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俺がモテない10の理由  作者: 村田天
【周防編】
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1.秋の廃品回収車




 高校二年生の秋。

 友人がまたひとり童貞を捨てた。


 はらり、はらりと一枚ずつ葉が落ちていく秋の樹木のように、俺は冷風の中がっちりと貞操の樹にしがみ付く一枚のみどりの葉のようであった。





 その日の放課後俺はクラスメイトの柳田やなぎだの席を訪ねた。


「真のやりちんは柳田! お前だ! 教えて欲しい! その秘訣を!」


「……はぁ?」


 さほど仲良くもない俺に押しかけられヤリチン扱いされた柳田は怪訝な顔で周りを見回して盛大に眉をしかめた。


「なんでそうなったの? ほかにもっといるんじゃない?」


 確かに柳田はぱっと見だとヤリチンとは言い難い素朴な容姿をしている。しかし、はっきりと否定はしないあたり、心当たりはあるのだろう。


 俺は大きく頷いてみせた。


「たとえばうちの学年だと田澤たざわがヤリチンと言われているけど……あいつは見た目が派手なのと、一時期派手なヤリマンと遊んでいたからであって、俺の見立てだとあいつは実は大してやっていないと思うんだよ」


 俺の観察した限り、田澤はやたらと整った憶測を呼びそうな派手な容姿に一、二のショッキングな事例が重なっただけで、実際は食い散らかす程の覇気もないタイプに見えた。


「うん……まぁ、そうだろうね。あいつは元々そこまでモテたい欲求強いタイプじゃなさそうだしね」


 柳田もそこに異論は無いらしい。同意した。


「そこで柳田、お前だ」


 柳田は飛び抜けたイケメンではない。不細工ではないが、中肉中背。地味で、クラスや学年でも目立つということはまずない。

 しかし、柳田は俺の知る限り一年からずっと女が途切れたことはないのだ。しかも結構可愛い子ばかりを。毎回女の方から。そこに気付いた時には鳥肌が立った。

 知る限りで数えてみたが、絶対柳田の方が田澤より多い。しかも短くても全部ちゃんと付き合っているからか、目立たないせいなのか不純な評判にもならない。


「柳田、お前はモテる」


「……」


「俺はなんでお前がモテるのか、知りたい!」


「いや俺今日約束が……」


「聞くまで帰さないからな!」


 机の上に無造作に置かれた柳田のスマホが震えた。柳田は盛大に溜息を吐いてそれに出た。


「あ、うん。今日はちょっと無理そう。周防すおうに捕まって。ごめんね、今度埋め合わせする」


 やたらと優し気な声で言って通話を切る。それからもう一回溜息を吐いて俺の方を向いた。


「周防、まず、お前がモテない理由は10個くらいあるよ」


「10個もあんの?」


 気が遠くなる。しかして柳田は上から下までゆっくり俺を眺めて「ごめん、10じゃ足りないかも……」と言い放った。


「とりあえずひとつだけ、優しく教えて」


「とりあえず見た目。モサい。制服は同じであって同じじゃないんだよ。かっちり着すぎだ」


「も……もさ……」


 ストレートな物言いにショックを受けた。

 幾ら何でも言葉の選び方に遠慮が無さすぎる。


「もうちょっと……優しい言い方で……」


 俺の言葉に柳田が優しげな声音で「周防はモサいよ……」と言い直した。そういう意味じゃねえ。


「んなこと言ったって、加納かのうとかだって、まんま着てるのにモテるじゃんよ……!」


 加納は学年で有名なモテ男だ。真面目な優等生で制服をかっちり崩さず着ているが非常に人気がある。


 必死の反論に対して柳田は呆れた口調で返して来た。


「まず加納は背筋が真っ直ぐでしょ。手足もバランス良く長いし勉強も出来る。お前のようなチビの猫背のバカとはちがう。加えて頼り甲斐がありそうだ。お前があれを目指すのは無理だよ。諦めな」


 散々な言われようだが言葉もない。

 俺が制服をかっちり着るとモサい。加納がかっちり着ると格好いい。この残酷な事実はおそらく素材の問題だ。それに、崩した格好良さよりも真面目でなおかつ格好良い方が難易度は多分高そうだ。色々揃ってないと成し得ない。もとよりあの方面を目指していたわけじゃないが、確かにあれと一緒にしては乱暴だったかもしれない。


 思ったより落ち込んだ俺に柳田が声音を少し優しくして言う。


「一年に木崎きざきってのがいるだろ。制服の着崩しかたについてはあの辺を参考にしなよ」


「う、うん! わかった!」


 知らない名前だったけれどスマホにメモをとった。今度参考にしてみよう。


「柳田、お前はなんでモテるんだよ」


「俺がモテるのはね、」


 認めた! ついに臆面もなく認めたこいつ。


「モテるからだよ」


「は?」


「女ってのはこちらが思う以上に情報を持っている。誰が誰と付き合っていたとか、付き合っていた時どういう扱いをしたか、別れかただとか、ほぼダダ漏れだと思っていい」


「おお……コエー」


 女、怖い。よくそんな怖い生き物とやたら付き合ったり別れたりできるな。一瞬にして心に躊躇いのようなものが浮かんでしまった。でも、女可愛い。やはり彼女欲しい。


「周防は廃品回収車を見たことがある?」


「え、あぁ」


 廃品回収車、家の廃品を渡すと回収してくれるやつ。使ったことはないけれど、たまに低速で道端を走っているのを見る。荷台には誰かが預けたのか古いパソコンだとか、扇風機だとかが積まれているのを見る。


「あれは実は出発前に先にいくつか廃品を積んでいるんだ」


「え」


「そうすることで他の人も使っているんだな、という安心感が得られるだろ」


「そ、そうか」


 確かにガラガラの荷台の回収車より声はかけやすいような気はする。


「廃品回収車と同じで、モテるってのは、ちょっとした工夫なんだよ」


 柳田はにやりと笑ってみせた。



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