第十三話 異世界への思い
「ロウルさんは何故妖精について詳しいんですか?」
私は妖精のことについて、会う方法は自分しか知らないと言うロウルに問いかけた。
まあ大抵の予想はつく。
「私も子供の頃に妖精に会ったことのある一人だからだ。私も一度勉強の為にこのフラットの町を出て、ジャクスの都市まで行ったことはある。だが妖精が近くに住んでいるこの町のことが気に入ってしまっていたらしく、杖の製法を覚えてから、またこの町に戻ってきてきたんだ」
やっぱりこの人も妖精に会ったことがあったから、妖精について詳しかったわけだ。
でも噂の真相を話さないのは、この人が今も昔も優しいからなのだろう。
もう会えないとわかっていても、守ってあげているんだな。
「君らなら妖精に会える。私はこの町に長く住んで、妖精に会えたというたくさんの子供たちを見てきた。優しい子かどうかを見抜くのは、私にとっては簡単なことだよ」
ロウルは私達を真っすぐ見ながらそんなことを言ってくれる。
会えるって確信を持って言ってくれて、この人の助けにもなるのなら、頼みを受けてもいいだろう。
それに本とか童話とかでしか聞いたことのない妖精に会えるのだ。
異世界に来て、こんな貴重な体験ができるチャンスを逃すわけにはいかない。
「わかりました!優しさの塊とも言われている私達に任せてください!」
私がそう言うと、ロウルは満足そうな顔をして頷く。
そして何かを思い出したかの様に、ロウルは目を見開くと、
「ケイキ、この子らにあれを渡してくれ」
「ははっ!了解です」
ケイキと呼ばれた先程の男は、部屋に入り机の上に飾ってある、蝶の様な緑色の四つの羽が付いた綺麗なペンダントを私に渡してきた。
「これは?」
「それは私が子供の頃に妖精に会って、友達の印として作って貰った物だ。だがもう私が持つような物では無い。すまないが、妖精に会ったらそれを渡してもらってくれんか」
凄く神秘的で、綺麗なペンダントだ。
これを売ったとして、相当な値がつくに違いないだろう。
っていけないいけない。
こんなことを考えない優しい人だったから、ロウルさんは妖精にこんな物を貰ったんだ。
しっかりと届けてあげなくちゃ。
「任せてください!必ず渡しておきますね」
私はそう言うと、部屋を出ようとする。
するとケイキが地図を差し出してとある場所を指差し、
「妖精は森林の真ん中の北寄りにいるとロウル様は仰ってた。それと妖精に会うと不思議な現象に合うと言われている。確かお前達はトウヤとかという男のパーティの仲間だろう?出かける際はそいつに一言断ってから行った方がいいぞ」
そんな忠告のようなことを告げられた。
不思議な現象?
あの人に断わっておいた方がいい程の、何かがあるのだろうか。
何があるかわからないこの世界のことだし、ちょっと不安になってくるな。
私達はロウルとケイキのいる店を出て、森林に行くにもそれなりの距離があるので、明日の朝から行こうという話になった。
そこで軽く一つクエスト済ませ、丁度夜になったので宿へと向かう。
寒い町で温まる為に、どうしても浴場の分のお金が欲しかったので三人でクエストへ行ったのだが、パロマの剣技とシルクの魔法が驚くほどに強く、私の回復魔法の出番が全く無いほどだった。
まだそんなにレベルも高くないのに、トゥロリテの町で一緒にパーティ組んだ年上の人らよりも圧倒的に強く感じる。
不思議なこともあるものだ。
「ふぅ、温まるわー」
「ですね。広々していて、トゥロリテの私の家のお風呂とはまた一味違います」
夕食を済ませ、私はシルクと一緒に湯に浸かる。
トゥロリテの方では浴場ではなく、宿の個室に小さな風呂があるだけなのでとても狭かった。
この町の宿のお風呂は、かなりの広さの浴場となっており、凄く伸び伸びとできる。
そして湯に浸かって疲れも取れるが、それよりも・・・・・・、
「やっぱりシルクは可愛いわね! ここもまだまだこんなに小さくて!」
「ちょ、やめてください! 押し付けながら触らないでください!」
私はシルクの背中に回り込み、シルクに悪戯をする。
シルクはもがくが、私より力のステータスが貧弱なので中々離れることができない。
「いいじゃないの。ほれほれー!」
「あっ、いい加減やめていただかないと、氷結魔法を放ちますよ」
私達はそんなやり取りをしながらじゃれ合ってた。
ああ癒されるな・・・・・・。
「ああ、逃げないでシルク!さあお姉ちゃんと一緒に――」
「もう限界です!『スノーウィンド』!!」
「ひいやああああああああああああ!!!!!」
とうとうシルクに氷魔法を吹っ掛けられ私は大声を上げる。
お湯なのに魔法を放たれた場所は氷ついている。
下位魔法なのに恐ろしい魔力だ。
「さっきミナキの悲鳴が聞こえてきたけど、隣で何をやってたの?」
「パロマは気にしなくていいです。この人が一方的に悪いんですから」
「さ、寒い・・・・・・。お風呂に入ったのに寒い・・・・・・」
私達はトゥロリテで預けた、トウヤの荷物の受け取りをしていた。
荷物といっても町で買い込んだ物は無い様で、衣類ぐらいしかない。
トウヤのカードを借りてくる際に、今日頼まれたことの話は済ませてある。
妖精なんているわけないだろ、すぐ帰って来いよと舐められてる様なことを言われてしまったが。
それにしても先程、直に魔法を浴びたせいで本当に寒い。
早く布団に入りたいな。
荷物を受け取って、私達は二階の部屋の前に来る。
一部屋にベッドが二つしかないので、2:2で分けなければいけない。
トウヤは言うまでもなく動けないので、一人はトウヤと一緒に寝ることになる。
もう二人は隣の部屋だ。
ではどういう風に分けるかって?
もちろん私はシルクと寝るつもりだ。
「えーっと、一部屋に二つしかベッドがないから部屋分けをしなきゃいけないんだけど、どういう風に分け――」
「私はパロマと一緒に寝ます。兄妹ですし、これが一番ですよね?」
シルクは珍しく子供らしい無邪気な笑顔でそう言ってくる。
あっさり先手を取られてしまった。
「わ、私はシルクと一緒に寝たいなー・・・なんて・・・」
「ミナキと寝たら何をされるか分かったものじゃないです。論外ですよ」
これは上手い具合に嫌われちゃってますね。
正論を言われてしまっては言い返せない。
仕方ない、ここは引き下がるか。
「そ、そうね。じゃ私がトウヤと寝るわ。明日は朝早くに出るつもりだから、夜更かししないようにね」
「「はーい」」
私はパロマとシルクに早起きする様に促す。
あれ、さりげなく結構お姉さんっぽいことしてたかも。
そんなことを考えつつ、トウヤのいる部屋をノックする。
「トウヤ、入るわよー」
すると突然ゴソゴゾと布団の音がする。
? 何をしているんだろうか。
やがて音が収まり、私は部屋の中に入る。
「――お、おうミナキか。荷物サンキューな」
トウヤは布団から顔だけ出した状態でお礼を言ってくる。
その声は昼よりも明るくなっており、顔色も良くなっている。
もしかして治った・・・・・・?
いやあれだけの重傷を負ったのに、こんなに早く治るのはおかしい。
「はいトウヤのカード。 トウヤ?もう調子は戻ったの?」
「まだ動けないよ。俺人間だぞ?そんなに早く動けるようになるわけないだろ」
トウヤは辛そうな顔になり、声も小さくなりながら反論してくる。
なんだ、私の思い過ごしだったのかな。
私の蘇生魔法では完全には治せないはずだし。
「そう、それなら安静にしてなさい。明日は早いから私はもう寝るわね」
そう言って私は部屋の電気を消す。
シルクの魔法の影響でとにかく寒いので、素早く布団を被る。
部屋は真っ暗になるが、隣のベッドのトウヤの、天井を見つめている顔がうっすらと見える。
パロマ達の部屋から物音を聞こえないことを察するに、二人もそのまま布団に入ったのだろう。
「なあミナキってさ、この世界の事どう思う?」
暗闇の中、トウヤのか細い声が聴こえてくる。
いきなりの質問に私は少し戸惑う。
どう思う、とは一体どういう意味だろうか。
楽しさ?居心地?
この世界ではゲームでしかできなかったことができるのは新鮮だし、楽しいとは思う。
しかし日本と違って、ここはモンスターが存在する危険な世界だ。
命を落とす人間も日本と比べたら圧倒的多いだろうし怖いとも思う。
戦争の激しい国に来たらこんな気持ちになるのだろうか。
そうだなあ・・・・・・。
「どう思うって言われても・・・・・・、私にはわからないよ。来れて良かったとも言えないし、損をしたとも思わないし。向こうの世界で命を終えて、この世界で生きていけるってそれだけのことだから、特に何も思わないよ。・・・・・・何でそんな質問をするの?」
唐突に質問をしてきたトウヤに問い返す。
少し曖昧になってしまったが、わからないものは仕方がない。
するとトウヤは少し間を開けて、
「いや、同じ違う世界から来た人としてちょっと気になってさ。特にこれといった意味はないよ」
ちょっとだけ笑いながらそんなことを言う。
そんなところよね。
でもこの世界への思いか・・・・・・。
確かに元々ここの世界にいない私とトウヤにしか、そこまで深くは考えられないことだ。
一見すると簡単な質問に見えて、複雑な世界なだけに結構奥深い。
ここの世界の人が日本に行けばあまりの平和さに驚いて、迷わずに『住みやすくていいところだ』、なんて言いそうなのは想像できるのだが。
「俺はこの世界に来てそれほど経ってないし、一度殺されたばかりだけどさ、それでもこの世界のことを気に入っているんだ。ここに来る前は魔法とか使って敵と戦ったり、仲間と一緒に冒険したり、そういうのに憧れていたんだ。だから俺はこの世界に来れてよかったと思ってる」
暗闇の中でもうっすらと見えるトウヤの顔は、真剣な顔をしていた。
余程この世界のことが好きなんだろう。
でもこういう生活に憧れていたんだ。
私にはその気持ちはちょっとわからないな。
「トウヤらしくていいんじゃない?考え方は人それぞれだし、こんな危ない世界でもそこまで活き活きしているのは羨ましいよ」
「そっか、お前は優しいな」
優しい・・・ってこの人いきなり何言ってるの。
ちょっと共感してあげただけなのに、大げさな気がする。
それに・・・・・・、
「優しいだなんて、そんな大したこと言っていないよ。それに優しいのはトウヤの方じゃない。あの時私を守ってくれたんだし」
私はちょっと笑いかけながら言う。
もしあの時私とトウヤの立場が逆だとしたら、同じことができていたかわからない。
そんな私と比べたら、トウヤの方がずっと勇敢で優しい人だ。
「ま、まあな。パーティの仲間を守るのはリーダーの役目だしな」
トウヤはカタコトになりながら慌ててそんなことを言う。
何だろう、照れてるのかな。
結構可愛いところもあるんだな。
面白いからちょっと追い打ちをしてみようか。
「私を守ってくれて、ありがとうトウヤ」
同い年の男子となんてあまり話したことは無いけど、悪戯でいじってみると結構面白い。
さあどんな返事が返ってくるのだろうか。
またカタコトになっちゃったりするのかな?
・・・・・・あれ、返事が来ない。
不思議に思いながら耳を澄ませると、寝息の様な音が聞こえてきた。
なんだ、寝ちゃったのか・・・・・・。
期待していたのに残念だ。
仕方ない、明日は早いんだし今日はこの辺にしてもう寝よう。
予定を変更して、次回から視点をトウヤに戻します。
この後ミナキ達は妖精に出会いしばらく姿を消すのですが、この後のことは気が向いた時に書いていきたいと思います。
視点が変わると大分感覚が違いますね・・・・・・。