2.優しい世界と雰囲気イケメン
秋の放課後の橙に照らされた帰り道。俺はそのまま柳田と帰路を歩いていた。
「周防はどんな子が好みなの?」
「望みは清純派の巨乳! そのふたつだけ! ぜんぜん贅沢言わないよ!」
「あそう……顔は?」
「可愛いのがいい! 性格は優しいのがいい! 賢い方がいい!」
「それ全然ふたつですんでないし、そもそも最初のふたつだけでも充分贅沢」
柳田はしゃべりながらスマホを操作して女にメッセージを送っている。送信してポケットにそれを仕舞うとこちらを見てにこりともせずに言う。
「なるべく選ばなければ、もっと言えば自分より下のランクを狙えば早いよ」
「うわ〜……嫌なヤツだなお前……」
平然とランク付けした。しかも、自分はそれで言うなら明らかにランクの高い女子とばかり付き合っているくせに。精神が濁っている。何故こんな奴がモテるんだ。
「あとさ、単に童貞を捨てたいのか、ちゃんとした彼女が欲しいのか、数多くにモテたいのかどれかにした方がいいよ」
「それ一緒じゃないの?」
「一緒じゃない。全然ちがう」
柳田は言い切った。
「極端な話、女なんて好きにならない方がモテるから……」
冷めた口調でそう漏らす柳田を見ていたら、こいつは毎度好きな女と付き合っているのか疑問に思えてきた。
「で、どれ? ていうか周防いま好きな子いるの?」
「いや、いないけど、オレ、告られてみたいんだよね!」
また呆れた目で見られた。秋の風と同じくらい冷たい。
「オレはオレのことを好きな子なら好きになれる! そんな子と真面目に付き合って童貞喪失したい!」
「お前それ、簡単に言うけど難易度高いよ」
「なんだよ柳田はやってるじゃん!」
「俺はべつに……」
柳田はそこで口ごもる。べつにってなんだよ。まさか、好きになっていないとか、そんなんじゃなかろうな。
柳田、話してみると意外に闇が深い。
*
とりあえず、美容院に行け。
髪型変われば雰囲気イケメンくらいには誰でもなれる。
そう言われて俺は早速週末に美容院に行った。
なんかもう雑誌に載ってる写真で自分でも出来そうなやつをと美容師さんを拝んでほとんどお任せでやってもらったが、柳田の教えてくれたお店はなかなか腕も良くそう悪いことにはならなかった。良かった。へんな髪型にされてたら普通に泣いてたところだった。
髪型が変わると一気に雰囲気イケメン気分になる。
鏡の前で顔に焦点をあてずに髪型だけ見たらもう立派なイケメンと言えよう。
それから休み時間にひとつ下の学年のフロアに行って顔見知りの一年を捕まえて制服の参考にしろと言われた木崎を確認した。
「木崎ならあれっすよ」と言われてそちらを見る。
木崎はちょうど良く廊下に出ていて、携帯をいじっていた。なるほど、ボタンの開け方なのか、中に着ているものなのか、小物なのか、いったい何が原因なのかは全く分からないが、同じ制服なのにお洒落に感じる。
都会の高校生はお洒落だな、と思ってしまった。同じ高校に通っているというのに。
目を凝らしてそれを観察していたが埒があかない気がして、結局話しかけた。
「なぁ、それ、どこで買えるの?」
「はい?」
木崎がスマホから顔を上げてこちらを見た。
「その、制服の下に着てるやつとか! なんかさ! 色々! どこで買える?」
「あぁ」
木崎は人馴れした感じの奴で、話しかけると初対面の俺に愛想よく返事をした。それから自分のバイト先で買えるからと店の名前と場所を教えてくれたのでもう今度居る時間に行って見立ててもらうことにした。
どうせこいつと同じものを俺が着て似合うとも限らないし、だったら最初はセンスのいい奴に見てもらって、俺でも適当にそれっぽく見えるやつを選んでもらった方が早い。
頑張り始めた俺に世界はなかなか優しい。
こうやって俺のモテ男への道は一歩前進した。気がする。あとは彼女、ていうか最初から目的は彼女だけど。欲しい。