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第2話 山頂は思ったより寒い

夜中投稿の小説を読むそこの貴方!

「前回までの粗筋…思ったより長くなってしまった第1話。歯止めをかける日々のタスク。文才の暴走列車にブレーキを掛けたアーティは、暗雲向こうの天を睨み、次回の更新を待つよう、異次元の住人に必死の懇願をするのであった…」


「メタ発言乙」


「そーゆうのやめて!テンション高めのおバカ系キャラだって、心無い発言には傷つくの!」


「まあ、そういう星の下に生まれたのだから、諦めたまえよ。そんなことよりチミ、もうそろそろでおやつの時間だ。さっさとしなければ、スイーツタイムに間に合わないぞ」


さて、前回までの粗筋…は、概ねアーティの言う通りとしよう。

魔女の村、パラディソα=ロレーヌから旅立った2人は神殿を抜け、エンパイアス山脈のパルテノン山の頂上へ出た。

目的地は、ザクセン帝国のクリームヒルト。

現時刻は午後2時36分。

3時のスイーツタイムは刻一刻と迫っていた…。


「ひええ嘘でしょ!?20分くらいでクリームヒルトに着くには…どうする?」


「それは、チミ、あれをハイヤーするしかないだろう」


「んんん?…ああ!合点承知の助!」


魔女姉妹は顔を見合わせ、ニヤリと瓜二つの笑みを浮かべる。それこそ当に、鏡合わせのように。

そして始める。彼女達の本領、15年間で得た力。外界に出て初となる、魔術の行使を。


《神と悪魔の落胤。天と地を越え、海に堕ちた深淵の魔物》


《今此処に乞う。海を搔き、地を震わし、天を渡り、此処に姿を。誇り高きその姿を現せ》


【召喚魔術:雲海竜=リヴァイアサン】


2人の口から言葉が紡ぎだされ、それぞれ右と左の手を前方へ差し出す。彼女達の手を中心とし、光の粒子を纏う青翠色の魔法陣が構成された。

それに呼応するかのように、眼前に広がる雲が波打つ。そしてそれは形を為す。彼女達の従者、契約の魔物の姿へと。

灰色の世界に、黄昏時の空を舞う龍雲の如き影が現れ、刹那光を放つ。すると、その姿を黄金色から藍色へと変えた。

そして現れたのは、リヴァイアサン。誇り高き天空の飛翔者。ラピスラズリの如き艶やかな鱗は、角度によって黄金色へと煌めく。瞳は夕刻の満月のように見開かれ、その体躯は見る者を圧倒させる。そして今、その視線は自らの契約主、アーティとアニスへと注がれていた。

雲に包まれ、風の吹き荒れる中対峙する2人と1匹。その静寂を真っ先に破ったのは…


「おおぉ〜、アニスにアーティ!儂の可愛い娘達よ、元気にしておったか?ほれほれ、その愛らしい姿をじいじによく見せてくれ!」


とぐろを巻き、その巨体で暴風から彼女達を守るように地へ降り立つと、宝玉の如き大きな両目を細める。

リヴァイアサン。旧約精書においては、神の生み出した怪物と記述されている。しかし、天変地異の怪物も、美少女魔女姉妹の魅力には敵わないようである。事実、彼女達が喚び出す度にこの有様であり、2人に対するその甘やかしっぷりはロレーヌ村でも知らない者がいない程であった。


「むむむ?よく見ればここは仮想神域外ではないか。ということは、汝等は成人したということじゃな!おぉ、なんとめでたい!」


(あははは…元気そうで何よりだね、爺ちゃん)


(うむ。雲が厚くて助かった。このはしゃぎっぷりがもし人間の目に触れれば、御乱心の竜を駆逐するため、討伐隊が派遣されてもおかしくないからな)


「そうじゃのぉ、祝いの品は何が良いかのう。そうじゃ!汝等は外界に行くのじゃろう?ならば、これを売って旅資金にでもするとよい」


グルルと低く喉を鳴らすと、喉元からポロリと何かが落ちる。内から鈍い光を放ち、澄み切った夜空を彩る星々のような光沢。

2人は恐る恐る近寄り、人一人が抱えるほどの大きさの、結晶のような物体をツンツンと突っつく。


「「何これ?」」


「じいじの逆鱗」


瞬間、一斉に後退る2人。


「なっ、なっ、こんな、恐れ多いって!」


「こっ、このような物が外界で流通したら、とんでもないことになる!市場を破壊しかねない代物だぞ!」


竜の鱗には、一つ一つに膨大な力が宿る。その鱗が合わさり、身体を覆うことにより、生物の中でも最上位の種たる竜の防御力は莫大なものとなるのだ。

よって、市場に竜の鱗が流通するのは極めて珍しく、流通するとしても、10年に一枚出回れば良い方である。

そして、それだけの価値を持つ鱗の中にも価値の上下が存在する。比較的安価なものは、擦れたり傷が付いてたりすることが多い体表面のもの。一般的に価値が高いと言われている部位は、その希少性から腹と胸部。他にも部位によって様々な価値が付けられているが、その中でも破格の値段、一国の宝物庫とほぼ価値が等しいと言われている伝説級のものこそ、逆鱗である。

竜が決して誰にも触れさせない喉元。触れた者は竜の怒りにふれ、未だかつて生還した者がいないと言われている。そして喉元の鱗の中でも、最も大きな力を秘めているものこそ、逆鱗。

しかし、以上は外界で共有されている知識の範囲内の話である。リヴァイアサン程の竜となると、逆鱗は複数個存在し、かつ取れてもその高い自己再生能力により、すぐにまた生え替わる。

よって、本人にとって逆鱗は他のものより綺麗な鱗という認識であり、2人に対するお祝い程度のにしか考えていなかった。また、更に言えば、もし喉元が痒く、仮に掻いててポロリと取れたとしても彼は何とも思わないであろう。


「むむ?そうかのぅ?まあ、汝等がそう言うのだからそうなのじゃろうな。致し方ないのぉ。それは汝等が持っておれ。いつか役に立つ日が来るじゃろう」


「えっ、いいの本当?やった爺ちゃんありがとう、大好き!」


「身体的にも修辞的にも太っ腹…ありがたく貰うぞ」


「ぐふふ…娘達の愛しい笑顔の為なら、じいじ何でもしちゃうのぉ。ふむ、ではこれもお祝いじゃ」


アニスがトランクの中にひょいと逆鱗を投げ込む。そしてパタンと何事もなかったかのようにトランクを閉めると、またリヴァイアサンへと向き合い、次のプレゼントに目を輝かせる。

アーティとアニスが期待の目を向けるなか、リヴァイアサンは身体をくねらせる。すると、襟首辺りだろうか。そこからヒラヒラと何かが落ち、アニスがそれを空中で受け止めた。


「えーなになに、入場料1,000ロン。魅惑の空生爬虫類、ミセス・スニーク=スレイヴの空中ストリップショ…」


「あーーーー違う違う!それではない、それではない!!!これこれ、これじゃあ!」


アニスの手の中で妖しげなチラシがパンッと音を立てて塵となる。しかし、エロ本を隠し持っていた男子高校生を見るかの如き、2人の蔑む視線はまだ彼を標的としていた。

そして、変な汗をかきながら再び身体をくねらせたリヴァイアサンの下顎から、また何かが落ちる。今度はチラシではなく、カードのような物が2枚。アーティとアニスが首尾よくキャッチした。


「えーと、株式会社ホーエンツォレルン株主優待券…?」


「ふむ。会社の傘下の店舗で、種々のサービスが無料で受けられるという物だな」


「てか爺ちゃん、株なんて持ってたの?」


「うむ。じいじは計算高いのじゃ。無料という言葉に弱いのじゃ」


「なーるほど。先ほどのチラシに書かれていた会社の名前も、確かホーエンツォレルンの子会社、ポーゼンだったなぁ」


氷点下の視線がリヴァイアサンを突き刺す。うっ、と言葉を詰まらせた彼はコホンと咳をすると、バツが悪そうにとぐろを巻き直す。


「えー、あー、うむ。まあ、そんなことは置いといての、汝等は何故じいじを喚んだのじゃ?じいじはいつ喚ばれても嬉しいがの、きっと何か頼みがあってのことじゃろう」


「あっ!そうだ!一番肝心なこと忘れてた!」


「クリームヒルトまで連れて行って欲しいのだ!」


「「超特急で!」」


「なんじゃ…じいじに会いなぁ〜とか、寂しかったよぉ〜とかじゃないのか…シュン…」


「そんなことどーでもいいから早く!」


「私達には緊急事態なのだ!スイーツタイムまであと20分を切ってしまったのだよ!」


「えーうっそマジで!?爺ちゃん早く背中乗せてよ!」


「うむ…そうか…シュン…」


あからさまにいじけるリヴァイアサン。渋々といった様子で2人が乗りやすいよう、頭を下げると、首の突起が丁度良く階段のようになった。

しかし、覇気も何も感じられない姿に見かねた2人は、リヴァイアサンの両頬へとそれぞれまわり…


チュッ


(…とでもするか阿呆!そんな恥ずかしいこと私にはできん!)


(いやでもさ〜。これ以上爺ちゃんにいじけられてフラフラ飛ばれても、3時までに着くかどうか分かんないよ〜)


コソコソと喋る2人。…途中からはアーティの勝手なシミュレーションである。


(ううむ…仕方ない…あっちに着いたら何か奢りたまえよ、チミ)


(おっけ〜)


「どうしたのじゃ?2人とも、早くじいじの背に乗らんのか?」


チュッ!


カッと目を見開くリヴァイアサン。視界の端に映るのは、恥ずかしげに急いで背に登るアニスと、小悪魔的な微笑を浮かべ、ゆっくりと登るアーティ。一方、彼女達に踏まれている側は…


「じいじ、感激!」


うなぎ登りのモチベーションを明示するかのよう、ぐいと勢いよく頭を上げるリヴァイアサン。そう、接吻とは良いものである。特に美少女からのものは。


「クリームヒルトに行くと言ったな。ふむ、そんな場所、じいじの手にかかれば、5分程度で着くわい!」


「爺ちゃんすごーい!アーティ、爺ちゃんと契約してほーんとに良かったぁ!」


「むふふ、そうじゃろう。そうじゃろう!」


アーティの下手な棒読みの褒め言葉も、今のリヴァイアサンにとってはドーピング。

かわいいは正義、それがこの世界の常識であった…この世界だけでの話ではないが。


「ほれ行くぞ!準備はばっちしかの?」


リヴァイアサンの言葉に、2人は慌てて背の突起をぎゅっと抱き締める。

そして【重力操作魔法:グラブ】をかけ、位置を固定すると、次は【風操作魔法:ウィンディア】をかけ、これから想定される、こことは比べ物にならない程の風圧に備える。そして最後に、【火炎魔法:ウォーマ】で上空を移動することによる寒さにも備えた。


「あ、待って爺ちゃん」


「なんじゃ、アーティ?」


「ここって外界じゃん?だからさ、あんまし目立つと困っちゃうんだよねぇ…」


「ふむ。なんだそのようなことか。汝等が心配するまでもないわい。じいじはちゃーんとの、外界を騒がせぬよう、対策くらい講じておる」


【隠密スキル:ステルステクス】


身体をブルルッと振るわせると、刹那、紫電が走る。すると、そのラピスラズリの如き崇高な輝きは薄れ、全身の鱗が水晶のように透き通る。

リヴァイアサン=お忍びモード、である。


「では改めて、出発じゃの!」


身を屈め、羽衣のように揺れる魔力をその身体に纏う。光の粒子が魔力と共に彼の身体を覆い、時折火花のようにチリチリと爆ぜる。

リヴァイアサンは翼を持つ翼竜種ではないので、飛ぶ時には魔力を用いる。その巨体を高速で飛ぶのに見合った、莫大な魔力が満ちるのを2人は感じていた。

それは一瞬であった。飛翔、そして眼下には雲に包まれたパルテノン山。彼が雲を突き抜けた痕跡として、雲が筋のように尾を引く。魔力と混じり合い、微かに虹色の光彩を放っていた。

突き刺すような陽光に目を細め、顔を前方へ向けると、そこに広がるのは、鮮やかな緑翠色の大地。エンパイアス山脈の裾野から山麓にかけて、どこまでも深い緑の樹海が広がる。その脈動する大地からは、確かな生命の息吹というものが感じられた。

ロレーヌ村という小さな世界。村の図書館にある膨大な蔵書を通し、外の世界に幾度となく想いを馳せた2人であったが、


「「やっぱ娑婆が一番!」」


…だそうである。


「おお、そうだのそうだの〜。いいやしかし、若い娘が無邪気にはしゃぐ姿は眼福じゃのう!じいじ、張り切っちゃう!」


「セクハラ発言だけどまあいいや」


「クリームヒルト直航便、頼んだぞ」


「うむ!」


返答と共に、再び魔力を身に纏う。今度は東北へ、次の目的地に向け、頭をゆっくりと回す。瞬間、爆発的推進力をもって魔力は放たれた。雲を気化させ、音速を超え、大空を裂く一筋の軌跡。

そして向かうはクリームヒルト。初めての街。

ロレーヌ村とは規模も、そこにいる人間も、全く違う。そこに待つのは幸か不幸か。


「んなもん、行ってみなきゃ分かんないよ!」


「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと次の話を書きたまえよ、チミ」


…つづく。

誤字脱字を見つけたら、直ぐにこちらへご連絡下さい。

故意に間違えた可能性もありますので、そこは貴方様の柔軟な日本語能力を唸らせて下さいまし。

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