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俺がモテない10の理由  作者: 村田天
【周防編】
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7.たくさんの謝罪と巨乳



 小野田は後ろの端っこの席で下を向いて座っていたけれど、俺の叫び声に気付くとびっくりした顔をして、その後口元を押さえて真っ赤になった。


 その前まで行ってとりあえず「ごめん!」と謝る。


「はなし……したい」


 ゼェゼェ言いながらそれだけもらすと彼女は頷いて立ち上がった。「大丈夫?」と心配そうに手を伸ばして、遠慮がちに引っ込めた。相変わらず顔は赤かったけれど、もう悲しそうな顔はしていなかったので安心する。


 手を掴んで教室の外に連れ出した。場所を探して彷徨っているうちにチャイムが鳴った。


「ご、ごめん。授業終わってからにする?」


「ううん。いいよ」


 小野田は意外にもあまり気にした様子は無かった。


 結局校舎裏の花壇にあたりをつけた。

 腰掛ける段になって、いまだに手を固く掴んでいたことに気付いて、慌てて離した。


「ごめん! ごめんね!」


 もう何について謝っているのかよく分からない。しかして頭の中は何もかも、謝罪の気持ちでいっぱいだった。


 小野田は黙って下を向いたまま、首を横に振った。


 自分から話しがあると言って呼び出したのに、なかなか言葉は出てこなくて、結局最初に話の口火を切ったのは小野田の方だった。


「話すの、久しぶりだね」


「そ……」


 そうだ。さっきだって久しぶりに話そうとしていたのに、俺は……!


「さっき! あの、ごめん!」


 小野田は気にしてないというには、大きく反応をしてしまった手前、また黙って下を向いた。


 何話せばいいんだろう。

 女子とふたりきりで話なんてしたことがないから分からない。柳田はほとんど親しくもないのにいったい何を話していたんだ……。


 そうだ。柳田だ。


「あいつ……柳田と最近何話してたの?」


「え?」


 聞かれた彼女が照れたような顔で赤くなったので、また苦い気持ちに襲われる。もうこれは誤魔化しようがない。このドス黒い感情は嫉妬心だ。


「柳田くんには、最初、“周防の友達だよね”って声かけられて……」


 小野田は遠くを見ながらぽつぽつとこぼす。


「わたし、それが……嬉しかったんだぁ……」


 一体何が嬉しいんだ? 最初何を言ってるのかちょっと分からなかったけれどゆっくり咀嚼してみる。


 嬉しかった? 俺と友達だと言われたことが?


「そんなことが?」


 小野田がこくりと頷く。


 ヤバい。可愛い。


「あのさ……」と言いかけた言葉に被せるようにして小野田がまた口を開ける。


「柳田くんとは、周防くんの話、してたよ」


「え……」


「周防くんが、自分の教えた美容院に行ったとか、そんな話」


「う、うん」


「最近元気ないから話しかけてみたらとかってのも……言われて」


「そうなんだ……」


 一瞬、柳田が悪意の無い奴に思えた。柳田、いい奴かもしれない。


「あと、周防くんが、彼女欲しいって言ってる話とかも、聞いた」


「……」


「でも、巨乳がいいって言ってるとか」


 撤回。超撤回。事実とはいえろくでもないこと吹き込みやがって。さりげなく邪魔しようとしてる。俺のくせに巨乳希望とか小野田に知られるなんて、恥ずかしすぎる。


「そしたら、わたしは、無理だなぁって……」


「え……」


 思わず小野田の胸のあたりに視線を下げる。

 彼女はそれに気付いて胸元をぎゅっと握った拳で隠した。


「ご、」


 いや、ごめんと謝るのも何か……。いや無遠慮に見てしまったのはごめんだけど……思考の迷路にはまっているうちに、唐突に大変なことに気付く。


「え、彼女……って小野田が?」


 俺の? なにそれ。


 その言葉に返事は無かった。

 頭が真っ白になってゆく。


 本当に。

 本当に俺はモテない。


 こんな時に、なにを言っていいのか、全く浮かばないのだ。


 ただ、心臓がドキドキして、変な汗が出てくる。


「……あやちゃん」


「え?」


「あやちゃんオレ……」


「うん」


 何を言えばいいのだろうか。

 何となく浮かぶ言葉たちは、いずれも最近生まれたばかりの感情にまつわるもので、どれもまだ伝えるには早すぎる気がした。だけど、気持ちのきれっぱしでもいいから、何か伝えたい。


「周防くん?」


 結局俺は、小野田が顔を覗き込むそれに「その呼び方、戻せる?」と聞くのがせいいっぱいだった。


「呼び方?」


「その、名字にくん付けのやつ」


「……」


「ま、前のがいいなー、なんて……」


 小野田がちょっと赤くなった。


 それから彼女がためらいがちに「健介くん」と呼んだそれは、ずっと呼ばれていたもののはずなのに、何故だか抜群の破壊力をもって、俺の心臓を撃ち抜いた。





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