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第4話 ショップ・アンド・ショッパー

ショッピングするには何処がお勧めか老夫人に聞いた2人は、街で一番と噂されるデパート、オーブ・ポリンガーを紹介される。

彼女曰く、欲しい物は大概揃う、そうである。

場所は、フュラー通りにほど近い、アルトアイゼン通り。

かつてこの通りで伝説の女鍛治、ドワーフのファフニールが、アルトアイゼン(古い鉄)からオリハルコンを生成する方法を発見したという伝承に拠るという。


◆◆◆


アルトアイゼン通りは、絵に描いたように賑やかな通りであった。

住宅街から外れた場所に位置し、立ち並ぶのは雑貨屋や菓子屋、そして洋服のセレクトショップなど、女性が好む店が多く、通りを歩く人々もまた、その傾向を反映していた。

午後のお茶の時間を終えたマダム達や、楽しげに連れ立って歩く女学生らしき集団。

すれ違う人々にロレーヌ村を思い出しながら、2人はウィンドウショッピングを楽しんでいた。


ショーウィンドウだけでも、その店の個性が見て取れる。

ペンの専門店らしき店のディスプレイでは、大小様々な羽根ペン、そして蔓が絡みついたデザインや幾何学模様の優美な万年筆が色とりどりのインク壺と共に暖色の光に照らされていた。

その調和された色彩に惹かれ、2人は思わず足を止める。

しばらく眺めていたが、ふとディスプレイ越しに目が合った女主人に微笑を向けられると、2人は赤面し、ぎこちない笑みを返した。


次に足を止めたのは、実用性とデザイン性を両立させた魔導具の店。

魔法を使えるのは魔女だけではない。人間にも、魔法使いなる者が存在する。

魔法使いの数は使えない人間の数より圧倒的に少ないが、それでもこの店のように、魔法使い向けの店が無いわけではない。

それは、魔導具の中にも普通の人間が扱える品がいくつか存在するからである。

付け加えると、魔女が使う魔法は生まれ持った体質のおかげで、外界の魔法使いとは比べ物にならないほど強力なのだが、魔女と魔法使いの違いについての話はまた後にしよう。

デザイン性も加味した魔導具は女性にも人気があり、魔法を学ぶ学生だけでなく、魔力が感じられない普通の人間も店に出入りしていた。

3つの三日月が交差した絵が描かれたオーク素材の看板に、太陽系をモチーフにしたモビールが風に揺れている。

入り口は真ん中に位置し、右手のショーウィンドウには魔法使い向けの商品、すなわち魔力が必要な魔導具、そして左手には、魔力が無くても扱える普通の人間向けの品物が展示されていた。

中を覗けば、そこはなかなかに繁盛しており、店内は狭いながらも多くの人で賑わっているようである。

魔導具は既に一式揃っているので、必要な物が思いつかなかった2人はその店を後にし、通りをさらに進んでいった。


◆◆◆


そして見えてきたのは、アルトアイゼン通りの目玉、オーブ・ポリンガー。

他と比べると、一際大きなそのデパートは目にも鮮やかな赤煉瓦で出来ており、重厚な柱は白で統一されていた。その風格はまさに、街一番と称されるに相応しいものである。

そしてデパートの前の広場に目を移せば、行き交う人混みの中に、いかにも待ちぼうけ中、といった様子の、虚ろな目をした男性諸君が妻の帰還を待ち、噴水にずらりと並んで座っていた。

その光景に憐れみの目を向けながらも、2人は回転扉を通り、デパートの中へと入っていく。


「やばい…人混みアレルギーの発作が出てきそう…」


「ご愁傷」


「ちょっとはボケに乗ってよ…」


「そんな暇はない。それより見たまえよアーティ!"しゃれおつ"で"なうい"店ばかりだぞ!」


「精神的更年期がバレるよー」


回転扉を通った先には、吹き抜けの天井がどこまでも続いていた。

円形のフロアを囲むように店が様々な立ち並び、スプリングフェア、と書かれた旗がどの店にも掲げられている。

女性客は最新の春物を安く手に入れようと、どこかの店でタイムセールが始まる度にそこへ殺到し、哀れな従者が腕いっぱいの荷物を抱え、あくせくと付き従う。

そんな忙しく走り回る人間達の間をすり抜け、上を見上げれば、鮮やかなステンドグラスがドーム型の天井を彩る。

美しくカットされた抗重力クリスタル、レーゲンリフトが、浮遊するシャンデリアを形作り、ステンドグラスから抜ける色彩を見事に屈折させていた。

その周りに華を添えるのは、文字通り春風の如き花。一定の時間が経つ度に、一陣の風のようにシャンデリアの周りを踊る花々は、スプリングフェアに相応しい春を模した美しさであった。

しばらくの間眺めていたが2人であったが、本来の目的を思い出すと、休憩用の椅子に座り、入り口で手に入れたパンフレットを開く。


「1階は…化粧品に…宝石とかだね」


「ふむ。シスターは確か生粋の宝石好きであったな」


「うーん…けど、何かしら特別な伝説とか力が無いと興味ないって前に言ってたからなー」


「くっ…選り好みの激しいオタクだ…。仕方ない、そこは後回しにしよう」


「はいはい。えーと、2階は…」


アーティがパンフレットに描かれたデパート図の、2階部分を指で辿る。


「文房具とか、雑貨屋さん。あとおもちゃ屋さんが集まった感じ?」


「ふむふむ。子供達には丁度いいかもな」


「んじゃ、ここチェックね」


アーティはクラッチバッグから翡翠色のガラスペンを取り出す。

すると、それは一人でに宙に浮き、サラサラと青い丸をパンフレットに書いた。


「3階は女性向けのファションフロアか…」


「ここは問答無用で、」


「行くしかないだろうな、チミ」


3階にも、丸印が付く。


「4階は紳士服だからパス」


「5階はカフェやレストラン、食料品だな」


「うっし、丸!」


5階には、大きな花丸が付いた。


「あとは、屋上だね。街が一望できるってさ!」


「うむ。買い物がひと段落したら休憩兼ねて行こうかね」


「よっし。じゃ、早速2階から見てみますかー!」


パンフレットをパタンと閉じ、クラッチバッグにガラスペンと共にしまうアーティ。

片方はポシェットを振り回し、もう片方は拳を鳴らす魔女姉妹。勇ましくヒールの音を大理石の床に響かせ、螺旋状のエスカレーターに乗ると、彼女達は2階へと向かった。


◆◆◆


「すっご!生エスカレーター初めて!自動なんたかシリーズは人類の宝や!」


「恥ずかしいから静かにしたまえ…」

次回!真・自重しない散財(中編)!お楽しみに!

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