手を当て至近距離で見つめ始めた。
「大丈夫?うーん、熱ではないようね・・・・。体調が悪くなったら、ちゃんと言わなくては駄目よ?」
これによって、ただでさえ保証していたメイドが完全に壊れた。
真っ赤な頬でぷしゅ〜という音をさせながら、湯気を出している。まあ無理もないことです。
ですが、おそらく今日1日中は使い物にならないでしょう。
私だってあんなことをされたら、気を失っていただろうから。
自分のせいとはつゆ知らず、「参ったなぁ〜」と困り顔をしているレイア様。ですが何を考えたのか私を見て、はっと笑顔になっりました。
はて、なんだろう考えていると
「ねえ、貴方。確か一階の部屋、一つ空いてるよね。私が2人を運ぶから、ベッドを整えてくれる?」
「えっレ、レイア様が!?めめめ滅相もございませんっ。この者たちは私が運びますので、大丈夫でございます。」
レイア様に運ばせるわけには…、そう思っているうちに、気づけばレイア様は重症の方のメイドを抱き上げていました。
そう。 いわゆる、お姫様抱っこで。
抱えられているメイドは、なにやらブツブツと「もう死んでもいい」「この人生に悔いはない…」などと言っていたが、小声だったためよく聞こえませんでしたわ。
そして呆然としていた私でしたが、レイア様が一階の部屋に行こうとしていることに気がつき、慌ててベッドを整えに行った。
運び終えたあとふうっと一息ついていると、レイア様が私の頭にポンっと手をのせて
「いつもありがとう。頼りにしてるわよ。」
と、ねぎらいの言葉を下さった。
はいっ、という私の返事が嬉しかったのかレイア様は満面の笑みを私に向けてくださいました。
その超至近距離から向けられた笑顔を正面からモロに受けた瞬間ーー
ーー視界が暗転しました。
それからの事は覚えていない。魅力にやられ、無意識に移動していたようで、気づいたら、ただ無心にジャガイモを剥いておりました。
もう一人の比較的軽症だったメイドは数時間でなんとか治ったようで、逆にその日一日中素晴らしい仕事ぶりでした。
ちなみに、重症のメイドはレイア様がその日一日中看病をすると言い出しました。
ですが、これ以上重症にするわけにはいかないと何度も私が言ったところ、何のことか分からないという顔をしていたレイア様でしたが、遂に諦めてくださいました。
そのおかげで、メイドは翌日にはすっかり元気になっていました。
ただ、時折『レイアお姉様…』と頬を赤らめながらため息混じりに呟くようになってしまったのが問題と言えますが……。
普通の貴族なら、看病なんてしない。人を運ぶなんてもってのほか。
仕事中に倒れる者は即座に捨てられるか、殴られて罵倒され、虐げられるか。
だからレイア様が、直々に看病なさるなんて……!と、とても恐れ多いと思った。
ですが、この一件で、レイア様に対する我々使用人一同の株は、出会いの時からもともと高かったのにかかわらず、更に大きく跳ね上がったのです。
ーーーーそして今日も、レイア様の元に朝の挨拶をしに行く。
そして今日も、レイア様が訪れる屋敷の行く先々で老若男女関係なく、使用人たちが幸せそうな真っ赤な顔で、バッタバタと倒れていくのでしょう。
まだ、1日は始まったばかりーーーー