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ハナコさん、暴れすぎッ!  作者: 鷲空 燈
第3章 『狂乱の宴』【????】
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第23話 【生存ルート】 *残酷描写アリ


「「…………」」


 少年達は、口を開かなかった。

 無理もない。

 声を出せば、それが最後の言葉になるかもしれないのだから。


「はぁ、どうしたものやら……」


 黒髪少女が、倒れた少年の頭から、剣を引き抜いた。

 ブシャーッ!

 血が噴水のように噴き出し、少女の無垢な身体を、半身だけ血に染めた。


「ふふふ、やっぱり黒はいいですね」

 唇に付着した血を、ヌメリとナメた。

「返り血が目立ちません」


 光恵の足は、ガタガタと激しく震え、立っていられなくなった。

 ぺたんと、地べたにお尻を落とすも、預かった衣服だけは決して離さなかった。

 剣を持ち、血にまみれた半裸の少女は、とても……震えが止まらないほど、恐ろしかった。

 そして、恐ろしいほどに……震えるほどに美しかった。

 


「……質問だ」


 少年が沈黙を破った。

 

(え……?)

 

 まさか……この状況で、質問をするなど……。

 賢い少年に、あるまじき行動だった。

 

 しかし、少年は、光恵の想像以上に賢かったのだ。

 そして、想像以上に――。

 

「どうぞ」


 黒髪少女は、血まみれで、ニコリと微笑んだ。


「どうやったら、()は助かる?」


 ――そして、想像以上に……残忍だった。



 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



(くそっ、くそっ!)


 角山卓也は考えた。


(なんだ……なんなんだ、この状況は!)


 周囲には、手下達の死体が転がっている。

 そして、目の前には、剣を持ち血まみれで立つ、半裸の美少女。 


(どうして、こうなった!?)


 ただのイベントのはずだった。

 手下共に、自分のリーダーシップを見せつけるためのイベントに過ぎなかったはずだ。


(なのに……なんだ、この状況は……)


 死んだ仲間に対しては、なんの感情もわかなかった。

 いや、卓也とって少年達は、最初から仲間じゃなかった。

 ”便利に使える道具”――ただ、それだけだった。

  その道具も、いまやひとつだけ。

 この道具を、有効活用するには……。

 


「どうやったら、僕は助かる?」


 こう質問しながら、実は、卓也には答えがわかっていた。

 この質問は、”殺人鬼”の言質を取るためである。


「あら? あなた、賢いですね。その質問は、よい質問です。あなたが生き残る、唯一の正解を引き当てたと、言ってもいいでしょう」


 思った通りだ。

 やはり、自分は選ばれた人間だ。

 今の状況も、自分の優秀さを発揮するためのイベントに過ぎないのだ。


「や、やった! さすが、タクヤ!」


 茶髪の少女が立ち上がり、安堵の声を上げた。

 スカートの裾からは、ポタポタと雫が落ちている。

 卓也は、それを、汚らしいモノを見るように見つめた。


(バカな奴だ……)


 しかし、卓也からすれば、この愚かな少女が、()()()()()に気付かないのは、好都合だった。


「……質問の答えは?」


「はい、お答えします。わたしは今、ゴミ掃除をしています。では、ゴミとは? あなた方が、定義してくれましたね。働いてないもの、仕事をしていないもの、社会の役に立っていないもの――つまり、あなた方のことです」


「ご、ゴミですって! わたし達は、エリートよ! ゴミは、そこにいるババァでしょ! ……ちょっ……なにすんのよ、タクヤ!」


「美鈴は黙っていろ! ……つまり、()()()ゴミじゃなくなれば、助かる……ってことだな」


 少年が、声を荒げる少女を制した。


(余計なことを言うんじゃない! この()()が!)


 今渡っている、細い()()綱を切り落とすつもりか、と卓也は憤慨した。


「はい、助かるには、()()()に”、仕事”をすればいいんです」


「今できる()()は……」


()()()()です」


「なるほど……」


「な、なに? 意味わかんないし!」


「美鈴」


「な、なに? タクヤ?」


 少女は、怯えつつも、媚びた表情をした。

 自分の運命を、おぼろげながらも、予見したのだろう。


 知性も、家柄も足りない、この少女は、少年達のグループに、ふさわしくない人物だった。

 ”性処理の道具”――少年が求めた少女の役割は、それだけだ。

 その少女に、新たな役割ができた。

 少女が、なにより役に立つ瞬間が、今まさにやってきたのだ。

 

 しかし、自分にできるだろうか? ――卓也は考えた。

 なんども抱いてきた、自分に好意を持った相手を……。

 ……いや、……これは試練だ。

 天が、卓也に課した、試練なのだ。

 エリートの人生にとって、”(じよう)”なんてものは、なんの役にも立たない。

 これは、そんな弱い心を捨て去ための試練に違いない!

 


「美鈴……ごめんな……」


 その言葉は、卓也が示した、最後の”(じよう)”だった。


 ゴキィッ!


 美鈴と呼ばれた少女は、キョトンとした。


「え……?」


 不思議そうな顔で、卓也の顔を見ている。

 

 カンッカンッカン……。


 鉄パイプが地面に落ちると、甲高い金属音が鳴り響いた。

 茶髪の少女は両手をだらりと下げ、呆然と立ち尽くし……。


「なん……で……」


 と、一言発した。

 その言葉を合図に、タラタラと流れ落ちた液体が、少女の顔面を真っ赤に染めた。

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