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ハナコさん、暴れすぎッ!  作者: 鷲空 燈
第3章 『狂乱の宴』【????】
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第19話 【動かない時計】

「どうして……」


 光恵は、目を見開いた。


「あら? カマ、掛けたんだけど、もしかしてビンゴ?」


(え……?)


「おいおい、お前天才かよ!」

「おばはんの連れ、衝撃の発覚、きたこれ!」

「モンスター二匹目ゲット確定!」

「今日は大当たりだな!」


 少年達が、まるで、()()()()()()()はしゃいでいる。

 光恵のミスだった。

 光恵のミスで、サッちゃんの命が、今、脅かされている。


「わたしは、どうなってもかまいません! どうか……どうか、サッちゃんは助けてください!」


 光恵は土下座をした。

 子供に頭を下げてなさけないとか、恥ずかしいとか、少しも思わなかった。

 ただ、自分のミスを挽回するのに、必死だった。

 優しい友人の、命を、笑顔を守ることに、すべてを捧げた。


「えー? どうしようかな?」


「サッちゃんは、病気なんです! どうか……どうか、勘弁してあげてください! なんでもします! どんなことでもしますから!」


 光恵は、地面のブロックに額をこすりつけた。


「はぁ、そこまでお願いされたら、仕方ないな……」


 少年の一人が、そう言った。


「おい、タクちゃん! 勝手に決めんなよ!」

「あん? てめぇ、俺に文句あんのかよ?」

「い、いや、別に文句じゃ……」


 このやりとりで光恵は、木刀を持った、“タク” という少年がリーダーだとわかった。


「ありがとうございます……。ありがとうございます!」


 光恵は、その少年に、なんども頭を下げた。


「じゃあ、脱ごうか?」


「え?」


「なんでもするんだろ? その友達の為に、文字通り一肌脱げって言ったんだよ、おばさん」


 少年は、木刀を光恵に差し向けて、ニヤニヤと笑っている。

 その残忍な目の光で、少年の言葉が、冗談ではないとわかった。

 そして、光恵の裸見たいから言ったわけはない、とも理解できた。


「わかり……ました」


 光恵は立ち上がり、震える手で、ベストのボタンに手を掛けた。


「おぉ! ストリップの始まりだ!」

「ババァのストリップなんて、見る方が罰ゲームだろ!」


 少年達が、光恵を見て大騒ぎしている。

 光恵は、ボタンを外しながら――恐怖に震えながらも、考えていた。

 どうして人は、こんなに残酷になれるのだろうか?

 光恵には、目の前で無邪気にはしゃぐ少年達の気持ちが、わからなかった。

 まるで、人間の姿をした別の生物のように、気持ち悪かった。


「どうした! 早く脱げぇ!」


 光恵は、ベストを脱いだ。

 サッちゃんが、光恵の誕生日にプレゼントしてくれた、大事なベストだ。

 このあと、少年達の凶悪な道具で殴られた時……。

 そこで出る、光恵の血で、汚れないなら……これで、よかったのかもしれない。

 地面の少し離れた場所に、ベストをそっと置いた。


「どうした! 手が止まってるぞ!」


 光恵はその時、左手にはめた時計を見た。

 壊れて、動かない時計。

 もう一人のサッちゃんが、初めてのお給料でプレゼントしてくれた時計だ。

 今はもう動かないけど、一緒に時を刻んできた、大事な、大事な宝物。


 その時計を見て光恵は、固まってしまった。

 

(もし、サッちゃん――幸子ちゃんが、いまのわたしを見たら……)


 光恵の脳裏に、栗毛の美少女の、泣きわめく姿が思い浮かんだ。

 あの子なら、泣きながら、そして、震えながら、6人相手にも立ち向かうだろう。

 やさしいあの子が、光恵を侮辱されて黙っているはずがなかった。


(でも、あの子は、極度の男性恐怖症だったわね……)


 もし、あの子がここにいたら……。


(あの子を――幸子ちゃんを……泣かせたくないな……)

 

 そう思うと、なぜか……どうしてか急に、自分の置かれた立場が、情けなくなって、辛くてなって、そして……。


「どうしたんだよ、ババァ!」


 そして……悔しくなった。

 あの子が――あの、天使のような子が、懐いてくれた、光恵というひとりの人間。

 その人間が、こんなにもバカにされ、辱めを受けているのだ。

 すると脳裏に、樹神幸子(こだまさちこ)との想い出が、次々よみがえった。

 

「いっちょ前に、恥ずかしがってんじゃねぇぞ!」


 ――『光恵さんの料理……すごく……おいしい……です……グスッ、ヒック』


(くやしい……)


「じらしてんのか、ババァ!」


 ――『光恵さん。あたし……なんて、お礼を言ったらいいか……』


(くやしい……くやしいよぅ……だれか……)


「さっさと。きたねぇ服を脱げよ、クソババァ!」


 ――『光恵さん! これ、初めてのお給料で買ったんです! よかったら……』


(だれか……だれか……だれか……だれか……)

 

「早く、汚い裸みせてよ、おばさーん!」


 ――『えへへ。光恵さん、大好き!』


「誰か……誰か、助けてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 光恵は生まれて初めて、心から助けを求めた。


「うぉっ! ば、ババァ! いきなり大声出すんじゃねぇよ!」

「キャハハ。助けなんか来るわけないってーの!」

「だいたい……」


【承りました】


(え?)


 澄み切った声だった。

 透き通るような女性の声が、まるで耳元で囁いたように、ハッキリと聞こえた。

 光恵が、今の状況も忘れ慌てて周りを見渡すも、声の主は見当たらない。


(でも、今……たしかに声が……)


 静かな、それでいて、とてつもなく威厳のある声が聞こえたのだ。


「な、なんだ?」「おい、今の声……」「お前も聞こえたのか?」


 少年達に、動揺が走っている。


(え? 聞こえたのは、わたしだけじゃ……ないの?)


「び、びびってんじゃねぇよ! カラオケの音なんかが、風に乗って聞こえたんだろ!」

「そ、そうだよな」

「あ、あんたたち、ビビってんじゃないわよ! あ、あはは」

「ど、どうした、ババァ! ストリップは、まだ終わってねぇぞ!」


『いいえ、もう終わりです』


「「「「「「え?」」」」」」


 少年達の声が重なった。

 また、声が聞こえたのだ。

 最初の声と、違う声だった。

 今度の声は、幼くも、凜とした声だった。


「だ、誰だ!?」「お、おい! 出てこい!」


 少年達が、声を上げ、キョロキョロと声の主を探す。

 だが、光恵には……。

 


「うおぉ!」「え?」「ど、どこから?」


 少年達が、驚きの声を上げた。

 声の主が、すぐ後ろに立っていたからだ。

 

 だが、光恵には見えていた。

 少年達のすぐ後ろに現れた――突然、フッと現れた、少女の姿が……。


「もう、終わりです」


 少女は、ハッキリともう一度、そう言った。


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