角山卓也その1 【拉致】 *残酷描写アリ
【0回目】
「う……」
角山卓也が、目を開けると、そこは、狭い部屋だった。
「なんだこれ!?」
卓也が、起き上がり、状況を確認した。
着ているは、薄いシャツと、ボクサーパンツのみだった。
「な……!?」
そして、両手首には、手錠が……。
「くそっ! どうなってる!?」
卓也は、薄いシーツをはねのけ、立ち上がった。
今まで寝ていたのは、コンクリートの地面に敷かれた、薄いゴザだった。
それに、毛布代わりの、薄いシート――部屋にあるのは、それだけだった。
「おい! 誰か! 誰か!」
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
卓也は、金属製のドアを、力一杯叩いた。
カシャン。
ドアにある、スライド式の小さな窓が、開いた。
暗い目で、誰かが、覗き込んだ。
「あ、あの……ぼ、僕……」
卓也は、しおらしく、子供の自分を、演じた。
大抵の大人は、この演技に騙され、“子供に寛大な自分”の役で、応えてくれるのだ。
カシャン。窓が閉じ。ガチャ。鍵を開ける音。
卓也は、ホッとした。
話をすれば、大抵の大人は、騙せる自信が、卓也にはあった。
キィ……。
不快な金属音を立て、ドアが開くと、現れたのは、体重100キロはある、筋肉質の男だった。
警備員のような服を着て、腰には警棒と、小さな機械をつけている。
「あの……僕、どうし……」
グシャッ!
”どうして、ここにいるんですか? ”
そう、言おうとした卓也の口に、とんでもない衝撃が加えられ、後方に吹っ飛んだ。
ズドッ!
壁にぶち当たり、地面に倒れた卓也の腹に、男の革靴がめり込んだ。
「ぐえぇっ!」
うめき声を上げると、また、腹を蹴られた。
再度、うめき声をあげると、また、蹴られた。
瞬時に、ルールを理解した卓也は、両手で、口を押さえ、声を封じた。
大男は、感情のない目で、それを見下ろすと、キィ、バタンッ、ガチャッ! 部屋から出て行った。
卓也は、それから、ずいぶん長い時間、声を上げずに、のたうち回った。
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【1回目】
長い時間が経過した頃、カチャン……ドアの下部についた、犬の出入り口のような扉が開き、トレーが現れた。
その上には、金属製のコップに入った一杯の水と、パンがひとつ、乗っている。
「まさか……これが飯かよ!」
卓也が叫ぶと、ガチャン、キィ……、大男が現れ、しこたま殴られた。
声を殺してのたうち回る卓也を見ようともせず、大男は、トレイを持って、部屋から出て行った。
卓也は、またひとつ、ルールを学んだわけだ。
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【2回目】
カチャン……。ザッ。2回目の食事だ。
5時間? いや、10時間だろうか?
最初の食事から、どれほどの時間が、経過しているのか、見当も付かなかった。
卓也は、トレーに載った、味も素っ気も無いパンを、夢中でほおばった。
堅くて、塩気のない、とんでもなく、マズいパンだった。
トレーが入れられて、30分ほど経つと、カチャン、ドアの下が開いた。
「……食器をよこせ」
無機質な声だった。
卓也は慌てて、空になったコップを載せたトレーを、窓に押しやった。
カチャン。
ドア下が閉じた。
卓也はドキドキしたが、鍵が開く音は、続かなかった。
卓也は、またひとつ、ルールを学んだ。
【3回目】
【4回目】
【5回目】
【6回目】……
気が狂いそうだった。
今、何日経過したのか、今が、昼なのか、夜なのか、すらわからなかった。
カチャン……。7回目の食事が差し出されたとき、卓也は叫んだ。
「教えて下さい! 今日は、何日なんですか!?」
ガチャン、キィ……。最初とは違う大男が現れ、卓也の顔面を殴った。
「ぐっ……せ、せめて……ぐっ……時間を……ぐっ……教えて下さい!」
卓也は、今まで以上に殴られながら、蹴られながら、必死に訴えた。
すると、男が手を止めた。
「……わかった。これから定期的に、時間を教えよう。今は、朝の7時だ」
そう言って、男は出て行った。
「ありがとう……ございます……」
それだけ言うと、卓也は、意識を失った。
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卓也は、ずいぶんと【ルール】を学んだ。
ルール1:食事は、一日二回。
ルール2:シャツとパンツは、三日に一度交換
ルール3:6時間おきに、ある方法で、時間を知らせる。
ルール4:見張り役は、三人で、いずれも屈強な大男。
ルール5:大男Aは、最初に卓也を殴った男。たまに、腰につけたスタンガンを使う。。
ルール6:大男Bは、最初に時間を教えてくれた男。こいつは、ブラックジャックという道具で、卓也を殴る。
ルール7:大男Cは……卓也にとって、もっとも恐ろしく、もっとも重要な男だった。
卓也は待った。
そろそろのはずだ。
ガチャン、キィ……。
大男Cが、入ってきた。
「……お願い……します」
卓也は、下を向いたまま、口を開いた。
カチャカチャ、ジー……パサッ。
男が、ベルトを外して、ズボンを下ろす音。
卓也は、頭を空にして、男の要求に、応えた。
行為が終わると、男は出て行った。
男の入室で、今が正午だとわかった。
大男Bが、卓也に約束したとおり、ある方法で、時間を教えてくれるようになった。
その方法は、卓也の想像を、超えていた。
一日四回、六時間おきに、男が入ってきて、卓也を殴るようになったのだ。
あるとき、男Cは、殴る代わりに、行為を要求した。
卓也が、それに応えると、男は殴らなかった。
しかも、その後の食事に、一切れのバターが、添えられていた。
卓也の学んだ【裏ルール】である。
それから卓也は、大男Cの回を、最も心待ちに、そして、最も恐れるようになった……。
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ある日の、大男Aによる、正午の拷問が、終わった数時間後。
「卓也くんは、どこにいるの!?」
女の声で、卓也は、飛び起きた!




