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ハナコさん、暴れすぎッ!  作者: 鷲空 燈
第3章 『狂乱の宴』【????】
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第25話 【正しい道】


「そんなに怯えないで下さい。傷ついちゃいます……」


 ベンチに腰掛けた美少女が、がっくりとうなだれた。


「ご、ごめんなさい! そんな……つもりじゃ……」


 光恵は、濡らした手拭いで、少女の身体を拭いていた。

 その手は、ブルブルと震えていた。


「わたしは一応、あなたを,助けに来たんですよ?」


 少女は、目を閉じていた。

 少しでも、光恵に威圧感、恐怖を与えないための配慮だろうか。


「ねぇ……あの子達……死んだんだよね……」


「はい、最後の外道以外は死にました」


「……ころした……んだよね?」


「はい、わたしが殺しました」


「なにも、殺さなくても……」


 光恵の言葉で、少女が目を開けた。


「あの者達が、自ら選んだ運命です」


 光恵の目を見つめ、ハッキリとそう言った。

 その目に、後悔や、罪悪感など、微塵も見当たらなかった。


「でも……まだ、子供だったのよ?」


 光恵は、少女の背中の血を、丁寧に拭っていった。

 一拭きするたびに、傷ひとつ無い、綺麗な肌が露わになっていく。

 まるで、聖なる役割を与えられたように、光恵は夢中で、少女を清めていった。


「あの者たちは、自ら作り上げた、自分勝手な掟に従い、罪もない人達を殺めました」


「それでも……」


「最初の罪を犯した瞬間、あの者達は、子供であることを放棄したんです」


「子供であることを、放棄……?」


「はい、人は、自らの責任で他人の運命を大きく変えた瞬間、子供ではいられなくなるのです。あなたは、あの者達が子供に見えましたか?」


 光恵は、少年達の顔を――表情や言動を思い出してみた。

 まるで、醜悪な老人のような笑顔、欲望まみれの中年のような嗤い声……。

 確かに、あの子達が子供とは、とうてい思えなかった。


「あの子達は……死ぬしかなかったの?」


「質問返しで申し訳ないのですが……生き残ったクズが発した質問を、覚えていますか?」


「”僕が生き残るには、どうしたらいい”……だったかしら?」


「そうです。だからわたしは、仕事をすればいい、と答えました。さて、光恵さん」


「え? どうして名前を……って、今更か……。なに? えっと……そう言えば、お嬢さんの名前を、訊いてなかったわね」


「そうでした。すっかり、失念していました。申し訳ありません。わたしの名前は、”あまつかまりあ”です。マリアちゃんとでも、お呼び下さい」


「マリアちゃん……そう……。いい名前ね」


「ありがとうございます。話がそれちゃいましたね。さきほどの質問の続きです。光恵さんは、永渕早苗さんと二人で、あの状況になった場合、どうしますか?」


「サッちゃんの名前まで……はぁ、もう、驚くのも疲れちゃったわ。あの状況って、仕事をしなきゃ、殺される状況……だよね?」


「はい。すぐに仕事をしないと、わたしがぶっ殺す状況です」


「ぶ、ぶっ殺すんだ……。でも、わたしも、あの状況になったら……」


 サッちゃんを殺したかも……と、光恵は言おうとした。

 でも、その言葉が、どうしても出せなかった。


「やりませんよ?」


「え?」


「どんな状況であれ、あなたが、永渕早苗さんを殺すなんて、あり得ません」


「……」


「あなたは、演技をするでしょうね」


「えん……ぎ?」


「はい、演技です。悪ぶって、早苗さんに悪態をついて、早苗さんを、喜んで殺そうとする、という演技です」


「……そんな……わたしには、わからないわ」


 そう言いながらも、光恵は確信していた。

 サッちゃんが,生き残るためならば、光恵は、マリアの言ったとおりの行動をとるだろう。


「そして、早苗さんが、あなたを殺すように,仕向けるでしょうね。そのための、演技です。まぁ、わたしには、バレバレですけどね」


「そうね……サッちゃんのためなら……そう、仕向けるでしょうね……」


「それです」


「それ?」


「はい、それが正解です。あの場で二人が生き残る、唯一の道です。つまり、あのとき、少年が、少女に殺されることを選べばよかったのです」


「そうすれば……助かったの?」


「はい、骨の二、三本で、許したでしょう。しかし……」


「ほ、骨は折るのね……。でも、あの子は……”()()生き残るには”、と質問した……つまり、女の子のことは最初から……」


「そうです。その質問をした瞬間、二人の生存の道は、限りなく細くなりました。まぁ、その質問すらも、自らを悪役にするための演技だった、と言うのなら、わたしも脱帽ですけどね」


「そう……あの子達が助かる道はあったのね……」


 つまり、あの少年と少女が生き残るには、死を覚悟する必要があったのだ。

 光恵には簡単にできることだが、あの子達には……。


(無理……でしょうね……)

 

 愛する人がいるのなら、誰でもできること。

 しかし、あの子達は愛を知らないのだ。

 人を愛する気持ちを知っていれば、そもそも、ホームレス狩りなどできなかったはずだ。


「そんなことより、もっと訊きたいことがあるんじゃないですか?」


 少年達への哀れみをたしなめるように、少女が言った。

 もっと、訊きたいこと――。

 光恵には、たしかに訊きたいこと――訊かなければならないことがあった。


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