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俺がモテない10の理由  作者: 村田天
【周防編】
5/14

5.引っ込み思案と志望校



 なんだかよく分からない理由で柳田と喧嘩してしまった。正確には喧嘩ではないのかもしれないけれど、ちょっと気まずくなった。


 彼が何故小野田のことでそこまで怒ったのか分からないけれど、昨日のあれは冗談で、俺に何か伝えたかったのかもしれない。だとしたらもう一度話して仲直りした方が良いかな、と考えていた。


 休み時間、廊下に出てそこから外を見ていると柳田が外にいるのが見えた。


 向かいに誰かいるな、と見てそれが小野田だと気付いてガタっと席を立った。


 勢い良く走って教室を出る。嫌な汗が出てきた。

 昨日のあれは本気ではないとばかり思っていたけれど、俺はあいつのことをそこまでよく知らない。


 遠目に見ても小野田はそこまで臆した様子もなく話をしている。昔から男子が苦手で、あんな風に普通に話せるやつじゃないのに。柳田は威圧感が無いし自然に相手のペースを掴んで懐に入り込むのが上手い。それがすごく悔しくて、忌まわしく感じられる。


「何やってんだよ!」


 走って小野田と柳田の間に割り込む。

 俺の勢いの良さに小野田はぽかんとした顔をした。


「べつに、話してただけだよ」


 柳田は平然と返す。表情はいつもと変わらないが本当にこいつは油断がならない。睨み付ける。


「ちょっと……柳田。来いよ」


 言ってその場を離れる。柳田は少ししてからついて来た。腹が立ってしょうがない。


 校舎の陰に入って問い詰める。


「お前なんなの? 小野田はそういう子じゃないんだよ。お前みたいのが適当に手を付けるような子じゃない」


 柳田は俺の剣幕にも全く動じない。


「人聞き悪いなぁ。知ってるでしょ。俺は毎回ちゃんと付き合ってるし、一度だって弄んだりしてない」


 傍目にはその通りなのだけれど、その言葉を額面通りに受け取れないのは俺がここ最近彼の内面を知ってまったく信用していないからだろう。


「お前彼女いるだろ……」


「うん。でも俺あの子好きになりそうだな。だいたいお前はなんとも思っていないんだから止める理由は無いよな」


「……そうだけど」


 平然と言ってのける柳田は楽しげに笑って軽く下唇を舐めた。苦い感情が浮かぶ。


「なぁ……俺もう彼女とかいいから、やめてくれよ。小野田とは昔からの友達で、傷付けたくないんだよ……頼むから」


「だから、お前にそれを言う権利はあるの?」


 俺はその時、初めてこいつと友達になったことを後悔したし、怖いと感じた。


 柳田はしばらく俺の目を観察するようにじっと見ていたけれど、ふっと溜め息を吐いた。


「俺が手出さなくてもそのうちあの子は他の男と付き合うよ」


「小野田は、そういうタイプじゃないんだって!」


 柳田が何故だかだいぶ呆れた目で俺を見た。


「なぁ、なんでお前あの子は恋愛しないと思ってんの?」


「……え」


 言われた言葉にちょっと唖然とした。


「あの子、派手なタイプじゃないけど普通に可愛いし、その気になれば彼氏くらい簡単に出来るよ」


「……そんな」


 小野田に彼氏、なんて考えたこともなかった。想像もできない。


 ちょっと呆然としてしまって惚けていたらチャイムの音が鳴った。

 目の前にいたはずの柳田はいつの間にか戻っていなかった。その場にひとり立ち尽くす。


 小野田のことをぼんやり考える。

 昔から引っ込み思案で、けれど話しかけると控えめに笑ってくれる。いつもきまった女子の友人と一緒にいて、男子と話したりなんてほとんどしない。

 小野田は俺にとって、間違ってもオナニーのネタにしてはいけないタイプだった。だからというわけじゃないけれど、恋愛対象にしたこともなかった。


 何度かクラスが一緒になったけれど、ずっと付かず離れずで目が合えば挨拶をする程度。だけど、他の人間が呼び名を名字に戻していく中、ずっと名前で呼んでくれていた。それが軽い好意というか、友情を感じさせて嬉しかった。


 そういえば中三の時に一度だけ、廊下で向こうから話しかけられたことがある。


 内容は志望校どこにする? とかって世間話だったけれど、同じだと分かって少し嬉しかった。一緒に頑張ろうとか言って、向こうも嬉しそうにしていた。


 でも、それだけだった。

 考えたこともなかった。


 昨日までは。






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