第23話 【生存ルート】 *残酷描写アリ
「「…………」」
少年達は、口を開かなかった。
無理もない。
声を出せば、それが最後の言葉になるかもしれないのだから。
「はぁ、どうしたものやら……」
黒髪少女が、倒れた少年の頭から、剣を引き抜いた。
ブシャーッ!
血が噴水のように噴き出し、少女の無垢な身体を、半身だけ血に染めた。
「ふふふ、やっぱり黒はいいですね」
唇に付着した血を、ヌメリとナメた。
「返り血が目立ちません」
光恵の足は、ガタガタと激しく震え、立っていられなくなった。
ぺたんと、地べたにお尻を落とすも、預かった衣服だけは決して離さなかった。
剣を持ち、血にまみれた半裸の少女は、とても……震えが止まらないほど、恐ろしかった。
そして、恐ろしいほどに……震えるほどに美しかった。
「……質問だ」
少年が沈黙を破った。
(え……?)
まさか……この状況で、質問をするなど……。
賢い少年に、あるまじき行動だった。
しかし、少年は、光恵の想像以上に賢かったのだ。
そして、想像以上に――。
「どうぞ」
黒髪少女は、血まみれで、ニコリと微笑んだ。
「どうやったら、僕は助かる?」
――そして、想像以上に……残忍だった。
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(くそっ、くそっ!)
角山卓也は考えた。
(なんだ……なんなんだ、この状況は!)
周囲には、手下達の死体が転がっている。
そして、目の前には、剣を持ち血まみれで立つ、半裸の美少女。
(どうして、こうなった!?)
ただのイベントのはずだった。
手下共に、自分のリーダーシップを見せつけるためのイベントに過ぎなかったはずだ。
(なのに……なんだ、この状況は……)
死んだ仲間に対しては、なんの感情もわかなかった。
いや、卓也とって少年達は、最初から仲間じゃなかった。
”便利に使える道具”――ただ、それだけだった。
その道具も、いまやひとつだけ。
この道具を、有効活用するには……。
「どうやったら、僕は助かる?」
こう質問しながら、実は、卓也には答えがわかっていた。
この質問は、”殺人鬼”の言質を取るためである。
「あら? あなた、賢いですね。その質問は、よい質問です。あなたが生き残る、唯一の正解を引き当てたと、言ってもいいでしょう」
思った通りだ。
やはり、自分は選ばれた人間だ。
今の状況も、自分の優秀さを発揮するためのイベントに過ぎないのだ。
「や、やった! さすが、タクヤ!」
茶髪の少女が立ち上がり、安堵の声を上げた。
スカートの裾からは、ポタポタと雫が落ちている。
卓也は、それを、汚らしいモノを見るように見つめた。
(バカな奴だ……)
しかし、卓也からすれば、この愚かな少女が、自分の運命に気付かないのは、好都合だった。
「……質問の答えは?」
「はい、お答えします。わたしは今、ゴミ掃除をしています。では、ゴミとは? あなた方が、定義してくれましたね。働いてないもの、仕事をしていないもの、社会の役に立っていないもの――つまり、あなた方のことです」
「ご、ゴミですって! わたし達は、エリートよ! ゴミは、そこにいるババァでしょ! ……ちょっ……なにすんのよ、タクヤ!」
「美鈴は黙っていろ! ……つまり、僕が、ゴミじゃなくなれば、助かる……ってことだな」
少年が、声を荒げる少女を制した。
(余計なことを言うんじゃない! このゴミが!)
今渡っている、細い一本綱を切り落とすつもりか、と卓也は憤慨した。
「はい、助かるには、今すぐに”、仕事”をすればいいんです」
「今できる仕事は……」
「ゴミ掃除です」
「なるほど……」
「な、なに? 意味わかんないし!」
「美鈴」
「な、なに? タクヤ?」
少女は、怯えつつも、媚びた表情をした。
自分の運命を、おぼろげながらも、予見したのだろう。
知性も、家柄も足りない、この少女は、少年達のグループに、ふさわしくない人物だった。
”性処理の道具”――少年が求めた少女の役割は、それだけだ。
その少女に、新たな役割ができた。
少女が、なにより役に立つ瞬間が、今まさにやってきたのだ。
しかし、自分にできるだろうか? ――卓也は考えた。
なんども抱いてきた、自分に好意を持った相手を……。
……いや、……これは試練だ。
天が、卓也に課した、試練なのだ。
エリートの人生にとって、”情”なんてものは、なんの役にも立たない。
これは、そんな弱い心を捨て去ための試練に違いない!
「美鈴……ごめんな……」
その言葉は、卓也が示した、最後の”情”だった。
ゴキィッ!
美鈴と呼ばれた少女は、キョトンとした。
「え……?」
不思議そうな顔で、卓也の顔を見ている。
カンッカンッカン……。
鉄パイプが地面に落ちると、甲高い金属音が鳴り響いた。
茶髪の少女は両手をだらりと下げ、呆然と立ち尽くし……。
「なん……で……」
と、一言発した。
その言葉を合図に、タラタラと流れ落ちた液体が、少女の顔面を真っ赤に染めた。




