表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺がモテない10の理由  作者: 村田天
【柳田編】
9/14

1.ロッカーと無駄な恋愛



 最近親しくなった周防健介の評価。

 モサい。馬鹿でせっかち。短気でガキくさい。他人の情報は割と観察して得ているのに自分のことにはどこまでも鈍感。恋愛下手。とにかくモテない。


 ただまぁいいところもある。

 あいつの人懐っこさは結構な武器だし、他人の意見を難なく聞き入れる素直な一面もそれをすぐ実行してみせる行動力も持っている。


 正直言って嫌いではない。

 俺がずっと当たり前に持っていたものを、全く持ち合わせていない、ということに対しては、ほんの少し、羨ましくもある。


 最近その周防健介は小野田綾と、超低速でママゴトのような恋愛を繰り広げている。


 一緒に出かけたとか言うからキスぐらいしたのと聞くと、まだ付き合ってすらないと言うので呆れるを通り越して微笑ましくなった。

 デートの段取りが悪くてだいぶ時間が余ったり、余計に歩かせてしまったなんて落ち込んで言うから後で小野田に会った時に聞いたら満面の笑顔でとても楽しかったとのろけられてしまった。





 俺は昔から姉二人にこきつかわれていたせいか、女に対する緊張の類は一度も感じたことが無かった。女の扱いは恋愛体質の姉達を見ていて日々の生活で学んだ。


 前に周防に言ったけれど、モテる為の工夫。それは本当は工夫というほどのものですらない。

 たとえば歩く時車道側に立つだとか、カフェやファミレスでソファの側の席に座らせるとか。荷物があったら持ってあげる。遅くなったら送ってあげる。

 愚痴を言われたら同意して慰める。間違っても求められてもいない解決策を提示したりはしない。髪型が変わったら気付いてあげて誉めるだとか。「可愛い」は嘘でいいから何度も言う。

 服装は特別お洒落でなくてもいいけど野暮ったいのは駄目。清潔感だけは必須。


 ひとつひとつはその程度のことだけれども、自分の年齢でそれが全部すんなり出来る男はあまりいない。それだけのことだ。

 年齢がいけばそれが出来る男は格段に増える。そうしたら自分のような平凡な男は需要がぐっと減るだろう。


 身の回りに恋愛をしたい女の子はたくさんいて、そんな子達と普通に仲良くなって、長じてそのまま付き合うようになった。だからそれは自分にとってそんな大げさなことではない。


 周防と小野田をくっつけたのは100パーセント善意ではない。正直あわよくば、という気持ちがあった。


 昔から俺は、俺を好きになるような子は、そんなに好きじゃなかった。

 ただ、そういうものだと思って付き合って、それなりに上手くやって来ただけだ。


 小野田綾の顔を浮かべる。

 多分あの子はファミレスの席だとか、髪型が変わったことに気付かないだとか、そんな小さなことは気にしない。荷物を持つと言えば遠慮がちに「いいよ」と断るんじゃないだろうか。

 べつにそれをするのが嫌だとかじゃないけれど。ただ、そういう期待の外にいる子だと感じられる。恋愛の為の恋愛ではなく、もっと自然に相手を好きになるタイプ。

 最初に見て感じた印象は、話してみて確信を深めた。


 けれどまぁ、彼女には最初から想い人がいた。俺はそういうことには結構目ざとい。嫌でもすぐに気付いてしまう。


 無駄なことはあまりしない。

 深みにはまる前にさっさと諦める。


 だから俺はモテるのかもしれない。


 ひとつの無駄な恋愛に長くかかずりあったりしなければ時間も食わないし、誰でもよければ結構な確率で誰かとは付き合えるから。

 最初の頃はそれこそゲームのミッションのようにひとつひとつを上手くこなすことに楽しさを覚えたし、自分のような平凡な男がそこそこいい女を落として付き合えていることに自尊心も満たされた。


 けれどなんだか最近馬鹿馬鹿しくなってきた。


 俺、なんで女と付き合ってんだろ。







 教室前の個人ロッカーで荷物整理をしていると教室から女子数人が話している声が聞こえてきた。


「柳田とか、結構よくない?」


 誰かがそんなことを言う声に気を良くしていると剣のある声がそれに割り込む。


「えぇ〜あたしアイツやだ。腹黒そう」


 そんな言葉が耳に入る。


 聞こえなかったことにして立ち去るほど性格がよくないので勢いよく扉をあけて中に入った。


 中に残っていた女子数人が一斉にこちらを向いた。

 そのままでは誰が言ったかわからなかったのに、犯人は俺の顔を見て「やべ」と口に出した。


 犯人は篠原海香しのはらうみか


 同じクラスでもさして仲良くもない、ろくに話したこともない女。


 篠原はそのまま俺の顔を見てへらりと笑ってみせた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ