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第3話 田舎娘、都会にて

「前回までの粗筋…天翔けるセクハラ魔獣、リヴァイアサンを使役し、向かった先はクリームヒルト。3時のタイムリミットに間に合わせた2人は、街一番と噂されるバームクーヘン屋さん、モーニングスターで舌鼓を打っていたんだけど、これ本当にうっま!ねーアニス、もう一口頂戴!!」


「お上りさんは黙って糖分を摂取したまえ」


「けち〜」


イウロペ大陸の東北部に位置するザクセン帝国。その都市、クリームヒルト。

魔物が闊歩するこの世界ではよくあるように、街の周りは魔物避けの外壁に囲まれ、東西南北全部で4つの入り口はそれぞれ2人1組の衛兵が守護している。

そして外壁の外には黒い森、と呼ばれる鬱蒼とした森が広がり、それぞれの入り口へと繋がる一本道が続いていた。

別れをしつこく惜しむリヴァイアサンを人気のない場所で送還した2人はその一本道を進み、クリームヒルトに辿り着いく。

一戸建てが殆どのロレーヌ村とは違い、立ち並ぶ建物はどれも背の高く、切妻屋根と木枠の壁が特徴的なものばかりであった。

窓からは艶やかな彩色の花が咲き誇り、家々の扉には淡い黄色が美しい、春の花、ミモザのリースが掛かっている。

時代を先取りしたファッションに身を包んだ若者から、老年の紳士と淑女。街行く人々は老若男女様々であり、この街の規模の大きさが窺えた。


さて、目に映るもの全てが目新しい2人はお菓子屋を探し歩く際、絶えず街をキョロキョロと見回していた。

ゴシック様式が美しい、荘厳な教会で足を止めたり、初めての"生の"男性に(なんだこんなもんか…)と落胆の声を上げたりする。

そして道中手に入れた、クリームヒルト・スイーツガイドマップを片手に着いたのは、バームクーヘン専門店、モーニングスター。

アンティーク調の看板が風に揺れ、ショーウィンドウ越しに見える店内は、深緑を基調とした上品な内装。客層は壮年の夫人からうら若き乙女まで様々。たっぷりのクリームに甘いシロップがかかったバームクーヘンを切り分け、満面の笑みで口に運ぶ男性の姿も見受けられる。

迷わず店に入った2人は、ガイドマップが勧める、キャラメリゼ=バウムを頼む。

数分後、運ばれてきたキャラメリゼ=バウムは、キャラメルソースの甘い香りとバームクーヘンの芳醇な香りが混ざり合い、2人の糖分欲を一層刺激した。

そして現在、高速でバームクーヘンを胃の中に収めたアーティは、アニスの分を目ざとく狙っているという状況である。


「ちぇ。食べ終わったらさー、宿探し、しない?」


「ムグムグ…ふむ。この荷物も邪魔だしな。荷物を宿に置いたら…」


「ショッピング!」


「だな。パクパク、グビグビグビ、ゴクン」


バームクーヘンの最後の一口を食べ、共に頼んだホットココアを豪快に飲み干すアニス。

席を立ち、会計を済ませた2人は、受付嬢の微笑を背に、マホガニー製の重厚な扉を押すと、通りに出た。

店内に残った客たちが、彼女達が何者なのか噂話を一斉に始めたことにも気付かず。


「けどさ〜、宿屋ってどこにあるんだろ?」


「街のことは、街の人間に聞くのが一番だよ、チミ」


石畳の街道にコツコツと軽やかなヒールの音を響かせ、着いたのは交番。

駐在していた黒い制服の衛兵のうち、1人に話しかけ、宿屋が集まる場所を聞く。

彼の話によると、現在地の南門通りを東へと進めば、街でも有数の宿屋が集まる場所、フュラー通りがあるという。


「街の中心部に行くほど、宿屋は高いものになります。財布と相談し、じっくり考えて下さいね」


強面の屈強な衛兵が、その高圧的な雰囲気に似合わず、変に穏やかな口調で話す。

最後にその通りを指し示すと、2人は丁寧にも簡潔な地図を書いた紙を渡され、感謝の言葉を述べると、交番を後にした。

彼女達が去った後、彼の背後で(眼福だ…)などといった声が上がるのにも気付かず。


「なんかあの駐在さん、変に親切じゃなかった?見た目トロール捻り殺しそうな感じなのに」


「渡る世間の鬼は、ここ数年絶滅危惧種なのかもなぁ、チミ」


「けどさ、ジュリーが言ってたよ。人間は1つの場所に集まれば集まるほど、意地汚い奴らが増えるって」


「その時はその時だよ、チミ」


「のんきだな〜」


「脳みそ海綿野郎のアーティにだけは言われたくない」


「ひっど!」


そんな他愛もない会話を繰り返し、地図に従い、15分ほどで着いたのはフュラー通り。


まず最初に目に入ったのは、ボロ屋にボロ屋を重ねてボロ屋と成したかのような、ボロ宿。

恐る恐る中を覗けば、そのアヘン窟の如き様相に、2人は急いで次の宿を探す。

2軒目は、宮殿と見紛う巨大なホテル。天使の像が立ち並ぶ庭園に、日の光を浴びた噴水が一層の華やかさを添える。建物は白い壁に、ロココ調の精巧な彫刻が施されていた。

貴族も腰を抜かすその威風に口を開けて突っ立っていると、ドアマンらしき好青年に話しかけられる。2人は頬を赤く染めると、そそくさと退散した。

3軒目は、老夫婦が切り盛りする民宿。民宿ではよくあるように、1階は食堂、2階から上が宿泊スペースとなっている。

都会にありながら、故郷のロレーヌ村を思い出す素朴な趣きに惹かれた2人は、全会一致でここに宿を取ることにした。


ドアベルの軽やかな響きと共にドアを開けたアーティ。すると、夕食の下準備中だろうか。ワインの微かな香りが鼻腔をくすぐる。その控えめさに好印象を持ったアーティは、アニスに向かって、無言で親指を立てた。この宿、当たりだぜ!…ということである。

お昼時を過ぎた店内には客が見当たらず、テーブルを掃除する老夫人の姿だけが見受けられた。

老夫人にこの宿に泊まる旨を話し、前払いの宿代の支払いを済ませ、鍵を渡されると、2階の部屋へと向かう2人。右手の奥の部屋が、今回夜を明かす部屋である。

鍵を持ったアニスが、かちゃりと鍵を回す。油のよくさされたその鍵穴からは、老夫婦の丁寧な手入れ具合が確かな感触となって手に伝わった。


「あーこれは良い。当たりだわ〜」


「うむ。快適そうなベットに、トランクを2つ置いても十分な部屋の広さ。完璧だな」


ベットが2つ置かれたその部屋からは、アニスの言う通り窮屈さは感じられず、それぞれトランクを持つ2人がそれを床に置いても十分な広さであった。

トランクを放り出し、ベットに後ろから倒れ込んだアーティは、そのままゴロゴロとベットの上を転がる。


「いやー良いね、ほんと。言語能力が著しく低下しちゃうよ、これ」


「くだらないことを言ってないで、早く行くぞ、チミ。部屋で伸るにはまだまだ早過ぎる」


「はいはーい」


ガバリと上体を起こすアーティ。トランクからクラッチバッグとポシェットをそれぞれ取り出した2人は、部屋を出た。次の目的、ショッピングをするために。


◆◆◆


《おまけ・魔女のチェストルーム》


スターアニス・シュノンソー


・その他

ガルム革ポシェット・ガトー

(エメローラ社製)



アーティチョーク・シュノンソー


・その他

クラッチ・ザ・クラッチバッグ

(リリアン・イーストウッド社製)

次回!高級デパートにて自重しない散財(前編)!お楽しみに!

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