表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハナコさん、暴れすぎッ!  作者: 鷲空 燈
第3章 『狂乱の宴』【????】
35/49

第31話 【交渉代理人・田中】

 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



【一月後】



「ねぇ、光恵さん……もしかして、今までのこと……夢じゃなかったのかな?」


「さ、サッちゃん、まだ夢だと思ってたの!?」


 まさか、ここに来てその発言が出るとは思わず、光恵は驚いた。


「いや、やっぱり夢だよね。だって、わたし達がこんな立派な……」


 サッちゃんが、恍惚とした表情で周囲を見渡した。


「フフフ、そうね。これは夢かも……。でもね、サッちゃん」


「なに? 光恵さん」


「夢でも、いいじゃない。どうせ夢なら、楽しまなきゃ損――そうでしょ?」


「夢でも……。うん、そうだよね! 夢でもいっか! そうと決まったら、急いで準備しなきゃ!」


「そうよ。なんたって、あと二日しかないんだから!」



 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 (とき)は三週間、(さかのぼ)る。



 拉致されて一週間――ホテル暮らしも板に付いてきた頃、光恵のポケットの中で、例のスマホが初めて着信音を奏でた。


「さ、光恵さん! な、鳴ってる! 電話鳴ってるよ!」


「う、うん。じゃあ出るよ――ピッ……も、もしもし……」


『大川光恵さん……で、間違いありませんか?』


「は、はい。あの……そちらは……」


『失礼、申し遅れました。わたしは、このたび交渉代理人を請け負った、田中と申します』


「こ、交渉ですか?」


『はい、今、あなた方がいるホテルにいます。少しお会いできませんか?』


「あの……少年のこと……ですよね?」


『そうですね。でもそれは、一番重要度の低い案件です』


「え? あの少年の関係者じゃ……ないんですか?」


『違います。わたくし共は、あの少年の被害者の立場と言えるでしょう。当方が一番訊きたいのは、あなた方がサッちゃんと呼ぶ人物――樹神幸子さんについてです』


「サッちゃんの? あの……サッちゃんとは、どういう……」


『そのことについても、直接お話しできたらと思っています』


「わかりました……。会ってお話しします」



 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「あの……田中さん……ですか?」


 ホテルのカフェテリア、その一番奥に目的の人物がいた。

 白いあごひげを蓄えた、整った身だしなみの紳士だ。

 その40代男性が光恵の姿を確認すると、立ち上がり驚いた表情をした。


「これは……わたくし共の調べでは……いえ、失礼。初めまして、先ほど電話致しました田中です。大川さんですね? 永渕さんはご一緒では?」


「はじめまして。サッちゃん……えっと、早苗には、訊かせたくない話をすることになると思いますので、部屋に残してきました。説得が大変でしたけど……」


「なるほど、どうぞおかけ下さい」


 光恵は促されるまま、男性の対面に腰掛けた。


「それで……どんな話を?」


「まずは、これをご覧下さい。少々、刺激の強い写真ですが……」

 田中の差し出したのは、1枚の写真だった。田中は続けて言った。

「この人物が誰か、おわかりですか?」

 

 その写真の人物は、下着姿で手錠をはめられた、全身アザだらけの少年だった。


「はい。この子は”かどやまたくや”……ホームレス狩りをしていた少年です」


「ふむ、あなたは、この少年に殺されそうになった――間違いありませんか?」


「……はい。ある人が助けてくれなければ……そうなっていたと思います」


「そうですか……。その”ある人”とは――あまつかまりあ……ですね」


「っ!? 田中さん、マリアちゃんの知り合いなんですか!?」


「いえ、お会いしたことはありません。その人物から荷物と手紙を受け取っただけです」


「荷物と……手紙……?」


「はい、一週間前の真夜中に、()()()()()()()()に、突然出現しました。これが、その手紙です。どうぞ、お読みになって下さい」


 光恵は、手紙を受け取り、視線を落とした。


【はじめまして、この()()()()()()()は、あなた方へのプレゼントです。ご自由にお使い下さい。そして、この()()()()()()は、あなた方の探している人物――永渕早苗と、大川光恵を殺害しようとした、巷で噂の”ホームレス狩り”のリーダーです。()()は、あなた方の雇い主に渡すと、小躍りして喜ぶでしょう。永渕早苗と、大川光恵の両名は、×▽区の、○△×公園に居を構えています。即刻、容赦なく捕獲、手厚く保護しなさい。すごく小綺麗になってるけど、気にしないことです。――○月◇日、通りすがりの美少女、あまつかマリアより】


 たしかに、光恵の受け取ったマリアの手紙と、同じ筆跡で書かれていた。

 光恵の警戒心が一気にゆるむ。

 この手紙で、目の前のいる人物が、マリアの信頼を得ているとわかったからだ。


「”まりあ”なる人物について、教えていただけますか?」


「はい……」


 光恵はマリアについて、知っていることを、すべて話した。

 マリアからもらったお軽い手紙も見せた。

 マリアも、それを望んでいる気がした。



 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 


「だから、そのように美しい……コホン。不思議なこともあるものです」


 すべてを聞き終えた田中が、口を開いた。

 不思議なこと――その一言で、光恵の話を受け入れたこの人物は、一体何者なのだろうか?

 でもそれは、触れてはいけない領域であると、光恵は直感した。

 ()()()()()()()と称された少年――その行く末を、尋ねてはならないのと同様に……。


「田中さん達は、この手紙でわたし達の所へ来たんですね……。でも、そもそもどうして、わたし達を探して?」


「その話をするには、ある人物についてお尋ねしなければなりません」


「サッちゃん――樹神幸子ちゃんのことですね」


「はい。教えていただけますか?」


「どこにいるかは、わからないんです……。わかっているのは、サチコちゃんが、今、幸せに生きていること……。そして、マリアちゃんがその行方を知っていること……。わたしがサチコちゃんについて知っているのは、それだけです」


「あまつかマリアが……なるほど……」


「わたしの知っていることは、これで全部です。あの、田中さんの依頼主って……誰なんですか?」


「樹神幸子さんを、とても大事に思っている人物――当方に開示できる情報は、これで全てです。その依頼主から、あなた方二人にお願いしたいことがあるそうです。どうぞ、永渕さんもおかけ下さい」


 田中が唐突に、もう一人のサッちゃんの名前を出した。


「えぇ、わたしも話を訊かせてもらうわ」


「えっ?」


 光恵が声の下方向へ振り返ると、いつの間にか光恵の後ろに、サッちゃんが立っていた。


「さ、サッちゃん!」


「部屋で待つって約束……破ってごめんなさい。でも、光恵さん。わたし、もう、病気じゃないんだよ?」


「それは、わかってるけど、でも……」


「わたし、もう……もう、お荷物じゃ……ないんだよ?」


 サッちゃんの声は震え、目には涙がにじんでいた。

 

(あぁ、そうか……)


 光恵は、そのサッちゃんを見て、改めて理解した。


(サッちゃんは、ずっと苦しんでたんだ……)


 光恵に負担をかける自分に……そして、なにもできない自分に、ずっと苦しんでいたんだ。


「そうだよね……。さぁ、二人で話を訊きましょう。こっちにおいで」


「うん!」


 サッちゃんは、泣きそうな顔で笑った。


「……依頼主の、あなた方を気にかける理由が、わかった気がします。さて、おふた方にお願いしたいことは…………」


 表情と声にやわらかさを増した田中は、ずいぶんと長く、その”お願い”について、説明をした。

 


「え? そんな……でも……」


 田中の言った”お願い”に、光恵は戸惑いを隠せなかった。


「いい! それ、すっごくいいですよ! やろう! やろうよ、光恵さん!」


 サッちゃんが、興奮して立ち上がった。

 光恵は、夢を見ているような気分で、目の前の男性を見た。

 男性は、孫を見るような――眩しいものをみるような目で、光恵とサッちゃんをやさしく見つめていた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑


少しでも気になった方は、一度作品の評価をお願いします(☆☆☆☆☆をタップするだけ)
『★★★★★』だと作者が飛んで喜びます
気に入らなくなったら、遠慮なく評価を取り消して下さい(※同じ場所をタップすれば簡単に取り消せます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ