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ELEMENT2017夏号  作者: ELEMENTメンバー
テーマ創作「魔法」+「入道雲」
6/12

好きこそ物の上手なれ(作:SIN)


 放課後、シロの家でゲームをしようという事になって歩いていた筈の俺達は、3人並んで雨宿りをしていた。

 雨雲なんか何処にもなかった筈なのに、急速に育った入道雲による夕立に遭遇してしまったという訳だ。

 「雷鳴ったら嫌やなぁ」

 どす黒い空を見上げながら独り言をつぶやくと、

 「雷怖いん?毎日雷落としてるのに?」

 と、セイが笑った。

 雷を落とす?俺はただ突っ込みを入れているだけで……ん?

 「それ関係ないやないかーい」

 とりあえず雷にならないよう心がけて緩めに突っ込みを入れてみたが、スッキリしない。

 「雷落としてるのに雷嫌いって可笑しいやん?」

 そんな不思議そうに言われても……。

 例えば雷様がいたとして、ドンドコ雷を鳴らしている癖に雷を怖がっているのなら、それは確かに可笑しいだろう。けど、セイが言っているのは俺の事なんだよね?

 「可笑しくない」

 そもそも、雷を落とす勢いで怒った事なんかないし。

 「なんで?電化製品好きやのに電気が怖い……的な」

 家電製品と電気は別物だし、雷とも違うだろ。

 「なにそれ」

 セイはまだ何か例えを出そうとしているのか、どんよりしている空を見上げながらうーんと唸り始めた。

 こんな時、いつもなら一緒になって突っ込みを入れてくれるシロはさっきから携帯画面に釘付けだ。

 なんでも、知り合いの人からの相談を受けている最中だとか。

 「水遊びが好きやのに水が嫌い。みたいな」

 ポンと手を叩いたセイが、満面の笑顔で俺を見る。

 「もう1回言うとこか。なにそれ」

 もう雷ですらないし。水の話になってるし。

 「花火好きやのに火が怖い。みたいな?」

 今度は火!?

 いやいや、花火が好きでも火は怖いだろ。それを言うなら水だってそうだ。コントロール出来る程の水や火なら娯楽になるけど、手に余ればそれは脅威だ。

 「火の事を1番良く分かってるから火が怖いんちゃうの?水にしても、いくら水が好きっても大波が来たら避けられへんやん」

 雷は落ちてきたら命の危険があるんだから、小さくても何でも脅威でしかない。だから、雷が嫌いな俺は間違ってない!

 「分かってたら回避方法も知ってるんやし、怖くないんちゃう?ほら、ライフセーバーも消防士も、知ってるのに向かっていくやん」

 ライフセーバーも消防士も、水とか火を熟知していて、恐怖を知っているのに人命救助を優先する凄い人。

 それは間違いなくそうなんだけど、雷関係ないよね!?

 「ふぅ……」

 今の今まで相談事に乗っていたシロが携帯をポケットに入れ、軽く溜息を吐きながら空を見上げた。

 なにそのアンニョイな感じ!

 「どしたん?」

 話しかけるなってオーラを惜しみなく漂わせている相手に向かって、セイは物怖じする事も無く話しかける。

 「何か……んー。彼氏と上手くいってへんらしい」

 女子からの相談だったのか!

 「そんで?」

 セイの野次馬根性は凄いな。けど、俺も気になるから突っ込まないで大人しくしとこう。

 「明日、付き合って1年目の記念日なんやって。で、プレゼント選びに付き合って欲しいんやってさ。はぁーメンドイわ……」

 投げ槍に全てを打ち明けたシロは、それでも直後に鳴った携帯を光の速さで取り出して眺めている。

 「んで、誰?同じ学校?」

 セイ……直球過ぎるわ!

 「言うても知らんと思うで」

 俺達が知らないって事は、同じ学校ではない?もしかして学年違い?にしたって、こうやって相談をしてくる程の仲なのに俺達が知らないってのは何処か不自然だ。

 「知ってるかも知れんやん。言うてみ」

 ご近所の人って線もある?

 「いや、絶対知らんって」

 「分からんやん」

 いつまでも食い下がるセイに観念したらしいシロは、少し間をあけてから、

 「……白西って人」

 と、相手の苗字を教えてくれたんだけど……聞き覚えが全く無い。

 「誰?」

 「だから知らんって言うたやろぉ?」

 こんなやり取りをしている間にもう1回携帯が鳴る。

 今日のゲーム大会は中止だな。

 「行ってえぇよ。その代わり、どうなったか明日聞かせてな」

 ニカリと笑って手を振ると、シュッと手を振り返してきたシロは、雨が降っている事も気にせずに駆け出して行った。

 あの急ぎっぷりやら携帯の返信速度からして、シロは白西と言う女性の事が好きに違いない!

 あぁ……でも、彼氏のプレゼントを選ぶのに呼ばれたんだっけ……。

 ザァァァァ。

 降り止まない雨にセイと2人して空を見上げ、雲に切れ間が出来ないだろうか?なんて考えていると、目の前に黒い影が現れた。

 視線を落としてみると、それは傘をさした男性で、更によく見るとシロのお兄さん。

 挨拶をした方が良いのだろうか?でも、俺達がシロの友達である事を覚えてくれているだろうか?それより、傘を持っているのに雨宿り?

 「あれやろ?シロの友達。名前って聞いたっけ?」

 どうやら名乗ってもいない名前を思い出そうとしてくれていたらしい。

 「俺はセイで、こっちがコウ。で、シロの兄貴」

 セイがこの場にいる全員の紹介を笑顔で済ませてくれた事で、一気に会話がなくなってしまった。

 なんて言えば良いのだろう?シロは女性に呼ばれて走っていったとでも?そんな詳しく状況を説明してもしょうがないか。じゃあ天気が悪いですねとでも?

 「タケシな。傘持ってへんの?折り畳み傘1本余ってるから使い。あ、そうや。どっかでコーヒー飲もか」

 物凄く一気に喋るこの人は本当にシロのお兄さんなのだろうか?何だこのあり得ない程のフレンドリーさは!寧ろシロのお兄さんじゃなければ逃げ帰ってる位の恐怖があるんですけど!

 「やった!」

 本当にセイは物怖じしないな……好きなものは恐れないとか言う自論だろうか?深い考えがありそうでなにもない可能性が結構な高確率であるけど……それとも、甘え上手なだけなのかも?

 折り畳み傘を広げたお兄さんはそれを自分でさし、大きな傘を俺とセイに貸してくれて、そのまま多分カフェに向かって歩き出した。

 時々チラリと振り返って来ては穏やかに笑うお兄さんを見ていると暖かな気持ちになってくるんだけど、それに反して恐怖感は抜けない。

 特に何をされたって訳でもないのに、初めて会った時から何となく違和感があったんだ。まぁ、雪山でいきなり怒鳴られたなんて特殊な出会い方だった訳なんだけど。

 第一印象が怖い人だったから、それが抜けないだけかな?

 「ん?好きなん頼みな」

 メニューよりお兄さんばかりを見ているとそう笑顔を向けられ、少し逸らした視線の先にはお兄さんとセイの注文をとった店員さんが俺に注目していた。

 「アイスレモンティーお願いします!」

 慌てて注文して、その恥ずかしさを誤魔化すように灰色一色の空を見上げると、そんな事は関係ないといった風にセイが、本当ならシロの部屋でゲーム大会を行う予定だった事を話し出した。

 何故中止になったのかを省略した所が、なんかちょっとだけ意外だったりして……。

 「中庭の剣士と野生の魔法使い?」

 ゲームのタイトルをサラリと言い当てたお兄さん。

 どうやら、このゲームをした事があるようだ。

 「それ!オリーブの湖横のダンジョンクリアー出来へんねん!……ですよ!」

 セイは興奮の余り少々声が大きくなったが、スグに我に返ったようで大きな声のまま大分苦し紛れに敬語にした。

 「あれ?そこのボスってそんな強かったっけ?」

 中盤辺りのダンジョンだから、普通にやっていれば少しレベルを上げるだけでゴリ押し出来る感じなのだと思う。

 普通にやっていれば。

 「パロメーター全部運にふってるんで、魔法2回しか撃てないんですよ」

 何故かパロメーターを全て運にふっているセイと、全て力にふっているシロ。そして全てを素早さにふっている俺ではクリアは難しい。

 前に出て剣で戦うシロの防御力はかなり低いから、後ろにいる俺とセイで回復魔法を唱えるんだけど、2人合わせても5回撃てれば良い方。もちろん、攻撃魔法でも同じ事。

 「運!?全部!?なんちゅー縛りプレイしてんの!?」

 全く、返す言葉もないよ。

 それでも相談を受けてしまったお兄さんは、どうにか戦える方法を考えてくれて、そこで有力な情報を聞く事が出来た。

 ダンジョン内ボスだから風の魔法とか、風属性の武器が有効だと思ってたけど、まさか闇が弱点だったとは!

 それに、闇魔法に闇属性の武器を合わせれば相乗効果で強くなるなんて知らなかった。

 貴重な情報を聞いているとアッと言う間に時間は過ぎ、あれだけ激しく降っていた雨がいつの間にか小降りになっていた。

 「今のうちに帰ろっか。その傘使いや」

 こうしてカフェを出て歩き出した所で、誰かがお兄さんの肩を掴んだ。

 カフェの店員さんが忘れ物でも届けに来たのだろうか?と思って振り返ると、そこには雨で全身ずぶ濡れの男性が1人立っていた。

 誰?と疑問を口にする前に、

 「何でお前なん?まだそっちの子ならともかく、なんで1番強そうなお前なん!?」

 何故か俺を指差しながらお兄さんに物凄い剣幕で文句?をつけ始めた。

 「知り合いですか?」

 そんな感じではなさそうだけど……。

 「いや?初対面……やろ?」

 初対面なのにこの状況は可笑しいけど、何度も首を傾げているお兄さんには本当に見覚えの無い人のようだ。それなのにお兄さんは困ったような表情を浮かべながらも、

 「ちょっとこの人と喋りたいから、ここでバイバイな。気ぃ付けて帰りな」

 と、俺とセイの背中を少し強めに押してきた。

 「何やったんやろな?」

 セイは不思議そうに何度も振り返るから、俺も一緒に振り返って見るんだけど、何かを話し始めた2人の会話が聞こえて来る訳でもない。

 何だか今日は不思議な日だったなぁ……。

 「シロのお兄さんに会った後位からフワッとしてるわ」

 ゲームの事を話して結構濃い時間を過ごしたと思うのに、こうして離れてみればさっきまでの事が夢か、幻だったような気さえする。

 こうしてお兄さんに借りた傘をさしているというのに。

 「あー分かる。何か独特な雰囲気?やんなぁシロの兄ぃちゃん」

 あー、それ物凄く分かる。

 優しいし良い人なんだろうけど、何処か雰囲気がピリッとしてるんだ。常に何かを警戒してる?それがこっちにも伝わってくるから、一緒にいると落ち着かない。

 まぁ、それはともかくとして。

 「シロも、シロのお兄さんも気になるけど……」

 「……今はとりあえず帰ってダンジョン攻略やな」

 それだ!


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